「いいのか………これで!?お前ら笑ってる場合か!?………考えろ…考えろ…この作品の弱点を!!」
島本和彦氏作、1980年が舞台のまんが家まんが『アオイホノオ』。主人公のホノオは、80年代当時のまんがをバッサバッサと切りまくります。
そんなホノオに斬られたまんが作品を、ホノオのコメントつきで、まとめてご紹介。
主に70年後半から80年前半のサンデー作品ですが、どれもおもしろくておすすめ!
あだち充
『ナイン』―あだち充のラブコメ野球まんが
「かわいそうなあだち充…こんなに俺にとっては面白いのに…」
「何かが足りんのだ! こんなに女の子は可愛いのに! 女の子が可愛いだけではダメなんだ! 野球漫画なんだから! もっと、試合中心のバトルがないと!」
「あだち充!! あいつ……野球漫画の描き方が……全然わかってないんだ……!!」
「『ナイン』これはついタイトルで野球漫画と思いがちだった。そこが、あだち充のワナだった。これは野球漫画ではなく、学園漫画だったのだ。どうりで、試合のシーンが出てこない! 勝ち負けにこだわらない! 野球よりも女の子のほうが大切!! やっと甲子園大会決勝戦、と思いきや……これといった理由無く負ける!! なのに面白い! 何故だ!?」
『みゆき』―野球一切無しの純粋学園ラブコメ
「みゆきという名前の彼女と、同じ名前の妹がいて……どっちと付き合うか付き合わないか、つまり……いつものような話です!」
「本当はいつもの様な感じじゃない、今までのあだち充の少年漫画を根底から覆す仕掛けがしてある……! つまり”あだち漫画”では「ヒロインが長髪でそうでない女の子が短髪」という大原則が今まであったのだが! この『みゆき』ではそれが見事に意識的に逆にされているんだよ!」
「簡単に言えばロングヘアの女の子(鹿島みゆき)とショートヘアの女の子(若松みゆき)の……どっちがいいですか!? という話!!」
「パンティーを手にしてムフ♡なんて……!!! そんな場面……人生の無駄のような気がして……描けないんです!!」
「ホノオくん…!」
「女子のパンティーをもし入手してしまったら…正直…ムフ♡ではすみませんよ! もっととんでもないことに…なりますよきっと!! だから俺は汚れているんです! あだち充よりも!」
『タッチ』―まんが史に刻まれる代表作
「俺だけのあだち充じゃなくなったーっ!!?」
「双子ということはつまり……同じカオのキャラを描けば良い! ムダが、ない!!」
「このヒロイン(の髪型)は(ロングとショートの)中間! ショートもロングもどっちも入ってますよ的な……両方兼ねそなえた存在!」
「俺だけわかっても……仕方がないんだぞ…あだち充!! キミはこうやって髪型を変化させることによって…俺のような玄人読者をニヤリとさせているだけではダメなんだぞ!!」
「「タッちゃん」 タッち! タッち! ここにタッち!」
「(リレーでの達也の活躍)それまでろくな練習もせずゴロゴロとしてただけの達也が……競技中に「熱血」のキーワードで! それだけで和也を軽く抜かす潜在能力! これだっ!!! これを待っていたんですよあだち先生っ!!」
高橋留美子
『うる星やつら』―高橋留美子の少年サンデーデビュー連載
「こんな……暗くって重ーいのがステイタスな少年サンデーで、SFギャグ恋愛コメディーをなぜ描いてる!?」
「今のサンデー読者にこれがわかるわけがない! 別の雑誌で描いたほうがいいんじゃないのかっ、高橋留美子!?」
「面堂とかいうキャラが増えて、ぐっと作品をメジャーにした感じがしたが――高橋留美子もわかってきたかな?」
「僕は、高橋留美子のように!! ちゃっちゃっちゃっとタイミングだけで描いて! 何か個性が認められて! 忙しいときには一発描きでいけそうな感じの!! そんな漫画家を目指してるんですよ!!」
