哲学が役に立つか知りたい?なら電車内でアイドルの隣に座りなさい

哲学は役に立つのか?
哲学書なんか読んでも役に立たないのでは?

「哲学書を自分の人生に役立てる」とは、どういうことでしょうか?
いろんな形があると思います。

  • ビジネスに活用する。論理的思考力を養う。
  • マインドフルネスな思考に活用する。心の平安をつくる。
  • 審美眼・観察眼に活用する。社会や文化の世相を分析する。

などなど。

要するに「実生活の現場で、哲学による学びを実践できるかどうか?」

これです。

可愛い子に突然遭遇して「心の平静(アパテイア)」を保てますか?

何が言いたいかというと、この前電車でアイドルに遭遇したんですよ。
名前も顔もまったく知らないんですけどね。女子高生みたいな格好をしてね……

ベージュのブレザーに、スカートを履いていまして三人組が。
会話の内容やマネージャーらしき人物の同伴から推測したんです。

ぼくはそれと知らずに隣に座ってしまいましてね。それはもちろん、おっさんの隣よりも若いお姉ちゃんの隣の方に座りたいという年盛りの青年の自然な感情が働いただけです。

まあきっとまだテレビにも出たことなく、スター目指して奮闘中なのでしょう。
彼女たちは相当疲れていたみたいでね、もう3人とも、うとうとしているんです。
隣の子がぼくの方に寄りかかっちゃったりしてね。別にだからどうってことはないんですが。ハアハア言ったりしません。

「乙女よ何とお呼びすればよいでしょう、お顔もお声もこの世のものとは思われません」

なんてアエネアスにはなりませんよ。(ウェルギリウス『アエネーイス』より)

そしたら、彼女はハッとしてこちらに謝ったりしてね。
「あ、ごめんなさいっ!」みたいな。ハアハア言ったりしません。

それで池袋で降りていったんですがね。その降り際にも謝ったりしてね。
まあいい子たちだなぁとぼくなんか思ってしまうわけですよ。

それで思ったんです。わたしははっきりいってアイドルなんか下らないという冷酷な思想の持ち主でしたよ。
いったい彼女たちの音楽でどうやったらノリノリになれるんだ? などという素朴な疑問は今でも持っています。
だけど、まあ彼女たちも一人ひとりはいい子で誠実に夢に向かって努力していることにわたしは思い至りました。

そりゃ頭ではわかっていました。努力しているってことくらい。それは否定さるべきものではないってことくらいは。しかし、やはりどこかで「しょうもない努力」だと考えていました。

ですが、今回の一件で、応援したいという気持ちになってしまいました。
彼女たちの顔も名前もグループ名も知らないから応援のしようもないんですが。
アイドルを見る目が和やかになりましたね。

何が言いたいかというと、

「自分の頭の中の考え(偏見)なんか、実体験によって容易に打ち壊される」

ということ。
つまり、ふだんの日常、頭の中だけでのいわゆる思索なんていうものは、よほど真剣に取り組まなきゃ、有益な考えにたどり着くなんていうことはとてもとても、ありえないことですね。

ギリシア哲学の目標は「魂の向け変え=上昇」である

この問題を、ギリシア哲学、というかソクラテス・プラトンの話をしながら考えましょう。

ギリシア哲学とは「哲学によって自己の魂を高める」という意識が非常に強い哲学でした。

ざっくり言うと、

  • 正しい行いをすると魂は高まる
  • 不正な行いをすると魂は汚れる

本当に、こんな感じです。
(もちろん、ギリシア哲学はこんなことだけじゃないですよ。)

「どんな場合でも不正はしてはならない。これは自分がひどく不正な目に遭おうと、そうでなく平和に暮らしていようと、変わらないのだ」

これはソクラテスが常々語っていたことです。
正義と不正の問題は、ソクラテスやプラトンにとって、非常に重要なテーマでした。
『ソクラテスの弁明』『クリトン』『ゴルギアス』『国家』など。

ソクラテスは(今の我々から見れば)不当な裁判によって、死刑の判決を下されました。
獄中、ソクラテスは友人クリトンから脱獄を勧められました。(『クリトン』の話)

ソクラテスさえその気になれば、簡単に脱獄できる状況にありました。
いわば、成功が保証された不正。
その誘いに応じるかどうか?

クリトンは、「はじめにソクラテスは不正を受けたのだから、不正に脱獄しても問題ない」と考えていました。
でもソクラテスは違いました。
ソクラテスは「どんな場合でも不正はダメ」という原則を守るために、脱獄の勧めを断り、毒杯を仰いだのです。(『パイドン』の話)

ソクラテスは言行一致の鬼

口ではいくら立派なことを言っている人。
でも、いざ自分がたいへんな目に遭うと信念をころっと変えてしまう人。
はいくらでもいますね。

というか、それが当たり前です。
自然な行為です。

しかし、だからこそ、ソクラテスや殉教者は讃えられるわけです。
彼らのような生き方を、わたしたちが行うのはなかなか難しい。

だからせめて「敬意を払う気持ちを持つ」くらいでお茶を濁すしかない。
これが、私たちの実態です。

なので、

  • 自分の偏見を確認する
  • 色んな体験をしてみる

この2つが重要ですね。

そして、アイドルの隣に座っても平静を保てるかどうか、

これが哲学の進歩を見極める実戦です。

最後にエピクテトスの言葉を。

きみ自身について、他人にからかわれたり、バカにされたりしても、気をとられないこと。
このとき、きみが哲学を学び始めているということだ。

電車内

高等遊民のnoteの紹介

 

noteにて、哲学の勉強法を公開しています。

 

現在は1つのノートと1つのマガジン。

 

1.【高等遊民の哲学入門】哲学初心者が挫折なしに大学2年分の知識を身につける5つの手順

2. 【マガジン】プラトン『国家』の要約(全10冊)

 

1は「哲学に興味があって勉強したい。でも、どこから手を付ければいいのかな……」という方のために書きました。

5つの手順は「絶対挫折しようがない入門書」から始めて、書かれている作業をこなしていくだけ。

3か月ほどで誰でも哲学科2年生レベル(ゼミの購読で困らないレベル)の知識が身につきます。

3か月というのは、非常に長く見積もった目安です。1日1時間ほど時間が取れれば、1ヶ月くらいで十分にすべてのステップを終えることができるでしょう。

ちなみに15000文字ほどですが、ほとんどスマホの音声入力で書きました。

かなり難しい哲学の内容でも、音声入力で話して書けます。

音声入力を使いこなしたい方の参考にもなると思います。

 

2はプラトンの主著『国家』の要約です。
原型は10年前に作成した私の個人的なノートですが、今読んでも十分に役に立ちます。
岩波文庫で900ページ近くの浩瀚な『国家』の議論を、10分の1の分量でしっかり追うことができます

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