『嫌われる勇気』の岸見一郎氏はギリシア哲学研究者なので実績を調べてみた

      2017/03/01

アドラー心理学の紹介書である『嫌われる勇気』が話題になっています。

ドラマ化もされ、著者の一人である岸見一郎さんはメディアにも注目されるようになりました。

そして2017年1月、講談社現代新書より『幸福の哲学――アドラー×古代ギリシアの知恵』という新書を刊行しました。

 

岸見一郎氏によれば、アドラー心理学は、ギリシア哲学の考え方や思想をベースにしているとのこと。

そして岸見氏も京都大学大学院でギリシア哲学を研究した経歴を持ちます。

 

岸見氏がアドラー心理学の紹介者であるとともに、ギリシア哲学の研究者でもあることには、個人的に興味を覚えました。

そこで、岸見氏の研究者としてのプロフィールをできる限り調べてみました。

 

岸見一郎氏の研究者としてのプロフィール

wikipediaより、岸見一郎氏の経歴を確認しました。

京都府生まれ。1987年、京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。
京都教育大学教育学部、甲南大学文学部、京都府医師会看護専門学校、奈良女子大学文学部非常勤講師、前田医院精神科勤務、
京都聖カタリナ高等学校 看護科(心理学)非常勤講師。日本アドラー心理学会認定カウンセラー。日本アドラー心理学会顧問。
専門の哲学(西洋古代哲学、特にプラトン哲学)と並行して、1989年からアドラー心理学を研究。
2013年に刊行した古賀史健との共著『嫌われる勇気』が100万部を超えるベストセラーになる。

出典:岸見一郎 – Wikipedia

 

京都大学博士課程を、1987年に満期退学。その2年後にアドラー心理学を研究したとあります。

そしていくつかの大学で講師を務めながら、現在は高校の非常勤講師をされているようです。

 

さて、気になるのは、ギリシア哲学の研究者としての実績です。

 

論文ポータルサイトciniiで岸見氏の論文を調べてみた

インターネット上での論文検索なら、まずはcinii。

cinii「岸見一郎」の検索結果

 

論文検索「岸見一郎」で39件ヒットしました。そのうち最新の37件は、すべてアドラー心理学関係。

最後の2件だけ、ギリシア哲学関係の著作でした。2件と言っても、そのうち1件はアドラー心理学の研究雑誌なので、本当にギリシア哲学の研究は1本のみですね。(cinii上では)

その1件がこちら。

CHARLES, D., Aristotle’s Philosophy of Action, Pp. xi+282, Cornell University Press, 1984

岸見 一郎 西洋古典學研究 34, 138-140, 1986-03-18

 

1986年。アドラー心理学を研究する前です。

しかもこれは岸見氏の論文ではなく、海外の研究書を紹介する書評です。

チャールズ氏のアリストテレス研究を3ページほどで紹介したものが、「西洋古典学研究」という雑誌に掲載されたようです。

 

ということで、ciniiでは岸見氏のギリシア哲学に関する研究論文は見つかりませんでした。

 

アドラーがテーマかも知れませんが、ギリシア哲学の話が多そうだなと予想できるのは、次の雑誌記事でしょうか。

  • 原因論と目的論–ギリシア哲学からの考察 (特集 原因論と目的論) 岸見 一郎 アドレリアン 11(2), 108-113, 1997-10
  • 実践とは何か–「知る」ことと「行う」こと 岸見 一郎 アドレリアン 12(1), 1-9, 1998-05

どちらも「アドレリアン」という雑誌に掲載されています。岸見氏が中心となって刊行された雑誌なのかと予想されます。

 

ちなみに、博士論文検索もしましたが、ヒットしませんでした。

博士論文は未提出なのかか、インターネット上での検索を制限しているのか、どちらかだと思われます。

 

まとめると、インターネット上では、岸見一郎氏のギリシア哲学の研究論文はほとんど見出すことができませんでした。

ギリシア哲学を扱っているように思われる論文も、アドラー心理学の研究雑誌に掲載された記事です。

 

岸見氏のその他の哲学的な著作

その他の哲学に直接関係する著作は、以下の2点。

 

『三木清『人生論ノート』を読む』 

三木清は日本の哲学者であり、『人生論ノート』は本格的哲学書というよりはモラリスト的な著作です。

一貫したテーマを体系的に論じるのではなく、モンテーニュの『エセー』やパスカル『パンセ』、ニーチェの著作など、様々な哲学的な断章を書いていくスタイルです。

「三木清を『嫌われる勇気』の著者が読む!」という宣伝文句です。

 

『ティマイオス クリティアス』(翻訳)

『ティマイオス』と『クリティアス』の翻訳は、これまで『プラトン全集』でしか読むことができませんでした。

したがって、単行本での翻訳が出版されたことは、1つの貴重な業績かと思います。

 

刊行の経緯や詳しい内容紹介が、こちらから読めます。

白澤社ブログ:岸見一郎訳『ティマイオス/クリティアス』刊行の経緯

プラトン『ティマイオス/クリティアス』新訳刊行 – 白澤社ブログ

(岸見氏は)ギリシア哲学研究の大家・故藤澤令夫氏に師事しただけではなく、岩波版『プラトン全集』の『ティマイオス』の訳者・故種山恭子氏の教えもうけたとうかがいました。

そういえば、『ティマイオス』はデミウルゴスとかコーラとかアトランティスとか、面白い話題がたくさん詰まっているのに、書店で見かけなくなって久しい、重要な古典が気軽に読めないのは惜しい、という話からこの企画は始まりました。

 

あとは今回の講談社からの新刊である『幸福の哲学』に類似する書籍が1つあります。

 

『よく生きるということ――「死」から「生」を考える』

 

死に関するテーマでの書籍のようです。この本は、大学シラバスでの倫理学講義などで参考文献に上がっていることが確認できました。

大学シラバスの大雑把なgoogle検索結果

 

まとめ 研究論文は皆無だが、貴重なプラトン翻訳はある

アドラー心理学を対話形式で紹介する『嫌われる勇気』。

その著者の1人である、岸見一郎氏は、京都大学大学院の博士課程出身のギリシア哲学研究者でした。

その岸見氏の哲学者としての研究実績に興味を覚え、調査してみました。

 

調査の結果をまとめると、次のような結論になりました。

 

ギリシア哲学に関する研究論文については、

  • アドラー心理学の雑誌において、ギリシア哲学が主題と思われる論文が2本掲載。
  • 哲学系学術雑誌への寄稿は、数ページの書評のみ。
  • 博士論文は検索できず。

 

公刊著書については、

  • プラトン『ティマイオス』『クリティアス』の翻訳を刊行(全集以外では戦後初)
  • ほかに三木清の『人生論ノート』の解説書と、死を主題にした哲学書を出版。

 

およそ以上のとおりです。

ギリシア哲学研究における顕著な実績は、プラトンの翻訳のみである、と言えるかと思います。

 

ちなみに、香里奈主演のドラマ「嫌われる勇気」について、アドラー心理学会から抗議が寄せられました。

(関連記事)ドラマ「嫌われる勇気」への日本アドラー心理学会の抗議文を考える

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