復刊ドットコムの手塚治虫『ブラックジャック大全集』の文献学的精神を礼賛します

手塚治虫「ブラックジャック」。

だれしも学校の図書館で読んだことがあるでしょう。

時々読み返したくなりますよね。

 

自分でも手元に置いておきたい。。そんな時、

 

ブラックジャックはどれを買えばいいのか?

 

大問題が起こります。

 

とにかく、版が多すぎる!

  1. 文庫(秋田書店)
  2. ハードカバー
  3. チャンピオンコミック
  4. 講談社手塚治虫全集(文庫あり)
  5. 復刊ドットコム大全集

 

いったいどれを買えばいいのか?

 

悩みますよね。

簡単にまとめると

文庫とハードカバーは、ほぼ全く同じです。なので文庫一択。でも、全話収録されているわけではない。連載順でもないので、文庫自体あまりおすすめしません。どうせ買うならきちんとしたものを買いたいですよね。

3のチャンピオンコミックは、わりとおすすめ。基本、連載順に並んでます。新版が発売されているので、低価格帯では一番おすすめです。500円くらい。

 

4番は私読んだことないんですけど、わりとこれも良さげです。文庫買うなら、秋田書店よりも講談社の文庫全集を買いましょう。

 

という話を考えていたら、ヤフー知恵袋さんに圧倒的な完璧な回答がありました。

・ブラックジャック大全集(復刊ドットコム)はブラックジャックのためならいくらでも金が払えるぜ!って人にオススメ。

・手塚治虫文庫全集ブラックジャック(講談社)は読みにくくても良質なものがほしい!って人にオススメ。

・秋田文庫ブラックジャック(秋田書店)は掲載順はどうでもいいから読みやすく良質なものがほしい!って人にオススメ。

・新装版ブラックジャック(秋田書店)は質は普通でいいから安くて読みやすいものがほしい!って人にオススメ。

ちなみに、通常版も420円の全25巻で発売されています。
こちらは未収録話数が8です。
掲載順は手塚治虫が構成したので、雑誌発表順とは異なるようです。

参考:https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q11114772426

スゴイこの方。

 

そして、わたしのおすすめは5番。

復刊ドットコムの『ブラックジャック大全集』一択だと考えます。

 

ブラック・ジャック大全集 1

 

値段は一番高いです。3500円くらい。

でも、本当にブラックジャックが好きなら、この復刊ドットコムを持っていて頂きたい!!

 

じゃあ何でそんな高額なものをすすめるか、という話を、物語でお話しします。

 

物語:『ブラックジャック大全集』の文献学的精神

ブラックジャック

参考:復刊ドットコムよりhttp://www.fukkan.com/sp/blackjack/

 

ひとかどの学者を志す高等遊民は、劇作家とデニーズにいた。
高等遊民はこのあいだ買った自慢の本を見せびらかした。

 

高等遊民「どうだ。すごいだろ。」

 

ブラック・ジャック大全集 』(手塚治虫作)は復刊ドットコムという出版社から販売されたまんがである。

 

劇作家「おお、なんかでかいな。」劇作家もいくらか楽しそうだ。

高等遊民「B5。雑誌と同じサイズだ。」

劇作家「いくら?」

高等遊民「3,500円。」

劇作家「え? 全部で何巻あるの。」

高等遊民「15巻。そろえたら5万超えるか。

 

劇作家が凍った。

 

劇作家「それはもったいない気がするなぁ。」

高等遊民「なぜだ。」

劇作家「なぜだって、ブラックジャックなんか何度も読んでいるだろ。小学校の図書室から始まって。文庫版でも出てるしさ。ブックオフに行けば100円で売ってるよ。それを3500円も出してって・・・。

 

高等遊民は激怒した。

 

高等遊民「きみは何一つわかっていないなきみは・・・。たとえわずかでも想像力を働かせてくれればなぁ。想像の翼を広げる必要などない。羽根一枚でも動かしさえすればわかるはずだ。

いいだろう。きみにはずっと後戻りしてもらわなければならない。うかつで注意おろそかな若者に教え諭すように、何度も基本的なことがらを繰り返してあげよう。」

劇作家「あ、なんかすいません。」

 

勘のいい劇作家は態度を改めた。

 

復刊ドットコムのブラックジャック大全集のスゴイところ

ブラックジャック大全集

参考:復刊ドットコムよりhttp://www.fukkan.com/sp/blackjack/

 

