戦前の英語参考書『ステップ英会話』が第1章からレベル高すぎ!

べっぴんさんを見ていて、谷村美月さん扮する明美さんが、英語の勉強として持っていたテキストが気になりました。

明美さんが持っていたテキスト『ステップ英会話』には実在のモデルがあります。

『英会話のステップ』という昭和11年発行の教科書がモデルにあたると思われます。

国立国会図書館デジタルコレクション – 英会話のステップ

簡単な紹介記事はこちら。目次なども書いています。

朝ドラ『べっぴんさん』に出た『ステップ英会話』の正体は高難度上級テキストだった

今回は、『英会話のステップ』をより詳しく読んでいきたいと思います。

下記クリックで好きな項目に移動

第1章は省略の話

原著に特に章立てはありませんが、はじめの見出しに「会話は斯うして角を取る」と銘打って、「省略」の話題が始まります。

のっけから「省略」の話題。受験英語・英文法の教科書では、「省略」の章なんか決まって最後に配置されているものです。

『英会話のステップ』。なかなか実践的じゃないか。(昭和11年なのだから、まだ敵性言語的な扱いじゃないんですね。)

最初に色々説明がありますが、要するに「わかっていることは言わなくてよい」というふうに教えています。

原著6ページに「一般例題」とありますので、見ていきましょう。

I は日本語と同様よく略される。

Thank you. Beg your pardon? はいづれも前に I が省略されてゐる。

A- Do you think you are going to pass the his exam?  歴史の試験にパスすると思ふ?(原文ママ。his はhistory を表すと思いますが、誤植なのかhisと略した言い方があるのか不明。)

B- (I) hope so. さう願いたいね。 →so は that I’ll pass the exam の代りである。

A- Maybe you’ll fall in the exam. 試験に失敗するかも知れん。

B- (I) hope not. さうありたくないね。

こんな感じですね。要するに I は要らないという例文です。

続けて I’ll, I’ve, I’m, Are you, Do you, Did you, Should you, You’d better, It’s, There’s はいちいち言わなくてよろしいという説明と例文が続きます。

著者のアーサ秋山氏、「英語は必ず主語をつける」という、わたしたちが必ず習うような、常識的な教えをいきなりぶっ壊していきます。

Do you とかも要らないの? と私はちょっと驚きです。

例文では (Do you) understand (me)? 解った? とあり、納得です。

あるいは

甲ーHow long (do you) stay here? 何日お滞在?

乙ー(I stay here) three days, I expect. 三日居ようと思ひます。

→汽車の着いた時などステーションで車掌(Porter)、又は赤帽(red cap)駅夫にHow long stay here? と聞けば”何分とまりますか”の意で直ぐ”Three minutes (三分です)の様な返事が来る。これを英作文式に How long does the train stay here? などと廻はらぬ舌を廻さうとすると無理が行く、此の骨を利用する事は会話上達の秘訣である。

ふつうに納得できる記述が続きます(笑)

さらにYou had better (~した方がよい)の記述について。

学校英語や英文法の参考書では、わたしたちはYou had better は高圧的な言い方、というふうに習っています。だからこの表現を習っても、実践的な英会話で使うのか疑問があります。高圧的な言い方なんかそもそも教えるなよと(笑)

ちなみに丁寧な言い方とすればCould you? とかWould you mind? などの言い方がありますね。

『英会話のステップ』の記述を見てみましょう。

此のYou had…を会話中に余り入れると窮屈な感じが出る。

It’s late now. Better go home. (もうおそい、家へ帰った方がいゝね)との如く you had をはぶき軽くやるのも中々味のあるものである。 had を省き You better go. の様に云ふ時も有る。以下いづれも前に you had を省略したものである。

A- Better think it over. よく考へた方がよい。

  You may get in trouble. 間違が起るよ。

B- Better hurry up. 急いだ方がよい。

    You will miss it. 間に合はないよ。(見逃すよ)。

C- Better leave everything to me. 萬事僕にまかせ給へ。

    I’ll fix everything for you. 巧く取計らうから。

Better だけで良いということですね。「中々味のある」って具体的にどういうニュアンスに伝わるのか、そこを書いてくれよと思わなくもありませんが。You had betterよりはくだけた、まさに「角が取れた」軽いニュアンスになるのでしょうか。

まとめ

アーサ秋山『英会話のステップ』。初っ端から省略の話を持ってくるという、かなり上級者向けの内容でした。

省略というのは、基本が分かった上でのものと通常は考えられます。だから高校英語の英文法でもたいてい最後のほうに記載されているわけです。

そんな省略を一番最初に持ってくるということは、基本的な英文法の知識(高校レベル)をすでに習得している方が、読者対象となるようなテキストであると思われます。

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