哲学者ホッブズの生涯と思想は?波乱万丈な人生を送った長生きおじいちゃん
「万人の万人に対する闘争」。
恐ろしい言葉で有名な哲学者ホッブズ。
彼はどんな生涯を送り、思想を抱えていたのでしょうか。
このページは生涯(人生)の部分を取り扱います
結論から言うと、
- 軍艦迫ってきたからお母さんが産気づいて、お父さんは蒸発して、伯父に引き取られる
- 貴族の家庭教師・秘書となり上流階級に登りつめるが、亡命を繰り返す
- 健康オタクの長生きじいちゃん
- ガリレオ・デカルト・ロックと会ってるし、ライプニッツから手紙もらってるし、フックのストーカー
- 生涯独身ながらも老いらくの恋を体験
- 数学者とデカルトとボイルと論争起こしまくる
- リヴァイアサンは誤解されやすい書物
- 自然状態は危険だから個人は主権者に自然権を渡し、大人しくしよう!
下記クリックで好きな項目に移動
ホッブスの人生と世界情勢。世界史的な文脈と一緒に俯瞰
ホッブズの人生は世界史と切り離せません
デカルト『方法序説』の中に出てくる言葉です。世界には自分の力でベストを尽くしてもどうしようもないものもある。残酷ですが、彼もそれを思い知っていたと思います。
どんな思想を唱えた哲学者とて人間です。世界の中にいる人間なのです。そこには一個人の力ではどうしようもない世界情勢があるのです。
いや、むしろそれがあったからこそ、彼らの思想はより磨かれて現在に残っているのでしょう。
ともかく、政治学者系哲学者は当時の世界史の背景もセットで語らないと、理解が難しいのです。そのため、ホッブズの生涯をイギリス史と共に語っていきます。
【年表】ホッブズの人生と世界史を並行して眺める
西暦・年号 | ホッブズの出来事 | 世界史の出来事 |
---|---|---|
1588 | ホッブズ誕生 | アルマダの海戦 |
1596 | 父が蒸発、伯父に引き取られる | ヴェニスの商人初演 |
1603 | オクスフォードの学生。 | エリザベス1世没。ジェームズ1世の元、スチュアート朝が開かれる |
1608 | 大学卒業。キャヴェンディッシュ家の家庭教師に | |
1625 | チャールズ1世即位 | |
1628 | ベーコンの元で秘書 | 権利の請願。ハーヴェーの血液循環説。 |
1629 | チャールズ1世が議会を解散 | |
1631 | キャヴェンディッシュ家に戻る | |
1634 | 大陸旅行をし、ガリレオやデカルトと会う | 船舶税施行。ハムデン事件 |
1637 | 帰国 | |
1639 | スコットランドの反乱 | |
1640 | 『法の原理』を世に出すが、この年の末にフランスに亡命 | 議会招集。イギリス革命の始まり |
1645 | チャールズ2世の家庭教師になる | ネーズビーの戦いで王党派が惨敗。チャールズ2世がフランスに亡命 |
1649 | 『市民論』がアムステルダムで出版 | チャールズ1世処刑。共和制になる |
1650 | 『法の原理』が出版 | |
1651 | 『リヴァイアサン』が出版。無神論だと疑われ、宮廷から追われる。 | 航海法発布 |
1652 | イギリスに帰国 | 第一次英蘭戦争開始 |
1653 | クロムウェル、護国卿に | |
1659 | クロムウェル死去。共和制の終了 | |
1660 | チャールズ2世と再会 | チャールズ2世が即位。王政復古 |
1665 | 第二次英蘭戦争開始 | |
1670 | ドーヴァーの密約 | |
1673 | 審査法 | |
1679 | ホッブズ、死去 | 人民保護法 |
1685 | ジェームズ2世即位 | |
1688~89 | 名誉革命でウィリアム3世とメアリ2世が即位。ジェームズ2世はフランスに亡命 |
