プラトンの入門書は数多いけれど、その中から2冊だけ勧められるものがあります。
本当は、もう1冊加えて3冊勧めるのが収まりがよい心地ですが、浅学非才ゆえ確信が持てる本は2冊にとどまりました。しかし、間違いのない推薦と自負しています。
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推薦1冊目:納富信留氏の『プラトン』
最初のおすすめは、納富信留『プラトン 哲学者とは何か』NHK出版(2002)です。
「これは異端の本である。」 著者自身、こう述べています。
この本は、プラトンについての教科書的な知識を求める人には全く無用・役立たずです。この著書はプラトンを題材に、私たち自身が哲学するよう導きます。
というのも、いったい哲学などという怪しい学問を学んでみようと思う理由は何でしょうか? それは雑学や教養のためというより、自分の生き方・社会のあり方・善悪・正義・・・そういったものについて考えてみたいという、純粋で無謀な気持ちが初めにあるのではないでしょうか?
本書は、そういった純粋な気持ちに申し分なく答えてくれます。納富氏の叙述は常に読者の現在、すなわち私たちの生のあり方を、挑発的に刺激します。本書のある一節を引用してみましょう。
さまざまな観点によって同じ物事が「正しい」とも「正しくない」とも現れる状況で、私たちは一体何が正しいのか分からなくなり、正しさなどというものは存在しない、すべては「正しくあり、かつ、ない」と思いこんでしまう。この世界は白と黒で決められるわけではなく、すべては灰色であると。・・・そのようなさまざまな思いこみは、結局、現実に埋没してそこで現実が見えなくなった人々がおちいる、似かよった反応なのである。
人々は、「より善く生きる」ことの模索を放棄し、現実をそのまま受け入れ、流動に身をまかせてしまっている。プラトンが生涯をかけて対決したのは、「現実」におもねるそのような生き方であった。
推薦2冊目:ジュリア・アナスの『1冊でわかるプラトン』
もう一つのおすすめは、ジュリア・アナス『1冊でわかる プラトン』岩波書店(2008)です。
こちらは、刺激性では上記納富氏の著書には劣りますが、プラトンに関する教科書的な知識を求める人にも勧められます。プラトンの諸作品に現れた哲学テーマについて、ジェンダーや徳についてなど現代的意義も語る、非常にバランスのとれた入門書です。
文章も簡潔にして要領を得ており、また難解とされるプラトン後期の作品への言及が多く、プラトンの難しい作品にもアプローチするきっかけを与えてくれます。
これも一節を紹介します。
ソクラテスは私たちが等閑に付していること――勇気、正義、その他もろもろの徳や、善き生を生きるという考え方・・・の理解に達してから、ようやく哲学のもっと壮大な仕事は着手されるべきだという。ソクラテスは、哲学的生とは自他の信念を吟味探求し続ける生だとした。学説をかかげる前に探求すべきであり、大がかりな主張をする前に理解を追求すべきだとしてゆずらないソクラテスに、プラトンは深く感じ入ったのである。
ソクラテスはまた、哲学する生を真剣に生きるべき生だと考え、自分の生き方を弁明するにあたっては、価値観を譲歩せずに死んだのである・・・プラトンは本人の視点では執筆せず、むしろきまってソクラテスを、真実を探究する哲学者の姿として描くことを選んだ。