【法律を守る理由を哲学】大学1年生の90%が納得した驚きの授業とは?

法律を守る。今さらながら、法律を守るとはどういうことなのか、考えてみましょう。

法律を守ることは当たり前ですよね。
少なくとも、私たちのほとんどはそう思っています。
しかし、その当たり前のことさえ守れない人も、当然ながらいます。

両者の違いは何でしょうか? 

私たちは容易に法を犯すことができます。
例えば、

  • 街角の電灯に石を投げる
  • 服を着ないで外を歩く
  • 電車内で喫煙をする

こんなことだけで、無法者になれます。

法律を守ることの是非・破ることの是非。
これを、ケーススタディで考えてみましょう。

 

大学1年生の法意識

昔、大学で哲学入門の授業のお手伝いをしていたことがあります。

そこで70名ほどのクラスからなる大学一年生に対して、法律を守ることの意識を(哲学の授業としての文脈で)聞いていました。

具体的には、

  • 和合秀典氏の高速道路料金不払い運動に対する印象
  • マーティン・ルーサー・キング牧師を代表とする公民権運動に対する印象

この2つを比べて、どんな意見を持つかを聞いていました。

 

和合氏の高速道路料金不払い運動

和合秀典氏とは、高速道路無料化を提案・主張する「フリーウェイクラブ」「新党フリーウェイクラブ」などを立ち上げた人物です。

その活動内容は、料金所で「無料通行宣言書」を提示し、ゲートを通過するというものでした。

2001年より開始し、2007年以降は支払いを行っている。
この活動は一定の支持者を集めたが、道路整備特別措置法違反で逮捕・起訴されたこともあります。
ちなみに2004年以後、罰則規定もできているようです。

和合氏の主張を「高速道路通行料は払いません」からまとめるとおおむね以下の4つとなります。

1.道路は原則無料であるべき。

2.高速道路料金は戦後の復興のための特別措置として、30年後の無料開放を約束していた(道路整備特別措置法、1956年)。ところが、日本中の道路が完成してから30年後という「プール料金制」が導入され、その後も道路公団の民営化により更に延長されている。これは詐欺のようなものである。

3.ガソリン税などによる「道路特定財源」は余っており、これを財源にすれば無料化は可能。

4.高速道路料金に関する法律は破綻しており、守る義務はない。

和合秀典(2006)(『払いません』所収、三五館、pp.10-29)

加えて、和合氏の言葉も引用してみます。

以上のようにさまざまな側面から検討しても、45年間、先送りに延ばし延ばしたこの法律は、すでに破綻しているのです。
これが、私たち国民が義務として守らなければならない法律なのでしょうか?

彼らは法律、法律、法律は守れと連呼しています。
しかし、よく考えてください。日本国民の義務として守らなければならない法律はもっと崇高なものです。
このまったく馬鹿らしい道路民営化を私たちフリーウェイクラブは法律として認めることはできません。

(前掲書、p.28)

さて、学生たちはどのような反応があったでしょうか。
「プール料金制は詐欺のようなものだ」との和合氏の主張には、同調する人が少なからずいました。
しかし、「そうはいっても、払うべきだ」という意見もありました。理由は主にふたつありました。

  1. 「自分だけ払わないのは、まじめに払っている人が損だから」という意見。
  2. 「無料化運動は良いが、法律に違反する仕方で運動をするのは、良くない」という意見。

これらの意見は、法律違反が道徳的に悪いことだという考えを学生たちが持っていることを裏付けます。
続いてキング牧師のケースを見てみましょう。

キング牧師と公民権運動

1950-60年代のアメリカ南部では人種差別が激しく、州の法律により白人と黒人の分離政策が行われていました。
「隔離すれども平等」という最高裁の判決により、分離政策は違憲とされていませんでした。

アラバマ州モンゴメリーでは1955年に、ローザ・パークスの逮捕を発端とし、バスの座席を白人用と黒人用に隔離するバス会社に訴訟、「バス・ボイコット運動」が発生しました。

キング牧師はそのリーダーとなりました。
一年後、連邦最高裁は市バスの人種分離を違憲と判決しました。
この一連の運動は、全米のみならず世界中に大きな反響を呼びこみ、公民権運動と呼ばれていきます。
アラバマ州バーミングハムにおける長距離デモ行進などが行われました。

バス・ボイコット運動は、バスに乗らないだけで、別に法律違反をしていたわけではありません。

しかし、それ以降の運動では、積極的に法を破り、服従しない方向へ傾いていきます。
バーミングハムではデモ行進は法律違反であるから、キング牧師はじめ参加者たちは次々と逮捕されました。

しかしその後も、キングは非暴力による運動を展開し、人種差別の撤廃を定める「公民権法」(1964年)の成立へと繋がります。

 

キング牧師の主張を確認しましょう。

1.人は不正な法にはしたがわない道義的な責任がある。人格を堕落させる法律は不正なものであり、人種隔離法はその施行が魂をゆがめ、人格を損なうので、不正な法である。

2.非暴力直接行動により、地域社会に対話する気を起こさせることができる。

こちらもお読みいただくと、さらにキング牧師の考えがわかります。

キング牧師の演説「白人への憐れみ」

さて、学生たちの反応はどうだったかというと、大多数がキング牧師は正しいと考えました。
和合氏の場合では和合氏が正しいと考えるのは半数程度だったことを鑑みると、これは大変な違いです。

学生が意見を変えた理由

学生たちは、和合氏には法律を守るべきと言いながら、キング牧師には守らなくてよいと言いました。

なぜ彼らは意見が変わったのでしょうか?
両者にはどのような違いがあるのでしょうか?

じっさい、学生たちの多くは確固たる意見があるわけではありません。
どうしてか理由を尋ねても、「何となく」といって、彼らは自身の道徳的な感覚で判断していたわけです。
(そのぼんやりとした感覚を何とか言葉にしてみようというのが、授業としての哲学の導入だったのです。)

では学生はどのような意見だったか。

「和合氏の場合は大した問題ではないけど、キング牧師の運動は、人権とか生活上に関わる大きな問題だから」という意見が出て、同調する人が多かった。

これは一見したところ笑ってしまうような素朴な答えですが、重要です。
「大した問題ではない」という判断の基準であったり、やはり「ケースバイケースで法や正義は破られてもいいのか?」という問題をはらんでいます。

さて、学生たちの意見から鑑みるに、法律を守るとは、それが自分の利益になること(害にならないこと)であれば、守るという考えに集約されます。

反対に、法律が自分たちに重大な不利益をもたらす場合には、法律に従わないか、改善を求めるべきだということになりました。

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