「汚れっちまった悲しみに」を精読します。
たった16行の全文を読んでから、1行1行詳しく読みます。
まずは全文を。
「汚れっちまった悲しみに」全文
汚れつちまつた悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れつちまつた悲しみに
今日も風さへ吹きすぎる
汚れつちまつた悲しみは
たとへば狐の革裘
汚れつちまつた悲しみは
小雪のかかつてちぢこまる
汚れつちまつた悲しみは
なにのぞむなくねがふなく
汚れつちまつた悲しみは
倦怠のうちに死を夢む
汚れつちまつた悲しみに
いたいたしくも怖気づき
汚れつちまつた悲しみに
なすところもなく日は暮れる……
ちなみに中也の作品はamazonのkindleで読むのが一番楽です。(無料ですし。)
山羊の歌。「汚れちまった悲しみに」以外にも、たくさん読めますよ。
もとが青空文庫なので、無料。
しかもsafariやchromeなどのスマホブラウザで読むより圧倒的に読みやすいです。
注釈・解説つきの集英社文庫版(kindleで300~400円程度です。)
小説家町田康による朗読と、解説です。2分くらいなのでぜひご覧ください
下記クリックで好きな項目に移動
中原中也の作風3つの特徴:恋愛詩・述志詩・歌謡/童謡調
![](https://kotoyumin.com/wp-content/uploads/2018/03/poem_1520691648-1024x576.jpg)
昭和の詩人、中原中也の最も有名な歌と言えば「汚れっちまった悲しみに」でしょう。
これは処女詩集『山羊の歌』(昭和9年出版)に収録された作品です。
中原中也は夭逝したため、生涯で詩集は2つだけしか出版されていません。
それがこの『山羊の歌』。
もう一つは、中也の死後出版された『在りし日の歌』です。
まずは中也の作風なども確認しながら、本文をじっくり鑑賞していきましょう。
「中也のほかの詩も読んでみたい」方は以下。
素晴らしい詩を、多すぎるほど紹介しています。
(関連記事)中原中也『山羊の歌』『在りし日の歌』内容解説|天才詩人の名作
中原中也の詩風の特徴は多くあります。たとえば、
- 恋愛詩:恋の苦しみの告白
- 述志詩:生の理想を歌う信条告白
- 歌謡調・童謡調:反復が多くリズムの良い、親しみやすい形式
というような特徴があります。
「汚れっちまった悲しみに」は、上記3つのうち。
「恋愛詩と歌謡調」を内包する作品であると言えます。
「述志詩」というのは、作家の大岡昇平の評論によるものです。
ちなみに大岡昇平の恋愛小説も、めちゃくちゃおもしろいですよ。
戦後間もない東京国分寺が舞台になっていて、息をのむような描写の美しさ。
川や森の爽やかで涼しい景色と肌触りが、目の前に広がってくるような気持ちになります。
『武蔵野夫人』という作品です。
あらすじをご覧になって、こちらに戻ってきてください。
中原中也「汚れっちまった悲しみに」を1行ずつ解読する
![](https://kotoyumin.com/wp-content/uploads/2018/03/read_1520691710-1024x682.jpg)
ここからは、「汚れっちまった悲しみに」詳細解読していきます。
「汚れっちまった悲しみに」の形式は、4連16行です。
1行ごとに「汚れつちまつた悲しみ」を反復。(=畳句、じょうく)
リズミカルで暗唱しやすい調子を整えています。
この詩の生命は、もちろんこの「8回も反復」された「汚れつちまつた悲しみ」にあります。
しかし、その間にある詩句の意味も、考えてみたいと思います。
ところで、汚れっちまったのは「悲しみ」です。
「哀しみ」じゃないんですね。
これ、意味の違いをいくつかの辞書で当ってみました。
説明は下記でしましたが、中原中也が「悲しみ」という字を選んだのは、辞書的にも完全に正しいことがわかりました。
よかったら、ご覧ください↓
第1連 小雪と風
![](https://kotoyumin.com/wp-content/uploads/2018/03/snow_city_1520691785-1024x682.jpg)
1連ごとに考えましょう。
汚れつちまつた悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れつちまつた悲しみに
今日も風さへ吹きすぎる
「小雪」「風」と自然の冷たさや寒さ。
悲しみを表現しています。
そしてそれを「今日も」という。
悲しみの現在性・リアルタイムでの悲しみであることが読み取れます。
第2連 狐の革衣
![](https://kotoyumin.com/wp-content/uploads/2018/03/fox_1520691809-1024x683.jpg)
汚れつちまつた悲しみは
たとへば狐の革裘
汚れつちまつた悲しみは
小雪のかかつてちぢこまる
狐の革衣とは、貴重なものの意味です。
古代中国の戦国時代、白い狐の革衣は、第一級の高級品だったそう。ミンクのコートみたいなもんですか。
