まんがで教養と知識が深まるおすすめ5作品|マジで読むだけで勉強になる

まんがで知識をつけるなどおこがましいのか!?

しかし、世の中にマジでおもしろくて勉強になる、教科書のようなまんがは、確かにあります。

もちろん『学習漫画 日本の歴史』『まんがで読破』シリーズをおすすめするなんて、期待外れの肩透かしはしません。(読んだことない)

 

無学な自分が教養を語るのも恥ずかしいですが、以下のリストにあげるまんがは、すべて実際に読みました。

とんでもなく面白かったし、ためになったし、知識が増えました。

 

とりあえず5冊挙げてみます。全部読んでいるよ、という人は、仲良くなりましょう(笑)

読むだけで知識と教養が身につく(と思う)まんが5選!

では5冊挙げてみます。

 

手塚治虫『七色いんこ』

まずはまんがの神様、手塚治虫。これは『ブラックジャック』みたいな役柄の主人公の物語。

代役専門で舞台役者を請け負いながら、幕間に金持ち客の金品を失敬する役者泥棒・七色いんこと彼を追う女刑事・千里万里子の物語である。

当初は『ブラック・ジャック』のような、七色いんこを狂言回しとしたシリアスな話が多かったが、次第に名作劇をパロディ化した作品が多くなっていった。

出典:七色いんこ – Wikipedia

主人公は演劇の天才で、「七色いんこ」という異名を名乗って、代役専門で舞台に立つというストーリー。

このまんがについては、各話のタイトルを観るのが一番わかりやすいです。

  1. ハムレット (ウィリアム・シェイクスピア)
  2. どん底 (マクシム・ゴーリキー)
  3. 人形の家 (ヘンリック・イプセン)
  4. 修善寺物語(岡本綺堂)
  5. ガラスの動物園 (テネシー・ウィリアムズ)
  6. 検察官 (ニコライ・ゴーゴリ)
  7. 電話 (ジャン・カルロ・メノッティ)
  8. ゴドーを待ちながら (サミュエル・ベケット)
  9. アルト=ハイデルベルク (マイヤー・フェルスター)
  10. 誤解 (アルベール・カミュ)

出典:七色いんこ – Wikipedia

どうでしょうか。手塚治虫『七色いんこ』は、読むだけで古典戯曲やオペラの内容を知ることができます。

主人公の七色いんこが劇中劇で演じる場合もあれば、その回のプロット自体が題材の戯曲のあらすじをなぞる場合もあります。

名作文学を手塚治虫がどうやって料理したか、それを味わうだけでも、手塚治虫の才能と技量の深さに驚嘆を禁じ得ません。

『ブッダ』や『火の鳥』もいいですが、『七色いんこ』は文学好きならきっと楽しめます。

 

水木しげる『神秘家列伝』

お次は水木しげる。これまたまんが界の巨匠。水木しげるは、どの派閥にも属さない圧倒的な巨人という印象。手塚治虫と石森章太郎に、もっと寝ろとアドバイスしたという伝説が。

『墓場鬼太郎』よりも『ゲゲゲの鬼太郎』よりも、『神秘家列伝』こそが、知識と教養を深めるのにピッタリな作品です。

『神秘家列伝』は、古今東西の「神秘家」を題材に、一話完結で描く伝記漫画のシリーズ。(wikipediaの説明)

これもサブタイトルのラインナップを見ると早いです。

  1. スウェーデンボルグ
  2. ミラレパ
  3. マカンダル
  4. 明恵
  5. 安倍晴明
  6. 長南年恵
  7. コナン・ドイル
  8. 宮武外骨
  9. 出口王仁三郎
  10. 役小角
  11. 井上円了
  12. 仙台四郎
  13. 天狗小僧寅吉
  14. 駿府の安鶴
  15. 柳田国男
  16. 泉鏡花
  17. 平田篤胤

出典:神秘家列伝 – Wikipedia

こんなアウトローな連中の伝記まんが。わくわくするでしょう。

第1話はThe・神秘家と言うべきスウェーデンボルグ。その後、ミラレパとかマカンダルとか、誰も知らないような人物が続きます(笑)

