SF(すこし不思議な)哲学入門

      2017/02/02

 

哲学の入門には様々な形がありえます。

このブログでも、プラトンやアリストテレスの話であったり、「タレスと井戸」の話といった哲学者の作品やエピソードを語りました。

それとは別に、法律を守るとはどういうことか、という点で哲学への入り口を示す記事も書いてみました。

今回は、まんがから哲学の扉を叩いてみたいと思います。

 

まんがで哲学に入門する

取り扱うまんが作品は藤子・F・不二雄『気楽に殺ろうよ』です。あらすじは以下の通り。

主人公(河口)が朝起きて新聞を取ろうとしたときに、突然背中から刃物で刺されたような凄まじい激痛を受ける。発作は5分程で収まるのだが、主人公は今いる世界に違和感を覚えることになる。読者は、主人公と病院の先生との会話で少しずつ分かっていくのだが、どうやら価値観が違う世界になってしまったらしい。しかし主人公はその事実を受け入れようとしない。そのため、どうも二人の会話がかみ合わない……。
最後は主人公もこの世界に順応して、文字通り「気楽に殺ろう。」と意気込む。しかしその時には、いつの間にか元の世界に戻っていたのだが、主人公はそれに気付かない。

Wikipediaより

 

このまんがの肝は、価値観の逆転です。サラリーマンが、ある日突然、全く価値観の違うパラレルワールドに移ってしまう。そこでは、性欲と食欲の持つ社会性が逆転していました。つまり、ご飯を食べることが、性行為をすることのように隠れて行われているんですね。

反対に性行為は、ご飯を食べるようにオープンに行われます。商店街も、食堂と歓楽街がひっくり返っていましたね。駅のホームで、赤ん坊をゴミ箱に捨て、新たに子作りを始める学生カップルがいました。これは個人的には非常におもしろい場面です。
「こんな社会だから、人口が多い。だから子どもを1人作ると、誰かを1人殺してもよい」という権利が認められている。これが題名の『気楽に殺ろうよ』の意味です。

 

主人公はひっくり返った世界に混乱するも、徐々に世界観を理解します。そして既に所有していた殺人の権利を、上司に使ってやろうと決意します。その翌日、ひょんなことでパラレルワールドから元の世界へ戻るのですが、来るべき殺人行為に興奮する主人公はそれに気づかず、意気揚々と出社する場面で話は終わります。

パラレルワールドに入った時は、主人公は玄関で、奥さんに『お弁当は!?』と大声で叫び、奥さんは大赤面します。しかし、ラストシーンでは、奥さんが主人公に玄関から『お弁当忘れてるわよ!』と大声で叫んでいるんですね。

このあたりは実に心憎い演出ですね。こういう印象的な場面があるかないかで、そのまんがの価値もかなり決定されます。印象的なシーンがない作品は、結局忘れられてしまいますが、こういった場面は、長く記憶に残り、時間が経っても作品全体が再評価されるのです。

 

食欲の目的は個体の生存です。つまり、自分だけのために行う行為とも言えます。一方で性欲の目的は子孫を残すことであり、パラレルワールドにおいては、食欲よりも性欲の方が、公益性の高い欲求であると考えられていました。

ここがこのまんがの優れたところであって、価値観の逆転の根拠を、最もらしい理由で説明しているんです。

 

『気楽に殺ろうよ』から学べる哲学とは

さて、そろそろ哲学の話をしましょう。このまんがが何か哲学をしているとすれば、哲学とは「価値観の点検」ということになります。普段私たちが当たり前だと考えている価値観(常識)は、本当に当たり前なのか? 揺るがないものなのか?

そういうことを少しまじめに考え直してみることが、哲学入門としてよく言われます。

 

ただし、疑うだけでは想像は膨らみますが、学問にはなりません。具体的な問題・テーマとして調査することで、哲学も学問になりうるのです。

例えば、
なぜ現代では食欲が開放的に、性欲が閉鎖的になっているのでしょうか?

 

現代の価値観は、パラレルワールドの価値観ほどに根拠があるものなのでしょうか?

 

過去の文明で、このパラレルワールドに似た価値観を有する文明はあったのでしょうか?

こうした問いを導き、調査することで、哲学は始まるのです。

では、次回はこうした具体的な問いを導き、調査した『哲学者』と言われる人物の考えたことを学んでいきましょう。

始めの哲学者はターレスというギリシア人だと言われます。この人が題材にしたのは当然まんがではなく、この世界そのもの・この宇宙全体についてでした。

 

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