漱石こころで先生がKを下宿に引き取った理由は?お嬢さんを認めさせたいエゴイズム?

こころ 先生がkを下宿に引き取った理由って?

どうしてKは、自分の住んでいる下宿にKを連れてきたのでしょうか?

そんなことさえしなければ、みんな幸せでした。(物語は生まれませんが・・・)

Kが下宿に来なければ、先生・お嬢さん・Kの三角関係は、発生しませんでした。

私はKといっしょに住んで、いっしょに向上の路みちを辿たどって行きたいと発議ほつぎしました。私は彼の剛情を折り曲げるために、彼の前に跪ひざまずく事をあえてしたのです。そうして漸やっとの事で彼を私の家に連れて来ました。

こんなふうに先生は頼み込んでまで同居することを望んでいたのです。

しかし、Kを連れてきた途端、お嬢さんをめぐって、先生の内面で葛藤が生じます。

夏目漱石『こころ』(amazonで無料で読めます)

Kを下宿に連れてきた理由は?

※原文は青空文庫から引用しているので、ルビが入り込んでいます。

1 同郷の親友だから

私はこのKと小供こどもの時からの仲好なかよしでした。小供の時からといえば断らないでも解っているでしょう、二人には同郷の縁故があったのです。

我々は実際偉くなるつもりでいたのです。ことにKは強かったのです。寺に生れた彼は、常に精進しょうじんという言葉を使いました。そうして彼の行為動作は悉ことごとくこの精進の一語で形容されるように、私には見えたのです。私は心のうちで常にKを畏敬していました。

2 経済的に困窮していたから

時間を惜しむ彼にとって、この仕事がどのくらい辛かったかは想像するまでもない事です。彼は今まで通り勉強の手をちっとも緩めずに、新しい荷を背負しょって猛進したのです。私は彼の健康を気遣きづかいました。しかし剛気ごうきな彼は笑うだけで、少しも私の注意に取り合いませんでした。

3 Kが神経衰弱していたから

Kはただ学問が自分の目的ではないと主張するのです。意志の力を養って強い人になるのが自分の考えだというのです。それにはなるべく窮屈な境遇にいなくてはならないと結論するのです。普通の人から見れば、まるで酔興です。その上窮屈な境遇にいる彼の意志は、ちっとも強くなっていないのです。彼はむしろ神経衰弱に罹かっているくらいなのです。

4 Kを人間らしくするため

私は何を措いても、この際彼を人間らしくするのが専一だと考えたのです。いくら彼の頭が偉い人の影像イメジで埋ずまっていても、彼自身が偉くなってゆかない以上は、何の役にも立たないという事を発見したのです。私は彼を人間らしくする第一の手段として、まず異性の傍に彼を坐わらせる方法を講じたのです。そうしてそこから出る空気に彼を曝さらした上、錆さび付きかかった彼の血液を新しくしようと試みたのです。

これは、「友情であると同時に悪意である」と文学者の柄谷行人氏は述べています。

5 Kにお嬢さんを認めさせるため(!)

頼み込んでまで下宿に連れてきた理由はなんでしょうか?

それを社会学者の大澤正幸氏はこのように考察しています。

「先生がKを読んだときに密かに先生を動かしていた衝動、先生自身も自覚していない衝動は、Kにお嬢さんを見せ、お嬢さんを評価させたい、ということだったのではないか。
お嬢さんは、自分の欲望の対象になり得るか。お嬢さんは、自分の愛に値するのか。先生は、Kの評価を通じて、このことを確認しようとしているように見える。
だが、ここには、悲劇への胚子がある。Kがお嬢さんを認めるという事は、とりもなおさず、Kがお嬢さんを愛する、ということだからだ。」

大澤先生の視点はおもしろくて、なるほどと思うところがほかにもありました。

たとえば大澤氏は、次のようなことを論じています。

  • じつは、先生が、Kを助けるために、下宿に連れてきてやったんじゃない。
  • Kが、先生の願望に答えるために、仕方なしに来てあげたんだ。

これ、私としては、かなり面白いです。確かに、そうかもしれない。

Kは、孤高です。神経衰弱に陥って、意志が弱いとしても、いざとなれば、自らの始末をつけられる男です。お嬢さんの住む下宿に、先生と同居することに決めたのは、そんなKの先生に対する「友情」であった、ということになりますね。非常に面白いです。

この説は、社会学者の作田啓一氏も非常に近いことをおっしゃっています。

「Kを連れてきた理由は、 苦学生の彼の生活を少しでも楽にしてやろうという友情からだ、と先生はその遺書で語っています。しかしこの説明だけでは何かよくわからないところが残ります。
私の解釈では、先生は、たとえ策略の生贄になったとしても、お嬢さんが結婚に値する女性であることを、尊敬するKに保証してもらいたかったのです。そしてまた同時に、このような女性を妻とすることをKに誇りたかったのです。」

「Kは先生にとって判断を仰ぐ手本でした。Kがこの娘を好ましく思うことで、先生の対象選択がはじめて正当化されるのですから。
しかしまたKは先生のライバルともなり得るでしょう。Kが彼女を好ましく思うようになれば、先生と彼女を争うことになるのですから」

奥さんはなぜKの同居に反対したの?

いっぽう、奥さん(お嬢さんの母)は、Kを同居させるという先生に、結構反対しますね。

奥さんは私のこの所置に対して始めは不賛成だったのです。下宿屋ならば、一人より二人が便利だし、二人より三人が得になるけれども、商売でないのだから、なるべくなら止よした方が好いいというのです。

そんな人を連れて来るのは、私のために悪いから止せといい直します。なぜ私のために悪いかと聞くと、今度は向うで苦笑するのです。

これは、

  • 先生がお嬢さんを好いていることが分かっていたから。
  • Kがお嬢さんを好きになることが分かっていたから。

こういうことですね。

作品中で、もっとも俯瞰力の高い人物が、お嬢さんのお母さんでした。

まとめ

『こころ』先生がkを下宿に引き取った理由を考察しました。

  • 1 同郷の親友だから
  • 2 経済的に困窮していたから
  • 3 Kが神経衰弱していたから
  • 4 Kを人間らしくするため
  • 5 Kにお嬢さんを認めさせるため

5番は、やっぱりプロの文学者の考えることは違うな~という新鮮な面白さがありましたね。

参考になれば幸いです。

主な参考文献

高等遊民のnoteの紹介

 

noteにて、哲学の勉強法を公開しています。

 

現在は1つのノートと1つのマガジン。

 

1.【高等遊民の哲学入門】哲学初心者が挫折なしに大学2年分の知識を身につける5つの手順

2. 【マガジン】プラトン『国家』の要約(全10冊)

 

1は「哲学に興味があって勉強したい。でも、どこから手を付ければいいのかな……」という方のために書きました。

5つの手順は「絶対挫折しようがない入門書」から始めて、書かれている作業をこなしていくだけ。

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3か月というのは、非常に長く見積もった目安です。1日1時間ほど時間が取れれば、1ヶ月くらいで十分にすべてのステップを終えることができるでしょう。

ちなみに15000文字ほどですが、ほとんどスマホの音声入力で書きました。

かなり難しい哲学の内容でも、音声入力で話して書けます。

音声入力を使いこなしたい方の参考にもなると思います。

 

2はプラトンの主著『国家』の要約です。
原型は10年前に作成した私の個人的なノートですが、今読んでも十分に役に立ちます。
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