近代日本の生んだ超ヤバ霊能宗教「大本教」の共同開祖である出口王仁三郎とか、修験道の開祖とされる役小角(えんのおづぬ)とか、熱いラインナップ。

次の井上円了なんか神秘家でも何でもない、ただの学者ですが、妖怪を否定するために妖怪を研究しつくした変わり者です。

 

ちなみに『神秘家列伝』の作品中に、よく水木しげる本人が登場します。その際、たいていアリャマタコリャマタという同伴者がいる。荒俣宏です。

それぞれの伝記には、出来不出来も多少はありますが、基本的にはものすごく勉強になります。学校図書館でも『神秘家列伝』は購入すべき!

 

浦沢直樹『MASTER KEATON』

上2つとは、ちょっと変わって、直接的な文学作品や伝記作品ではなくなります。

主人公の平賀・キートン・太一は、ヨーロッパ文明の考古学者。最終学歴は修士号(マスター)。日本の田舎大学で非常勤講師をしていますが、経済的に生活していけないので、もう一つの母国イギリスで、保険調査員の仕事を兼務しているという設定。

このまんがのジャンルは、ざっくり言って「探偵もの」です。軍隊経験もあるキートンが、保険調査の仕事を、持ち前の考古学の知識を使って解決していくという内容です。

そこにハートウォーミングな話であったり、ハラハラドキドキさせるアクションシーンがあったりします。

 

ちなみに第1巻に、キートンたちが中央アジアのタクラマカン砂漠に取り残されてサバイバルになるエピソードがあります。

そこで砂漠を生き抜く知恵として、スーツを着ているとか、穴を掘ってラップを敷いて水をつくるとか、そういうサバイバル術をキートンが披露します。

それを実際にやってみた、という男がいて、超面白いので、ついでに紹介します。『MASTER KEATON』を知らない方は、どんなまんがか、多少は想像できるかと思います。

マンガ『マスターキートン』の知識「砂漠ではスーツがいい」は本当か? マジの砂漠にスーツで行ってみる

 

浦沢直樹の『MASTER KEATON』には、ヨーロッパ文明や古代文明の知識や教養が惜しみなく、ふんだんに散りばめられています。

仮にそういうの全部抜きにしたとしても、まんがそのものとして面白いし、各話に出てくる学識をいちいち検索しながら、じっくり読むのもおすすめ。

個人的には、今まで読んだまんがの中でナンバーワンで好きな作品。one of the best ではなく、端的にthe best です。

 

横山光輝『史記』

横山光輝といえば大長編の『三国志』かもしれません。でも、『三国志』なんて勧められなくてもみんな知っていますね。だから『史記』。

『史記』とは古代中国の歴史家である司馬遷(しばせん)の書いた歴史書です。司馬遼太郎の司馬も、司馬遷から。

司馬遷の書いた『史記』とは、とにかく噂話を集めまくって構成された歴史書です。そのせいなのか、横山光輝の『史記』も、一読して、たぶん訳が分からないかもしれません。

いま読んでいるページや章が、誰の、何の話なのか、それが前後の章でどう関係するのか、ちょっと読むだけではきっと全然わからないでしょう。みんな同じイケメン顔だし(笑)

だから、全体をつかむには、おそらく3回くらい読まなければいけないかもしれません。ただ『史記』は『三国志』みたいに長くありません。分量としては『三国志』1回より『史記』3回のほうが短いくらいです。

 

追記。おもしろさだけでいうと、横山光輝は『水滸伝』がずば抜けています。これは中国の大河小説を原作としたまんが作品。

「梁山泊」(りょうざんぱく)という名前を聞いたことがあるでしょうか。それは『水滸伝』の豪傑たちの集まるグループの名前なのです。

 

玉川重機『草子ブックガイド』

最後は、21世紀の作品。これを偶然ブックオフで見つけたときは、天からの贈りものかと思いました。それほど読んで感動しました。

あらすじはwikipediaで十分です。

内向的で読書好きの少女・内海草子は西荻窪の古書店「青永遠屋(おとわや)」に通い、無断で本を持ち帰ってはその感想を記したメモを挟んで書棚に返すということを繰り返していた。店主は草子の感想文を気に入り、「ブックガイド」を続けてくれるように頼む。そうして「青永遠屋」が草子の居場所となる日々が始まった。