「大変だ!!漫画界アニメ界全部ひっくるめて――全てを持っていっちまうぞ!!留美子が!!」
『めぞん一刻』―「うる星」と同時連載の大人ラブコメ
「大人とつき合う…!? 池上遼一や白土三平のような……つげ義春のようなああいう…やるせなく辛いものを描かせるのかっ!!? 留美子に!? 何故?……何故、そんなことをさせなくちゃならないんだっ!!?」
「『うる星やつら』に比べてギャグ少なめ!? なんだ!? なんだ、このモヤモヤした得体の知れなさは……?」
「わかることは…ギャグを勝負に持ってきていない……? 一応ギャグも散りばめてはいるが、ポイントはあそこじゃない。」
「素人はだまされるだろうが、俺はだまされん! ごまかされんが、いったい、どこを狙っているのか……だまされんつもりの俺だが、ハッキリとはわからん……」
細野不二彦
『さすがの猿飛』―忍者ものアクションギャグラブコメ
「こっ…この主人公は……やられたーっ。カッコイイ絵を描ける人間が……そこをあえてギャグ調の主人公で行く!! また……また細野不二彦にやられたー!」
新谷かおる
『エリア88』―壮大な傭兵戦記物語
「この絵は女性か? おそらく松本零士のアシをやってて男っぽさを植えつけられてしまった、メカの描ける女漫画家!」
「話の内容が松本零士に比べて、幾分ロマンチック、少女漫画特有のセリフ回し!」
宮下あきら
『激!極虎一家』―なめんなよ猫の熱血不良ギャグ漫画
「「本宮ひろし漫画」を想定させる絵ですでに「ストーリー漫画」というジャンルに読者を持ってきてて……そこにギャグを入れるからこそ、予想外の爆発力を生むのだ……まずい……!!」
大友克洋
『ハイウェイスター』『ショートピース』
「なっ、何だっ!? この写真を見て描いたような……想像力では届かないような描き方で作られているキャラは!?」
「こんなに頑張って正確な絵を描いていたら……週刊連載なんて無理ですよ、絶対に!!」
「(大友克洋!!?)」
「どない?うちの先輩がこれめっちゃ上手いって……」
「……こんなに…ていねいな絵は……ムダですよ!」
「そんな完成度の高い絵では量産は無理やで」
「どうするんだろうな…大友克洋(このひと)…こんなに頑張って描いてるのに…」
原秀則
『さよなら三角』―原秀則の少年サンデーデビュー連載
「この人の作品は読みやすい! マイナスポイントがないんだよ! 絵が見やすい! ひとりよがりなセリフがない! だから難しくない! スッキリとした読後感! 新人によくある偉そうな毒みたいなものも感じない、しかし!! マイナスポイントはないけど……内容もないんだよ!!」
「「さよなら三角」!! くうっ、またこいつは……上手く心にひっかかって気になるいいタイトルを……やられた!」
「新人なのに無駄ゴマの連発! これといった内容がやはりない! さよならっぽくて、三角(関係)っぽいが……それだけだっ、これは……これは人気が出るぞ! なんとかしないと!」
「小学館め…原秀則なんかを週刊にもってきやがって…叩きつぶすしかない!」
「これは人気が出るぞ!!なんとかしないと!」
『らぶらぶぽりす』―刑事ものラブコメ
「あいかわらずノリだけで細かい所はすっとばしている展開! 俺も実は憧れていた刑事漫画……このやり方なら確かに成立するが……怖くて俺にこれを描く勇気はない!」
「カッコイイセリフだ! カッコイイ髪形とセリフの直球でこれは……人気が取れる! 刑事+ラブコメ……原秀則のこのどストレートな技!」
矢野健太郎
『強化戦士アームピット』(読切)―矢野健太郎デビュー作品
(単行本収録情報調査中。情報求む!)
