「精神性のあるまんが」を読みたい。
- たとえば手塚治虫『ネオ・ファウスト』とか。
- 石森章太郎の『リュウの道』とか。
- 青木雄二『ナニワ金融道』とか。
さらに「読むだけで勉強になるまんが」を読みたい。
せっかくなら、文学や哲学のことを、まんがで楽しく学びたいですよね!
そう思った高等遊民は、書店のまんがコーナーに足を踏み入れた。
まんがコーナーなど10年以上立ち入りしていない。
というのも、私は「新刊でまんがを買うという経験」が、かつて一度もないからである。
小学生の頃、新品でコミックを購入している同級生がいた。
「金を湯水のごとく使っている」という印象を受けたものであった。
そこでこのような作戦を立てた。
- まんがの背表紙・つまりタイトルを、本屋で一覧する。
- 興味の惹かれる題名をもった作品を、立ち読みできる古本屋(ブックオフ)で読む
完璧だ。
いざ実践してみた結果を、ぜひ一緒にご覧頂きたい。
その1 嘘つきパラドックス
まずはじめに見つけたのは、『嘘つきパラドックス』というタイトルであった。
「嘘つきのパラドックス」とは、哲学をかじったことのある者にとっては、馴染みの熟語である。
「これは何か哲学的なものを扱っているまんがに違いない!」
そう思った私は、早速古本屋で読んでみた。
するとなんとただのえっちな本であった。
「ただの」というのが重要である。
えっちな本でも、非常に深い内容がある可能性もある。
そういう作品は「ただの」ではない。
しかしこの作品がえっちな作品である理由は違った。
読者に一寸の喜びを提供する以上のものは何ら含んでいないように思われた。
ゆえにただのえっちな本であった。
残念であった。(まあ表紙を見た段階で見当がつくのだが)
その2 無邪気の楽園
つづいて『無邪気の楽園』というタイトルが目についた。
無邪気の楽園。すぐさま創世記が連想されよう。
「これは何か精神的・宗教的なものを扱っているまんがに違いない!」
そう思った私は、早速古本屋で読んでみた。
するとなんと恐るべきえっちな本であった。
恐るべきというのは、作者の妄想と願望の世界が展開されている。
しかもそれが、「読者にとっても受け入れられるように構成されていること」であった。
何を言っている高等遊民!?(ハァハァ)
つまりだ、このまんがというのは
さえない童貞男が、小学生に戻ってしまった。
そこでまだ性に目覚めていない、かわいいクラスメイトと「ラッキーなこと」をやってしまう
という内容である。
恐るべし。
しかし絵が圧倒的に綺麗。女の子がかわいい。
そのせいで、このおちゃめな内容の話を、読者に受け入れさせてしまう。
この点で、「無邪気の楽園」は、恐ろしい作品である。(その点は非常に高く評価したい!)
しかし、私の期待する「精神的な内容」は、なんら含んでいなかった。
残念であった。(まあ表紙を見た段階で見当がつくのだが)
その3 妹のジンテーゼ
- 精神的なまんがを読みたい。
- 文学・哲学に役立つまんがを見つけたい。
それなのに、ことごとく、妙なまんがを見つけてしまう。
「自分は単に喜び系まんがを読みたいだけなのではないか?」
このような恐るべき懐疑が、ぼくの心を支配した。
というのも、本を開く前に、表紙と出版社はわかる。
出版社は明らかに「喜び系の内容」を含んだ作品を多く連載する雑誌であるとわかる。
ヤングアニマルとか。
さらに、表紙も女の子が書いてある。
(ちなみにリンクをクリックすればamazonだかのページで表紙が見られる。)
ぼくの目は、懐疑への確信を裏付けるかのように「新たなタイトル」を見つけるのであった。
「妹」が確実に余計である。
しかし、ジンテーゼといえば、すぐさまヘーゲル・マルクス的な弁証法が想起される。
「これは何か、歴史哲学的なものを扱っているまんがに違いない!」
ぼくは祈るような気持ちで古本屋へ趣いた。
えっちな本ではなかった!
ぼくは狂喜乱舞した。
しかし内容を見ると、ビジネス書によく出てくる思考法(問題解決)を、まんがで紹介しているだけであった。
アイデアは悪くない。いや、むしろ面白い。
しかし、文学・哲学的な内容は含み得ないまんがであった。
上に掲げたえっちな本も、この本も、すべて「世俗的・物質的な欲求の表現」にすぎない。
「人間とは何か?」というような問いかけが、全くない。
残念であった。
ついに文学まんがを見つけた! 草子ブックガイド
やはり、精神性のある現代まんがは「福本伸行の作品」しかないのか?
(関連記事)福本伸行アカギ感想|自ら選んだ生き方を全うする人生とは?
そう考え始めていた私に、そのまんがはついに現れた。
主人公の女の子(草子)は、家庭環境も悪く、自分の世界に閉じこもっている。
その子が、文学を読むことを通じて、他人や外の世界とつながりを持ち始めてゆく――。
一話ごとに扱う作品が違う。
1話目は『ロビンソン・クルーソー』。
その後、
- カポーティ
- 中島敦
- 西行
と、文学作品の読みどころを紹介している。
しかも、絵が素晴らしい。重厚で圧倒的。それでいて繊細でスッキリしている。
そしてストーリーも良い。
草子も名作文学について、自分なりの感じ方をして、豊かな世界を築き上げていく。
こんな時代だからこそ、文学は私たちの糧となり力となる。
これぞ「精神性のあるまんが・文学の勉強になるまんが」である!
もちろん、えっちな本ではまったくない。
残念であった。
残念だった方には、ラブコメのおすすめまんがを紹介。