アリストファネスとは、古典期アテナイで活躍した喜劇作家です。辛らつな風刺劇を演じて人気がありました。
『雲』というのは、「ソフィストのソクラテス」が出てくる喜劇です。今回はそのごく簡単な紹介をしたいと思います。
あらすじ
主人公のお父さんが借金をして、それをチャラにしたいので、ソフィストの下で詭弁(きべん)を教わろうと息子をソクラテスの下に送った、というあらすじです。
むむ? アテナイでは、借金を口八丁でチャラにできたのか? いやあどうでしょう。おそらく、アリストファネスのギャグだと思います。ソフィストというのは口がうまい連中だ、というイメージを市民は抱いていたので、それをギャグにしたのだと思います。
息子と弟子の会話
さて、ソクラテスのもとへ向かった息子は、ソクラテスの弟子に出会います。
息子が弟子に話しかけると、弟子は急に怒ります。(以下は正確な引用では全くありません)
弟子「急に話しかけるな! 思索が逃げた!」
息子「すみません。しかし、何について思索していたのですか」
弟子「うむ、これは我々の間に伝わる秘儀である!」
息子「おお、すごい。何ですか教えてください。」
弟子「教えてやろう、蚤(のみ)の跳躍力を測っているのだ。」
息子「え? 蚤? なんですか?」
弟子「教えてやろう、ある時な、同じく我らがソクラテスと、同門の弟子カイレポンが談笑していたときだ。眉毛ボーボーのカイレポンの眉毛からな、はげのソクラテスの頭に蚤が飛び移ったのだ。
これにソクラテスは驚いてこう言ったのだ。『一体、蚤とはどれだけの跳躍力を持っているのだろう! これは調べてみなくてはなるまい! と。どうだ。すごいだろう。」
息子「はあ。どうやって調べるんですか。」
弟子「うむ。これは秘儀であるぞ。蚤の足の大きさを測ればよいのだ。」
息子「ほう。どうやって測りましょうか。」
弟子「うむ。これは秘儀であるぞ。あらかじめ溶けたロウに蚤の足を入れて、固めるのだ。いわば、蚤のブーツをロウで作り、大きさを測った後に、跳躍飛距離と比べるのだ。」
息子「ああ、ソクラテスとはなんて賢い方なのでしょうか。」
「それらしい」言説こそソフィスト
蚤の跳躍という、どうでもいいようなことを「秘儀」と呼び、しかもその探究方法が「蚤の足の大きさを測る」という奇想天外なものです。それが観客の笑いを誘います。
しかし、アリストパネスの言っていることは、でたらめなのですが、何となく合理的といえば合理的に聞こえもします。足のサイズと、跳んだ距離で、跳躍力を測るというのは、たとえば足のサイズが25センチの人が、2m50cm跳んだら、10倍ということになります。そのように考えれば、蚤は何千倍も跳んでいるのであって、大変な能力を有していると、言えなくもない。
当時のアテナイ市民たちは、こういう「ありそうな」あるいは「それっぽい」話をして、人々をなんとなく納得させてしまうのが、ソフィストのうさんくさい弁論術だ、というふうに思っていました。
蚤の跳躍を測るという、荒唐無稽のシチュエーションの中にも、探究の方法というところだけそれっぽくして、ソフィストっぽさを演出する。ギャグ作家として、かなりのレベルのように思います。
アリストファネスは時事・芸能ネタでコントをやっている
アリストファネスのギャグは風刺を基軸にしたもので、そのレベルはかなり高いです。当時の事情を知らないと笑えません。
現代で言えば、当時のアテナイ市民たちがみんな知っている時事・芸能ネタでコントをやっているといったところです。
これからお笑い番組を観るときは、アリストファネス的な漫才・コントをやっている芸人を探してみてはいかがでしょうか。