「デザイン科四回生、このCASの会長、矢野健太郎。そして――漫画ばかり描き過ぎて、3回留年!!いまだに一年生だ!!」
「ああっ!! SFギャグヒーローものだ!! 俺が先に見つけていたまだ誰もいないフロンティア! SFヒーローのストーリー漫画っぽいタッチで描くギャグ漫画! それを! 先にやられた! 矢野健太郎に!!」
「ああっ、「急に意味なく劇画」ギャグもやりやがった!!」
「しかも使ってる擬音が全て……ガンダムに出てくるモビルスーツの名前を……意図的に登場順に……アニメ好きなわかるマニアだけわかればいいという隠しギャグ!」
「この人けっこう絵が上手やわ…!」
「ホノオくんと作品の方向が似とる。というか丸かぶりや!!」
「うわああああーっ!!矢野健太郎~~!!!」
「やっ…やられた…!!俺が将来!!やろうとしていたことを…先に…こんなに早くに…持っていかれたーーっ!!!矢野健太郎ーーーっ!!!」
「矢野健太郎は……俺がこれから漫画を描く意味を……全て奪っていきやがった……」
「自分はちゃんとアイザック・アシモフを読んでいるという自慢!! SFファンもがっしり掴むつもりか…はいはいあんたはもうなんでも知ってるなあ!」
「ああっもう!! 自慢かよ!! 自慢漫画かよ!! 矢野健太郎!!」
松本零士
『男おいどん』―松本零士の隠れた名作
「俺がマジで笑ったギャグ漫画だ……本当の笑いは真剣な中にこそあるんだよ! 笑わそうとしているのではなく……真剣に生きているだけ! そこがたまらなく辛くおかしい!! そしてかっこいい! かっこいい奴が……実は一番面白いんだ!」
車田正美
『リングにかけろ』―『聖闘士星矢』以前の人気作
「カッコイイ! カッコイイだけでなく……マネをしたくなるような吸引力! しかし……これは車田正美が長い年月をかけて作り上げてきた様式美!」
「前シリーズ(ギリシャの神々の名を持つボクサーたちとの戦い)よりインパクトの強い相手を出すのは無理かと思ったが……まさか世界チャンプの名前が……ジーザス・クライスト! そしてくり出す技がネオ・バイブル!! という技名だとは……ううっ! だめだっ、車田正美は天才だ! こっち方面ではもう誰も勝てん!」
亜月裕
『伊賀野カバ丸』『かぎりなくアホにちかい男』―少女まんが界の「カッコイイ+ギャグ」
「この2作に共通していることは、主人公のパッと見がハンサムボーイ! 作品中一番カッコイイ男が一番アホなことをする……これだ! これなんだよ!」
水島新司
『ドカベン』―野球まんがの代名詞
「俺はべつに手塚治虫とかちばてつやとか、水島新司とかと戦おうっていうんじゃあないんです!!」
「巷で描かれている野球漫画のほとんどは、水島漫画をお手本に見ながら描かれているんだ! あだち充と『アストロ球団』以外はね!」
「バッティングフォームから……「イ」で終わる擬音とか!(カキイ・バシイ) ピッチャーが投球した後の”間”とか……何よりも、靴の裏だ! 野球選手の靴の裏にスパイクがついているのを……意外と描いてない漫画も多かったんだ! それが水島新司の野球漫画以降みんな同じスパイクを描くようになった! しかも本物でなく水島漫画を見て描いてるから…一目瞭然!!!」
まとめ
島本和彦氏作『アオイホノオ』で主人公ホノオによって言及されるまんがをまとめてみました。
個人的には『アオイホノオ』という作品は、まんがの読み方を変えてくれるような、目から鱗が落ちまくる作品だと思っています。いわば、まんが読みの教科書。
悪口っぽい批判を述べながらも、その作品をおもしろそうな、魅力的に思わせる島本氏の言語表現には脱帽です。