プラトン『饗宴』要約と解説|哲学と文学が融合する対話篇の真骨頂

 

プラトンの対話篇『饗宴』は、愛(エロース)をテーマにした哲学史上の古典であると同時に、文学作品としても傑出した古典と言われています。

 

『饗宴』は物語調で語られる

プラトン『饗宴』の舞台は、悲劇詩人のアガトンという人物の家で催された宴です。アガトンは自らの最初の劇作品をコンクールに提出し、みごと優勝を勝ち取りました。宴はその祝勝会として開かれたのです。

不思議なことに、プラトンはそれを直接には描き出しません。宴から何十年も経ったある日、アポロドロスという人物が、友人に頼まれて、昔アガトンの家で催された宴について、知っていることを教えて欲しい、というふうに始まります。

そのアポロドロスも、直接アガトンの「饗宴」の場に居合わせたわけではありません。饗宴の列席者のひとりである、アリストデモスという人物から聞いた話だと前置きします。整理します。

現在=「饗宴」から数十年後のある日

話者=アポロドロス。昔アリストデモスから聞いた話を伝える。

プラトンはこのような回りくどい設定をわざわざ仕立てたのです。

 

 

『饗宴』のテーマ「愛(エロース)」について

 

饗宴の目的はもちろんアガトンの勝利を祝う会です。それに普段からアガトンの交流のあるソクラテスも呼ばれました。

饗宴の列席者は、青年パイドロス、パウサニアス、医師エリクシマコス、喜劇作家アリストファネス、アガトン、ソクラテス、アリストデモスでした。ソクラテスは遅刻してきます。

ソクラテスが到着した頃には、場はすっかりできあがっており、祝勝会もたけなわといった頃でした。
ソクラテス到着で話題が変わり、青年パイドロスが、そういえばエロース(愛の神)について、我々は悪い話しか聞いていないなどと話を始めます。そして皆「それではエロースを讃美する演説をつくろうじゃないか」などと、二次会的なノリで本編が始まります。

それぞれがエロース讃美の演説を披露し、最後にソクラテスが演説をします。

 

 

エロースは神ではなく、愛を求めるダイモーン

 

エロスを讃美する5人の列席者(パイドロス、パウサニアス、エリクシマコス、アリストファネス、アガトン)は、いずれもエロースを神であるという従来の伝統にのっとって演説を披露します。

それに対してソクラテスは、みなと全然違う話をしてしまうが許して欲しいなどと前置きをして、語り始めます。さらに、ソクラテスの語るエロースは、決して自分が考えたわけではなく、かつてディオティマという巫女(女性)から聞いた話をそのまま伝えるものだと述べます。

ディオティマの語るところによれば、エロースとは神ではなくダイモーン(精霊・稲荷)である。エロースは愛の神ではなく、愛を求めている存在、つまり愛が欠如している存在であると述べています。

そして愛とは美しいものであり、エロースは美を求めていく存在である。人間もそのように美を求めていくことで、神に等しい存在に近づいてゆくことができると論じています。

 

 

美を求めていくステップ

 

ディオティマは美を求め、認識していくには段階があると語ります。

人間はまず、外見として肉体に現れた美を発見します。これは目で見ることができます。

次いで、内面として心に現れた美を発見します。ここからは目で見ることはできません。

やがて肉体や心といった、個体に宿るものを離れ、知識として普遍的に現れるもののうちに美を発見します。

最後に、普遍的な知識からも離れ、美そのものを観照するにいたる、とディオティマは語ります。

このように下から段階を踏んで、上昇していくものが、美を求める存在エロースなのです。

 

 

アルキビアデスの闖入

ソクラテスが語り終えると、饗宴の場は沈黙に包まれます。それぞれがエロース・愛・美について、静かに思いにふけっているのでした。

その時、静寂が破られ、大勢の酔っ払いを引き連れた一人の男が入り込んできます。

その男こそ、アルキビアデスです。

アルキビアデスもエロースを讃美するよう言われますが、彼はソクラテスを讃美します。

アルキビアデスはアテナイの偉大な政治家ペリクレスの親戚であり、容姿端麗頭脳明晰といった完全な男でした。彼は欲しいものを思うがままに手に入れ、思い通りにいかないことなどありませんでした。

美しい男に目がないソクラテスも、アルキビアデスに心惹かれます。アルキビアデスも徐々にソクラテスには自らにはない知性を持つことを認め、ソクラテスと一夜を共にすることになります。ところがソクラテスは、アルキビアデスと事に到ろうとはしませんでした。

アルキビアデスはこれに衝撃を受け、ソクラテスに対して尊敬しながらも憎しみを持つという屈折した思いを抱くようになったことを語ります。

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