高等遊民「いいかね。『ブラックジャック』は、週刊少年チャンピオンに連載されたまんがだ。つまり手塚治虫は、雑誌に載せることを意図して作っているわけだ。」

劇作家「うわぁ、あまりに基本的でかえって考えたこともない。」

高等遊民「ところで、われわれがよく書店で手にするまんがの単行本、あれの大きさは分かるか。」

劇作家「一般的には少年少女コミックなら新書判。青年コミックならB6サイズです。」

高等遊民「では少年まんが雑誌の大きさは? 先ほども言ったが。」

劇作家「B5です。コロコロや少女まんが雑誌はA5ですかね。あ、そうか。」

 

高等遊民「そうだ。少年まんがは本来B5サイズで読むように作られている。それを単行本では縮小してしまっている。新書判では縦横の比率さえ違ってしまうではないか。何を考えてるのかさっぱりわからない。」

劇作家「言われてみれば変なことをやってるなあ。」

高等遊民「また、雑誌には時折カラー原稿で掲載される回もある。それが単行本では全部モノクロ。」

劇作家「そうだね。カラーだった形跡は、淡いタッチになってるからすぐ分かる。」

高等遊民「それに扉絵だってなくなってることが多い。ドラゴンボールの単行本は巻末に扉絵集なんて付いてるだろう。ほかの作品は大体収録されていない。」

劇作家「あ、そういえば!」

高等遊民「要するに、おれたちが単行本でまんがを読むときには、その作品の原型からかなりずれてしまってる。意図的に改変されている。極端に言えば、模造品・類似品を提供されている。

劇作家「まあ雑誌だって生原稿ではないけどね。」

高等遊民「それはあらゆる出版物がそうだ。ともかくB5サイズで製本されれば、大きさに関しては本来の状態で読める。これが第一点。そして第二点、カラーページはもちろんカラーで再現されている。」

劇作家「カラーページの再現は、いわゆる『完全版コミックス』もやってるよね。」

高等遊民「そうだ、スラムダンク完全版とか、ドラゴンボール完全版とか、あれはA5サイズでカラー再現、扉絵収録だな。あれもいい仕事だ。

だが第三点に移ろう。これは注目すべき点だ。『ブラックジャック大全集』は雑誌掲載順に収録されている。

 

劇作家「え?」

 

高等遊民「意外に思うだろう。ふつう掲載順・連載順だろ、と。」

劇作家「え、どのまんがだってそうでしょ。っていうか連載中に単行本になっていくなら必然的にそうなるでしょ。」

高等遊民「だが違ったのだ! 『ブラックジャック』は手塚本人による自選作品集なのだ。連載順とは関係ない。これはハードカバー版(いわゆる愛蔵版)や文庫版では特にそうだ。」

劇作家「そうだったのか。」

高等遊民「そして『大全集』では巻末にはきちんと初出の日付と雑誌号数が記載されている。これは書誌学的な発想だ。
だが最も注目すべき第4点に移ろう。これはおそらくまんが編集史上初めての試みといってもいいだろう・・・。」

劇作家「それを教えてもらうまでは決して帰るわけにはいかないな。」

高等遊民「雑誌掲載時と単行本収録時の手塚による改変を、巻末で指摘している。

劇作家「・・・漢字が多くてよく分かりませんが。」

高等遊民「手塚はよく単行本収録の際に、絵やセリフを書き換えるんだ。ちょっとだけの時もあれば、大幅な改変もある。

これは別に手塚に限らない。今のジャンプに連載中のある大人気まんが家もやっているだろう?」

劇作家「あ、HUNTER×HUNTER・・・」

高等遊民「おっとそれ以上は言うな! もちろん手塚は改良のつもりでやっているが(何某は直して当然だが)、そうなるとマニアは雑誌も単行本も捨てられなくなってしまう。

そういう問題を受けたかどうかは知らんが、復刊ドットコムはちゃんとまとめてくれたのだ。」

劇作家「それはマニア以外にはたいした問題じゃないね。もちろんマニアであればずっと豊かな世界を知ることができるけど。」

高等遊民「そうだ。だが非常に重要なことだ。なぜなら『ブラックジャック大全集』は手塚治虫の描いた『ブラックジャック』に最も近い状態だからだ。この表現を何とか理解してほしい。