特別に書いてありませんが、
「白い」狐の革衣のように貴重なものを「汚れる」ことによって失ってしまった、
という意味であると推測されます。
しかも「皮」ではなく「革」。
「革」とはなめした皮です。
つまり、「狐の白い毛が抜けてしまっている状態」を指します。
第3連 けだいのうちにしを夢む
![](https://kotoyumin.com/wp-content/uploads/2018/03/desperate_1520691873-1024x666.jpg)
汚れつちまつた悲しみは
なにのぞむなくねがふなく
汚れつちまつた悲しみは
倦怠のうちに死を夢む
第3連に至って、内面の心情を歌います。
それまでは自然の冷たさや、比喩でしたね。
倦怠(ケダイ)とは、倦怠(けんたい)と懈怠(けたい)を重ねた表現と言われています。
倦怠とは飽きること、懈怠とは行為をなまけることです。
そして何を望みもせず、死を望むのでもなく、死を夢みている状態。
第4連 なすところもなく日は暮れる
![](https://kotoyumin.com/wp-content/uploads/2018/03/sunset_1520691906-1024x682.jpg)
汚れつちまつた悲しみに
いたいたしくも怖気づき
汚れつちまつた悲しみに
なすところもなく日は暮れる……
最後の第4連において、詩中の人物の内面の心情と、外界の現実との交錯点が現れます。
自らの倦怠に怖気づいたのか、あるいは「夢みた死」に怖気づいたのか。
いかに自己の内面に沈潜した人物であっても、どうしても外界の時間は経過する。
そして夕暮れは彼に容赦なく影響を与えてきます。
「日暮れ」をある種の救いと受け取るのか?
それともやはり悲しみの亜種と受け取るのか?
解釈が分かれるところでしょうか。
「そんなもの救いなわけないんじゃない?」
と思うかもしれません。
でも、救いと解釈する根拠もあるのです。
『山羊の歌』収録「いのちの声」における日暮れ・夕方
![](https://kotoyumin.com/wp-content/uploads/2018/03/sunset_1520691939-1024x577.jpg)
この日暮れや夕方という言葉。
『山羊の歌』での中也最後の詩である「いのちの声」にも言及があります。
ゆふがた、空の下で、身一点に感じられれば、万事に於て文句はないのだ。
しかもこれは、「いのちの声」の最終行。
『山羊の歌』最終詩作品の最終行です。
そこで「汚れっちまった悲しみに」の最終行における「日は暮れる」と親和性のある句が現れています。
「身一点に感じる」を正確に解釈する必要はあります。
しかし「なすところもなく日は暮れる」と同一視はできなくとも、類似性は明らかです。
小雪が降りかかっているのだから、空の下にもいます。
「汚れっちまった」ことをこんなに嘆いているのに、「文句ない」わけないだろ!
という解釈はもちろん正当です。
こんな風にも素人解釈もできるという一例まで。
(関連記事)プレバト俳句の過去の歴代最高点ランキング!2位は又吉、1位は誰?
名詩を暗記しよう「汚れつちまった悲しみに」はすぐ覚えられる!
詩を暗記・暗唱できることは、重要なことでしょう。
詩は、声に出して読まれることが、本来的なあり方です。
特に中原中也の歌謡調・童謡調とも言える小気味よいリズミカルな詩。
「絶対に声に出すべき」です。
七五調だし、暗記もしやすいので、覚えてしまうといいでしょう
「汚れちまった悲しみに」暗記のコツ
1連4行×4セットに分類して、1連ごとにキーワードを覚えておく。
- 1連は冷たい自然「小雪」「風」
- 2連は比喩。「かわごろも」を思い出せばいける。
- 3連は内面。望みなく「死を夢む」
- 4連は外界との交錯。「怖気づく」「日は暮れる」
2分もあればとりあえず覚えられますよ。
そして1日3回くらい思い出す時間を作れば、楽勝です。
3日も続ければ、すらすらと口をついて詩句が出て来るようになります。
ちなみに暗記といえば、1000ページの本を丸暗記する学者のエピソードがあります。
昔ばなしの仙人のような、めちゃおもしろい話です。
(関連記事)1000ページの本を1週間で暗記する学者とは何者?
まとめ 『山羊の歌』『在りし日の歌』の名作もぜひ読んでみて
中原中也「汚れちまった悲しみに」の意味と解説をご紹介しました。
中原中也の歌は美しいです。
しかも現代の私たちにも、分かりやすい。
文学を暗記をするって、楽しいですよね。
寒い冬。風の強い日。
ぼそっと口ずさんでください。
「ああ、今日も風さえ吹きすさぶ。」
文学は、何の役にも立たない知識かもしれません。
でも、寒い冬に、あなたの心を温めてくれる。
そんな効果があります。それが生きていく中で、大事なんですよね。
この記事を最後まで読んでくださったあなたが、
「何か本でも読もうかな」と思ってくださったら幸いです♪
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