まずはホッブズの生涯を見た後に、当時のイギリス史を説明していきたいと思います。
ホッブズの人生を生い立ちから長生きした晩年までわかりやすく解説
【壮絶】ホッブズの生いたち。母は早産、父は蒸発、伯父に引き取られた結果、「恐怖との双子」というパワーワード
(アルマダの海戦図)
1588年。この年、イギリスとスペインはアルマダ海戦という戦争をしていました。
スペイン軍の艦船はアルマダと呼ばれ、世界最強の軍隊と評されていました。
そんな物がイギリスに迫ってきたので、ホッブズのお母さんは恐怖で突如産気づきホッブズを産み落としました。
結果的にイギリスは勝利するのですが、この戦争の経験の所為でしょうか。
ホッブズは自分のことをこう評していました。
といっても、これはネガティブな意味でもないんです
ですから、彼は希望を抱いていたようです。
ホッブズが生まれたのは貧しい牧師の家でした。
牧師とは言っても、彼の父親は評判が良くありませんでした。
別の牧師に名誉毀損で訴えられ、傷害事件を起こしてしまいます。
1602年、ホッブズの父親は単身でロンドンに逃げ出しました。言うなれば蒸発したわけです。
普通ならここでホッブズの生涯はここで終わっているはずでした。
しかし、彼の伯父が経済的に苦しいホッブズの家族を引き取りました。
そのおかげでホッブズはオクスフォード大学に通うことができました。
ホッブズは大学卒業後に貴族の家庭教師・秘書となり、ベーコンの元でも秘書をやる
大学卒業後、ホッブズは名門キャヴェンディッシュ家の初代デヴォンシャー伯爵の家庭教師になります
そして、ホッブズは後に初代の伯爵の秘書として活躍します。
1628年に二代目の伯爵が亡くなり、一時期伯爵家から離れました。
では先立つ物はどうしていたのでしょうか?
ホッブズは数年前から別の人のところに仕えていました。
それがなんと、イギリス経験論の祖フランシス=ベーコンでした。
ホッブズはベーコンの論文をラテン語に訳す仕事などをしていました。
ベーコンは彼のことをこう語っています
ホッブズはフランスやイタリアへ旅行する。ガリレオやデカルトとの出会いもこのころ
二代目の伯爵の奥さんから「戻ってきて」との願いがあり、三代目キャヴェンディッシュ家伯爵の家庭教師として雇われます。
彼と共にフランスやイタリアに旅行しています。
なんとこの時期にガリレオやデカルトに会っています。驚きですね。
(ガリレオ。この肖像画なんか好き)
しかし、ガリレオと何を話したのかは分からないんですよね。
だってこの人、記録に残してなかったんですもの。
きっと科学とか哲学の話をしていたんだろうなとは思いますが、もしかしたら
みたいな会話だったかもしれません。
ホッブズが帰国して『法の原理』を書く。でもフランスに亡命
1640年、帰国した彼は『法の原理』という本を書いて、出版はせずに回覧させました。
この本に浴びせられた批判により、ホッブズは身の危険を感じてフランスに逃げます。
そこから5年後、最低限のお金を持って亡命したフランスで、ホッブズは、あるニュースを聞きます。
時の皇太子チャールズ2世がフランスに来て、代わりの宮廷を開き、そこの家庭教師にホッブズが選ばれたのです。
こうしてホッブズはチャールズ2世の家庭教師になりました。
家庭教師をしながら、ホッブズはあの名著を完成させます。
そう、『リヴァイアサン』です。
ホッブズ『リヴァイアサン』出版で炎上し、イギリスに帰国。
(リヴァイアサンの表紙絵)
1651年、ホッブズは有名な書物『リヴァイアサン』を出版したのです。
すると、これは宮廷の方々から無神論的だと思われ、ホッブズは立ち入りを禁止されました。
もうここには居られないと思ったのか、彼はイギリスに戻ります。
この時期は丁度冬の時期だったらしく、イギリスとフランスの間に横たわるドーヴァー海峡は酷く寒かったらしいです。
