大岡昇平『武蔵野夫人』は貞淑な妻が夫以外の男性を恋してしまう話

      2017/03/01

 

戦後日本文学の傑作名著、大岡昇平『武蔵野夫人』(1950)を紹介します。

 

「やさしくてひかえめなかわいらしい女の子が、そこまで満足のいかない結婚をしたけれども、結婚してすぐ別の男に恋してしまったらどうするんだろう……w フヒw フヒヒヒww」などと妄想していたら、そのシチュエーションで完全にやってくれているのがありました。

 

それが大岡昇平の『武蔵野夫人』です。

 

 

大岡昇平について

 

大岡昇平は1909年、東京都出身の小説家です。1932年に京大の仏文科を卒業し、国民新聞社や酸素を扱う会社などに勤務しながら、フランス文学のスタンダールの翻訳と研究を続けていました。

1944年、35歳の大岡昇平はついに大東亜戦争に召集され、フィリピンに赴きます。敗戦直前にアメリカ軍の捕虜となったことで、生還することができました。ちなみに捕虜になったときの記録として『俘虜記』(1948)を発表し、戦争文学の傑作と認められ、第一回横光賞(横光利一賞)を受賞しました。

 

 

『武蔵野夫人』の舞台「はけ」について

↑新潮文庫に収録された地図↑

 

書き出しはこのように始まります。

土地の人はなぜそこが「はけ」と呼ばれるかを知らない。

「はけ」とは地名ですが、具体的に何を指すのか、はっきりとした定義は与えられていません。そのようなおぼろげな印象のまま物語が進行するのもこの作品の魅力です。

東京は国分寺・小金井の近郊。古代武蔵野のなごりをとどめ、湧き出る清浄な地下水が高きから低きへと流れている古い段丘。それが『武蔵野夫人』で提示された「はけ」のイメージです。

 

 

『武蔵野夫人』の登場人物

 

登場人物は以下の通りです。wikipediaより借りています。

秋山道子(29歳)
  信三郎の娘。18歳で秋山と結婚。
秋山忠雄(41歳)
  道子の夫。私立大学のフランス語教師。専門はスタンダール。30歳の時に道子と結婚。
大野富子(30歳)
  英治の妻。大阪に嫁いだ姉がいる。美人で、男性に対して自らの魅力をアピールすることが得意。「コケットリイ(媚態)」な魅力と表現される。
大野英治(40歳)
  富子の夫で、道子のおじさん。石鹸工場を経営する戦争成金。
宮地勉(24歳)
  道子のいとこ。大学生。信三郎の弟東吾と先妻の息子。1943年に学徒召集でビルマへ行ったきり消息を絶っていたが、信三郎の死後復員。父の遺産で気ままな学生生活をしていたが、富子の頼みで雪子の家庭教師になり、秋山家に下宿、道子と接近する。
宮地信三郎
  道子の父親。元鉄道省事務官。5人兄弟の三男として生まれ、退職後は「はけ」の家で暮らす。妻の民子との間には2男1女が生まれたが、道子以外の息子は2人とも夭逝している。
末弟の東吾は参謀大佐まで出世したが、終戦の翌日拳銃自殺を遂げている。
大野雪子(9歳)
  大野と富子とのあいだの娘。勉が家庭教師になる。

wikipediaを一部編集

 

主人公は秋山の夫、道子です。見たとおり、夫の秋山とはずいぶん年が離れています。

これまで恋をしたことがなく、夫に男性的魅力を感じることのできない道子は、夫婦のあり方について疑問を感じながらも、これが夫婦生活なのだと自分を納得させていました。

そこへ、いとこの勉が復員し、秋山夫婦のもとに下宿を開始します。この勉が、道子と富子の気持ちに色々と影響を与えることになります

 

 

道子の夫、秋山に剋目せよ!

 

さて、わたくしとしては「フランス文学の研究者」である秋山に注目せざるを得ません。

秋山も秋山で、富子(道子のおじさんの英治の奥さん)の魅力に惑わされ、なんとか気を引こうとあれこれ策を凝らします。

フランス文学の知識とか、そういう話によって富子の気を引こうとするのですが、まあ全然富子には引っかかりません。これは富子が悪いというよりも、秋山自身に魅力が欠如しているという描写です。

 

その中で最もみっともないのは「一夫一婦制は不合理」という思想を富子も列席するお酒の場で披露する場面です。

 

聞きかじったこの「一夫一婦制の不合理」という言説を、本まで借りて一生懸命復習して、富子の前で披露する。そうやって、富子に観念の上でも接近しようと試みるのです。

わかりますかねー。こいつはなかなか本物でしょう?(笑)

彼はスタンダールの研究なんかしているだけあって、すけべ心があります。それなりに女性と交わりたいという思いもあります。そういう店に通いたい気持ちもあるのですが、「病気が移るかもしれない」という理由でそういう店に行くのを躊躇しているという。

 

こいつはなかなか本物でしょう?

 

わたくしとしてはどちらかというと完全に秋山タイプの人間なので、危機感を覚えました。

ということで、大岡昇平の『武蔵野夫人』を読むときは、ぜひ秋山に注目して読んでみてください。

 

なかなかほんものです。

 

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