夏目漱石『それから』を精読し、高等遊民の生活心得を学ぶ。
前回に学んだ高等遊民の信条は以下の通り。(1章前半)
- 枕元に花を飾る
- 植物についての知識はある程度備えている
- 自分の体を気遣っている
- ある程度の節制と肉体のバランス均衡を保っている
- 朝起きたら新聞に目を通し社会面を軽く読む
- 世の中の出来事もきちんと押さえておく
- 朝布団から出たら歯を丁寧に磨く
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『それから』本文の詳細読解(1章後半)
「先生、大変な事が始まりましたな」と仰山な声で話しかけた。この書生は代助を捕まえては、先生々々と敬語を使う。
……実際書生が代助の様な主人を呼ぶには、先生以外に別段適当な名称がないと云うことを、書生を置いてみて、代助も始めて悟ったのである。
書生の名は、門野(かどの)。
高等遊民は、先生としか呼びようのない存在たるべし。
(門野は)幸い頭と違って、身体の方は善く動くので、代助はそこを大いに重宝がっている。代助ばかりではない、従来からいる婆さんも門野の御蔭でこの頃は大変助かる様になった。
代助の家宅には、2人の住み込みのお手伝いさんがいる。自ら家事をすることはない。
書生門野と、ばあさんの会話
「先生は一体何を為る気なんだろうね。小母さん」
「あの位になっていらっしゃれば、何でも出来ますよ。心配するがものはない」
「心配はせんがね。何か為たら好さそうなもんだと思うんだが」
「まあ奥様でも御貰いになってから、緩っくり、御役でも御探しなさる御積りなんでしょうよ」
「いい積りだなあ。僕も、あんな風に一日本を読んだり、音楽を聞きに行ったりして暮していたいな」
「御前さんが?」
「本は読まんでも好いがね。ああ云う具合に遊んでいたいね」
「それはみんな、前世からの約束だから仕方がない」
「そんなものかな」
従来からいる住み込みのばあさんに「あの位になっている」と評価されている代助。
坊っちゃんと清の関係をどこか思い起こさせる。
何もしていないのに、過大評価されている。大物、立派な人物と認められている。
これぞ高等遊民の面目躍如たる部分である。逆に言えば、このような尊敬、少なくとも一定の敬意が必要だ。
高等遊民としての矜持を保つべし。
そして、一日じゅう読書をしたり、音楽鑑賞をする。
当時はコンサートだ。現代の高等遊民はCDでもいいかもしれない。だがコンサートに行くだけの余裕は欲しい。
まとめ
今回学んだ高等遊民の生活信条は次の通り。
- 後世の者から先生と呼ばれるべし
- 家事は住み込みの奉公人に任せるべし
- 有為な人間であると過大評価されるべし
- 1日じゅう読書をしたり音楽鑑賞をすべし
最も重要な鉄則は、3である。
これぞ高等遊民のアイデンティティであり、尊厳を保つための必須条件である。
その過大評価は4から生まれる。とにかく教養を身につけるべし。