ホッブズの晩年。最期。長生きしすぎ
この後、ホッブズには穏やかな生活が続きます。貴族の館で安穏と過ごし、91でその生涯を終えました。
ホッブズはイングランドで一番小さい村とされるダービーシア州オルト・ハックナルの地方の教区教会に埋葬されました。
葬儀に参加した家族や隣人の一行はワインや焼いたケーキ、生のケーキ、ビスケットなどのもてなしを受けたそうです。
(ホッブズの墓石)
これは彼の墓です。墓の文章は彼自身が刻んだものらしいです。
意味は
だそうです。かっこいいですね。
【結論】ホッブズの一生は生い立ちがきついけど他人に助けられて穏やかに長生きできた
さて、ホッブズの一生を見てまいりました。
- 軍艦迫ってきたからお母さんが産気づいて、お父さんは蒸発して、伯父に引き取られる
- 貴族の家庭教師・秘書となり上流階級に登りつめるが、亡命を繰り返す
- 健康オタクの長生きじいちゃん
- 思想
- 人物像(エピソード)
- 当時のイギリス史
などは別のページに分けましたので、よければ続きをご覧ください↓
哲学者ホッブズとイギリス史を解説。17世紀イングランドの歴史
ホッブズのおすすめ本・参考文献・サイト
1、『ホッブズ リヴァイアサンの哲学者』
生涯も思想もよくまとめてあって、それでいて薄いので非常にありがたい新書。何度お世話になったか分からない。
2、『リヴァイアサンと空気ポンプ』
ホッブズとボイルの論争についてまとめてくれてる本。残念ながら長い。覚悟して読んで。
1より生涯と思想についてよくまとめてくれている本。表紙が素敵。
4、『新版 概説イギリス史』
イギリス革命の歴史を知るためにお世話になった本。私はイギリス革命のところだけ読んだけれど、他にももっと面白いところがあるかもしれない。
5、『ライプニッツとスピノザ』
「何度紹介するんだ」って思われるかもしれないけど、名著。読めばライプニッツとスピノザが好きになる。確実に好きになる。
6、『哲学者190人の死に方』
こちらも「何度紹介するんだ」って思われるかもしれないけど、名著。非常に読みやすいし、哲学者達のエピソードが豊富だから逸話を楽しみたい人にオススメ。
7、『若い読者のための哲学史』
哲学史と哲学者の逸話が非常にわかりやすく説明されている本。文章が1章1章短いのですっと読める。
8、『ロバート・フック』マーガレット・エスピーナス著
みやぎんさんに勧められた本。読んでみたら面白かった。今度買おうかなって考えてる。
9、『リヴァイアサン』(光文社古典新訳文庫)
『リヴァイアサン』本編が新しい訳で書かれている本。解説もあるので、最初に読み進めるのならこれ。
ただし翻訳者が哲学畑の方じゃないので、本格的に読むなら岩波文庫のほうがいいかも(精査してません)
以下写真なしで掲載
・『詳説 世界史B 改訂版』(山川)
・『ニューステージ 世界史詳覧』(浜島書店)
・『世界史用語集』(山川)
・『タテから見る世界史』(学研)
・『詳説 世界史研究』(山川)
・『倫理用語集』(山川)
海外サイト
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Thomas_Hobbes
→墓の写真を持ってきました。調べてみるものですね。
スペシャルサンクス
- ニートンさん〈@MNeeton〉
- フックについて詳しい科学史歴史創作家のみやぎんさん〈@miyagin0315〉
- ホッブズ本人
- ここまで読んでくれた貴方
ここまで読んでいただきありがとうございました!
広告
私、白兎は「今日は何の日か」調べて、短編を作る企画をしています。詳しくは
#今日は何の日短編集で検索!検索ぅ!
哲学にまつわる小説を書いてらっしゃる白兎扇一〈@WhiteRabbit1900〉さんに書いて頂きました