出典:草子ブックガイド – Wikipedia

草子はたぶん「そうこ」と読みます。学校でも家庭でも居場所のない草子が、古本屋で古典文学に触れるというストーリー。

文学鑑賞を通じて、自分の閉じていた狭い世界が徐々に広がっていき、また他者との暖かい交流が生まれていく。文学好きな人間は涙をこぼして読むであろう作品です。

各話のタイトルも見てみましょう。

  1. ロビンソン漂流記(ダニエル・デフォー、平田禿木訳、冨山房家庭文庫世界児童文学全集)
  2. ダイヤのギター(トルーマン・カポーティ『ティファニーで朝食を』収録作、龍口直太郎訳、新潮文庫)
  3. 山月記(中島敦『山月記・李陵』収録作、ほるぷ出版)
  4. 山家集(西行、伊藤嘉夫校註、日本古典全集・第一書房)
  5. 老人と海(アーネスト・ヘミングウェイ、福田恆存訳、新潮文庫)
  6. 山椒魚(井伏鱒二『井伏鱒二全集 第一巻』収録作、筑摩書房)
  7. バベルの図書館(ホルヘ・ルイス・ボルヘス『伝奇集』収録作、岩波文庫)
  8. 銀河鉄道の夜(宮沢賢治、新潮文庫)
  9. 夏への扉(ロバート・A・ハインライン、小尾芙佐訳、早川書房)
  10. 月と六ペンス(サマセット・モーム、中野好夫訳、新潮文庫)
  11. 飛ぶ教室(エーリヒ・ケストナー、高橋健二訳、岩波書店ケストナー少年文学全集4)
  12. 夢応の鯉魚(上田秋成『雨月物語』収録作、ほるぷ出版日本文学古典編)
  13. 百鬼園日記帖(内田百閒、ちくま文庫)
  14. イワンのばか(レフ・トルストイ、北御門二郎訳、あすなろ書房トルストイの散歩道2)
  15. ハローサマー、グッドバイ(マイクル・コーニイ、山岸真訳、河出文庫)
  16. 新しい人よ眼ざめよ(大江健三郎、講談社)
  17. 荒野のおおかみ(ヘルマン・ヘッセ、高橋健二訳、新潮文庫)

出典:草子ブックガイド – Wikipedia

なんというラインナップ。書誌情報が細かい。平田禿木訳のロビンソン・クルーソーなんか、大正時代の翻訳だから、今や入手困難です。(上記のリンクは必ずしも同じ書誌ではありません)

しかしそれより何より、絵が素晴らしい。これは時間かかるのもうなずけるような、丁寧で細かいつくり。線の量がケタ外れに多いのです。

まず古本屋の店内の様子が異常に細かい。本棚、積まれた本、2階建ての構造……どれだけ時間かかるんだと思うほどの描写。

そして草子の感想文の描写。ロビンソン・クルーソーの基地が、まんがで、絵で描かれているんですよ。感激します。

『草子ブックガイド』を読めば、草子が読んだ文学作品の持つ世界や雰囲気が何となく伝わってくる。自分も読みたくなってくる。そう思います。

 

おわりに

「読むだけで教養と知識が身につくまんが」と銘打って、5冊紹介しました。こういうまんがは、この5冊だけでなく、きっとまだまだたくさん存在すると思います。

紹介した5冊は、どれも作品として普通におもしろいので、別に「教養をつけるぞ!」みたいなモチベーションで読む必要もないと思います。

まんがは現代の高等遊民にとって必読書です。高等遊民は、常にカルチャーを知的に把握していなければなりません。

 

今やまんがは、私たちの「ものの考え方や感じ方」をかなりの部分、規定してしまっていると思います。強烈な印象が残っている作品も、内容を忘れてしまった作品も含めて。

だからこそ、まんが作品を「知識・教養」という枠組みでとらえ直してみることは、自分の価値観を確認するうえでも有益かもしれません。

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