つまり復刊ドットコムの今回の仕事は『ブラックジャック』という作品をできるだけ原型に近い形で読むことを目的としたプロジェクトなのだ。これを文献学の精神という。

劇作家「文献学の精神!」

高等遊民「もし文庫版だけしか読んでいなかったら、それは本当に手塚の描いた『ブラックジャック』を読んだことになるだろうか?」

劇作家「うーん。」

高等遊民「じゃあ実証してみればいい。ここにB5サイズの第一巻と、文庫版の第一巻がある。」

劇作家「ほうほう。」

高等遊民「『第一話 医者はどこだ!?』 冒頭のシーンを覚えてるか。」

劇作家「もちろん。車が暴走して街灯に激突するんだ。」

医者はどこだブラックジャック第1話

 

高等遊民「まず文庫版で冒頭だけ読んでみろ。」

劇作家「読んだ。」

高等遊民「じゃあB5サイズの大全集で。」

医者はどこだブラックジャック第1話 医者はどこだブラックジャック第1話

 

劇作家「ぎゃあああああああああああああああああ!!」

 

高等遊民はほくそ笑んだ。

 

高等遊民「分かったか。」

劇作家「すごい迫力だ! なんだこれ!? こんなにすごい絵だったのか!?」

高等遊民「ではもう一度聞こう。文庫版で『ブラックジャック』を読んで、それは本当に読んだと言えるだろうか?

劇作家「はあはあ・・・これは・・・文庫じゃ「読んだ」とは言えないな・・・文庫じゃまるで絵のパワーが削がれちまっている。

高等遊民「そうだ。文庫版は確かに手軽だ。だが縮小されてしまった絵には生命力がない。作家の魂は抜かれている。屍から生きている姿を見てとることは困難だ。
それが分かったから、おれはもう文庫版のまんがには決して手を出さない。できるだけ大きな豪華版を買うようにしている。」

劇作家「説得されるなあ。」

高等遊民「だから作品の原型を追及し、書誌的な部分もきちんと記載されたこの『ブラックジャック大全集』は、校訂版と呼ばれるにふさわしい。

劇作家「校訂版!」

高等遊民「そう、つまり文献学と書誌学の精査を経て出来上がった校訂版であり、学術的な資料と同等の価値があるのだ。

劇作家「勉強になりました!」

 

高等遊民「買うか。復刊ドットコムさまからは『ブッダ』や『火の鳥』『鉄腕アトム』も出ているんだ。一緒に集めよう。」

劇作家「いや、高等遊民先生の蔵書からありがたく拝読させていただきます!」

高等遊民「全巻コンプリートへの道は、なかなかに厳しい・・・」

劇作家「最後は仙道なんですね」

 

参考:

ブラック・ジャック大全集 1(amazon)

アニメ版ブラック・ジャック
も面白いですよ。amazonビデオ。(プライム会員なら無料視聴できます)

ブラックジャック大全集復刊ドットコム

高等遊民のnoteの紹介

 

noteにて、哲学の勉強法を公開しています。

 

現在は1つのノートと1つのマガジン。

 

1.【高等遊民の哲学入門】哲学初心者が挫折なしに大学2年分の知識を身につける5つの手順

2. 【マガジン】プラトン『国家』の要約(全10冊)

 

1は「哲学に興味があって勉強したい。でも、どこから手を付ければいいのかな……」という方のために書きました。

5つの手順は「絶対挫折しようがない入門書」から始めて、書かれている作業をこなしていくだけ。

3か月ほどで誰でも哲学科2年生レベル(ゼミの購読で困らないレベル)の知識が身につきます。

3か月というのは、非常に長く見積もった目安です。1日1時間ほど時間が取れれば、1ヶ月くらいで十分にすべてのステップを終えることができるでしょう。

ちなみに15000文字ほどですが、ほとんどスマホの音声入力で書きました。

かなり難しい哲学の内容でも、音声入力で話して書けます。

音声入力を使いこなしたい方の参考にもなると思います。

 

2はプラトンの主著『国家』の要約です。
原型は10年前に作成した私の個人的なノートですが、今読んでも十分に役に立ちます。
岩波文庫で900ページ近くの浩瀚な『国家』の議論を、10分の1の分量でしっかり追うことができます

\無料試し読み部分たっぷり/

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