【ニートの妄想小説】文系男子が女子と2人で図書館勉強する時に考えていること




文系男子が女子と2人で図書館勉強する時に考えていることを曝します。

圧倒的な気持ち悪さを体感できるアトラクションだと思ってご覧ください。

図書館での午後

「あ。」

「あ。」

ふたりはいちょう並木の図書館で偶然出くわした。
ただし、ぼくの作りだした偶然によって。
ぼくは図書館に入ってゆく彼女の姿をとらえていた。

彼女が試験前に図書館で勉強することは知っていた。ぼくはその時間をどうにか共有したかった。

勉強にはじつに精神的な快楽がある。
勉強は苦痛で、しかも有意義だからだ。
怠けていたほうが楽なのに、あえて勉強する。自堕落な欲望に打ち勝って、高尚なことがらを学び、有意義な時間を過ごすことに満足を覚えるものだ。

誇りある満足を味わう時間を共に過ごすことによって、ふたりの関係がよりいっそう美しいものになることは疑いえない。
ともに勉強するということは、ともに有意義な時間を過ごすということ。
有意義な時間を過ごすふたりは、有意義な関係である。
有意義な関係ならば、信頼と好意が自然と育まれてゆく。

 ぼくは彼女の授業終わりを類推して、図書館近くで待ち伏せていた。2時間ほど待って諦めた日もあった。4日目にしてとうとう彼女の姿をとらえた。

 なぜ彼女に直接勉強しようと誘わないのかと疑問に思うかもしれない。
ふたりは学部も専攻も何もかも違うため、一緒に勉強する理由がない。
勉強しようと誘うことは、不自然な行為でしかない。
むろん、お互いの仲が相当に深ければ、この誘いは自然である。
だがぼくは違う勉強を一緒にすることの不自然さに勝るほどの関係を得ていると自負できなかった。自信がなかったのだ。
臆病なぼくに思いついた唯一可能な方法が、偶然を装うことであった。

「勉強するんですか?」 ぼくは答えの分かりきった質問を切り出した。

「うん、試験前だからね。きみも?」

「えーと、うん、そうです。どこか席は空いていますかね。」

よし! 適当に応答し、一緒に席を探す。これで同席が確約された。

1階には席がなかった。「上に行こうか」と彼女が言った。4階にも勉強スペースがある。

 図書館の階段は天井が低く、幅も狭かった。一段のぼるたびにぎしぎしと床が鳴る。狭い踊場には各階ごとに採光窓がついている。
先に上っていたぼくは、彼女が疲れていないかとうしろを見た。
彼女はぼくの視線に気づき、ほほ笑んだ。大丈夫と言うようだった。
彼女の眼はくっきりとした二重まぶたのせいで、いつも眠たげに見える。
午後の弱い光に照らされたほほえみと瞳もまた力ないものに映った。

 静かな4階には人もまばらだった。ふたりは奥の窓際の4人掛けテーブルに向かい合って座った。
すぐ近くに人はいない。
一息ついて彼女はかばんを開き、教科書やノートを机に広げた。
ぼくは「ユリイカ」という雑誌を読み始めた。

 ぼくはたびたび彼女に目をやった。
ペンを走らす右手。教科書をおさえつけている左手はいっぱいに開かれて、指の細長さをいっそう目立たせた。
深爪気味の爪はつやつやと光ってきれいだった。
指や爪はぼくの目線に気付いて応答してくれたようだったが、顔のほうはいくら見つめても、ぼくの視線に応えることはなかった。
ぼくは少し反省して後頭部の髪の毛を指で何度か整え「ユリイカ」に向かった。

「ユリイカ」は詩と文芸批評の雑誌である。
ぼくがふだん手にする雑誌ではないが、この号ではまんが家の福本伸行が特集だった。
福本伸行はぼくの評価では21世紀で最も偉大なまんが家である。
プロの批評家の論じ方を学ぶために購入したのだ。

10人ほどの論客が、思い思いに福本論を展開する。中心的な作品は『アカギ』『カイジ』『黒沢』である。※注1

  • 「なーんだ、意外に大したこと言っていないな!
  • 「言葉を操る技術の問題だ。実に巧みな言葉づかいで論じているだけで、内容そのものは、おれの感じたこと以上のことは言っていない! 
  • 「作品からポストモダン的な思想を結び付ける連想ゲームはうまいが、作品の細部まで読み込もうとする努力は感じないな! まあポストモダンの言葉づかいはカッコいいから、そこは参考にしてやるか!

彼女は疲れたのか座位を直してふと前を見ると、雑誌に書き込みしながらほくそえむぼくを見つけた。
彼女は少し笑って小さな声で話しかけた。

「ねえ、ずっと雑誌読んでるけど、勉強しないの?」

「え? えーと、いまは雑誌読みたいなーって、えへへ。」

「あ、そ。私はまだ勉強するけど?」

「あ、ぼくももう少し。」

「ふーん。」

彼女はうなずきながら片眉を上げ、すました表情をぼくに送って、また下を向いた。
何もかも分かっているのかもしれない。
4日前から? それはないだろう! 頭や身体がじわりと汗ばんだ。なんだか暑いな。

午後の陽ざしは徐々に赤くなり、窓際の机も部屋の明かりによって照らされはじめていた。

1.ユリイカの福本特集に対する話は以下で書きました↓↓
福本伸行アカギ感想|自ら選んだ生き方を全うする人生とは?

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