クセノフォン『ソクラテスの思い出』に見る歴史的ソクラテス




『ソクラテスの思い出』の著者クセノフォンは、ソクラテスやプラトンと同時代のアテナイ人です。本職は軍人でしたが著述家としての才能があり、軍記や哲学や教育論や政治論など多彩なジャンルでの作品を残しています。

 

歴史的ソクラテス(?)の言行録

本書はソクラテスの言行録のような作品です。ラテン語で「メモラビリア」などとも言われています。

プラトン対話篇におけるソクラテスとの違いは、クセノフォンの『思い出』には「歴史的ソクラテス」が書かれているという点にあるとされます。ソクラテスに関する資料は、それほど多く残っているわけではなく、残存資料の大部分がプラトンの対話篇です。しかしプラトンの描くソクラテスは、実際のソクラテス=「歴史的ソクラテス」と異なるのではないかという見解が一般的です。

 

しかしながら一部の学者にはこの「歴史的ソクラテス」と「プラトン対話篇におけるソクラテス」を分類することに大きな意義はないという考えもあるようです。

というのも、この時期、ソクラテスを主人公とする対話篇が多く書かれたという記録が残っているからです。対話篇の書き手は、ソクラテスの弟子が中心でした。キュニコス派・キュレネ派・メガラ派、いわゆる「小ソクラテス派」です。実際には残っていませんが、彼らの作品がたくさん書かれたという文言だけは残っています(ディオゲネス・ラエルティオスの『哲学者列伝』など)。これは「ソクラテス文学」などと現代で命名され、いわば流行として、ソクラテスを主人公とする対話篇がブームになったのです。

この流行のきっかけは何かというと、ソクラテスの裁判より10年20年ほどの後、後述するソクラテスへの告発状が、世間に流布されたことがきっかけでした。たとえるなら、週刊誌に「あのソクラテス裁判とは一体!? 原告の極秘資料を入手!!」みたいな感じでうわーっと広まった感じです。

プラトンの描いたソクラテスと、その他の人々が描いたソクラテスを切り分けるのは、哲学研究者側の傍若無人な振る舞いであると言えなくもありません。つまり、「歴史的ソクラテス」という概念は、プラトンを特別視する考えと指摘することができます。

挑戦的な言い方をすれば、プラトンも「ソクラテス対話篇ブーム」に乗っかった作家のうちの1人に過ぎない、と言うことも可能なのです。こうした理由から、「歴史的ソクラテス」なる概念に懐疑的な学者も存在するのです。

 

告発への反論と日常の言行を収録

さて、クセノフォン『ソクラテスの思い出』は全4巻に分かれています。(後世の区分けによるもの)

冒頭は、ソクラテスに対する告発状への反論となっています。ソクラテスが裁判にかけられたことは有名ですが、告訴状のようなものがあるわけです。その告訴状によると「ソクラテスは神々を敬わず、若者を教育した結果堕落させた」という内容です。

告発状への反論が終わった後は、ソクラテスを主役とする言行録の形式で書かれていきます。そのテーマは日常の言行録および教育論です。

そのような言行録を通じて、告訴の内容である「不敬神」および「若者を堕落させた」罪が、事実無根であることを証明しようと試みています。

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