『愛と偶然の戯れ』は、18世紀フランスの劇作家、マリヴォーの喜劇。
1730年、イタリア座で初演。
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マリヴォーのプロフィール
ピエール・ド・マリヴォー(1688-1763)。パリに生まれた小説家・劇作家。
フランス文学史では、一定の功績が与えられている。
『マノン・レスコー』のプレヴォーのように、恋愛心理の緻密な描写や、繊細で巧妙な会話・セリフ回りなどが評価されている。
マリヴォーは文体に特徴があり、わざとらしい気取った表現や文体を表すフランス語として「マリヴォーダージュ」という言葉が生まれた。
マリヴォー『愛と偶然の戯れ』 あらすじ
主な登場人物は4人。シルヴィア、ドラント、リゼット、アルルカン。
主役の女性シルヴィアは、ドラントという男と見合いをすることになる。
シルヴィアは相手の男をよく観察するために、下女のリゼットを身代わりとし、シルヴィア自身は下女に変装する。
一方、ドラントの方でも、同じような考えから、下僕に変装。下僕アルルカンに自分の役をさせる。
こうして、偽りのシルヴィアと偽りのドラントは、見合いに赴き、そこで意気投合してしまう。
2人はお互いを上流階級に属する人と信じているから、お互いに玉の輿を夢みる。
一方、本物のシルヴィアとドラントは、自分たちの見合い相手と信じている相手には失望する。
つまり、下女に扮したシルヴィアは、偽ドラントに失望する。そして下僕に扮したドラントは、偽シルヴィアに失望する。
しかし、本物のドラントは、相手の下女の美しさに、恋心を覚える。
そして、本物のシルヴィアは、相手の下僕の上品さに、好意を抱く。
しかし、2人とも身分違いの相手に対する恋に、自尊心の抵抗を感じながらも、お互いの恋心は強まっていく。
やがて、下僕アルルカンと下女リゼットが互いに本当の身分を打ち明ける。
ドラントとシルヴィアはそのことを知らずにいるが、ついにドラントが思い切って身分を明かし、シルヴィアに恋を打ち明ける。
シルヴィアはドラントの身分を知って喜ぶが、それ以上に、自らが下女と知って恋を打ち明けてくれたことに何にも増して喜びを味わう。
そしてシルヴィアも身分を明かし、2人はめでたく結ばれる。
マリヴォー『愛と偶然の戯れ』評価
19世紀フランスの文芸評論家であるギュスターヴ・ランソンは、本作を評し「非現実的な枠組みの中に、マリヴォーは自然な感情、真実な感情を盛り込んでいる」と評価している。
この喜劇のおもしろさは、シルヴィアとドラントが、自尊心に妨げられて本心を現そうとしない時の、2人の微妙な会話にある。
互いに相手の気をひこう、相手の気持ちを探ろうとする、微妙な会話の中に、繊細な感情の揺れ動き・あやが見事に表現されている。
ちなみに尾崎紅葉による翻案『八重襷』(やえだすき、1898)がある。