『アイヴァンホー』は1819年に出版された、長編歴史小説。
ウォルター・スコット作だが、当初は匿名で出版された。
発行はエジンバラのカンスタブル書店。3巻本、各巻10シルで1万2千部を出版。
発行直後、瞬く間に売り切れ、当時の出版会に新記録を作ったという。
スコットの歴史小説はすべてスコットランドを主題とする小説であり、英語もスコットランドの方言が強く出た英語で書かれている。
しかし『アイヴァンホー』ではじめてイングランドを主題にし、方言のない英語で書かれている。
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『アイヴァンホー』あらすじ
主人公は、アングロ・サクソン武士の血をひく騎士サー・ウィルフレッド・アイヴァンホー。
アイヴァンホーは、父であるセドリックが後見するロウィーナ姫と相思相愛の仲。ロウィーナは、アングロサクソン貴族。
しかし父セドリックは、ロウィーナ姫の結婚相手には、アイヴァンホーではなく、アングロサクソンの王族であるアセルステーンを選ぶつもりでいる。
そのため、セドリックは、息子アイヴァンホーを追放する。
追放されたアイヴァンホーは、リチャード獅子心王に従い、十字軍に参加する。
リチャード獅子心王が本国を留守にしている間、王弟ジョンが、ノルマンの貴族と共謀して王位を奪おうとする。
しかしそれを知ったリチャード獅子心王は、アイヴァンホーとともに変装してイングランドへ帰国。
アイヴァンホーは、アッシュビーの剣闘会で、王弟ジョンに加担するノルマン貴族の騎士たち(ボアギルベール、フロンデブーフら)と闘うことになる。
ノルマン貴族の騎士らを見事打ち負かしたアイヴァンホーだが、そのさい負傷し、ヨークにある富豪のユダヤ人アイザックのもとで療養することになる。
ノルマン貴族に反感を抱く富豪のユダヤ人アイザックのもとには、レベッカという美しい娘がおり、アイヴァンホーはレベッカの献身的介抱を受ける。
しかし、ある時アイザック・レベッカ・アイヴァンホーの3人は、アイヴァンホーが剣闘会で打ち負かした騎士フロンデブーフの一味の襲撃を受け、捕えられてしまう。
3人はトーキルストン城に閉じ込められることになるが、そこにはアングロ・サクソン貴族たちが大勢捕えられていた。
アイヴァンホーの父セドリック、ロウィーナ姫、アセルステーン(セドリックがロウィーナ姫の結婚相手として考えていた王族)も、捕らわれた者のうちの1人だった。
そこへ変装したリチャード獅子心王と、ロックスリー(ロビン・フッド)の2人が、アングロ・サクソンの人民で構成された軍隊を率いて、トーキルストン城へ攻め込む。
リチャード獅子心王とロックスリーは、アイヴァンホー父子やロウィーナ姫らを救い出すが、ユダヤの娘レベッカだけは、連れ去られてしまう。
レベッカは、これまたアイヴァンホーが剣闘会で倒したノルマン貴族ボアギルベールに執念深い恋心を抱かれていた。
レベッカはテンプルストーに連れ去られ、叶わぬ恋だと悟ったボアギルベールによって、魔女として処刑されようとした。
その時、大教主の到来で処刑執行の猶予が言い渡され、再びアイヴァンホーとボアギルベールとの剣闘会によって判決を決めることになる。
つまり、アイヴァンホーが勝てばレベッカは無罪放免となり、ボアギルベールが勝てば、ボアギルベールの思うところをなしてもよいという取引となる。
アイヴァンホーは以前の闘いから、まだ傷が癒えていないが、レベッカの騎士としてボアギルベールと闘うことになる。
しかし、ボアギルベールはレベッカを想う興奮のあまり、試合開始とともに急死してしまう。
アイヴァンホーの勝利を受け、これまでずっと変装をしていたリチャード獅子心王は、覆面を脱ぎ、満場の騎士および庶民たちから忠誠の誓いを受ける。
そしてリチャード獅子心王は、アイヴァンホーをロウィーナ姫と結婚するように言い渡す。
『アイヴァンホー』解説/夏目漱石の評価
夏目漱石は自身の『文学論』でスコットの『アイヴァンホー』の描写における新たな工夫を賞賛している。
イングランドの歴史を舞台にした叙事詩のような壮大なストーリーは多くの賞賛を呼び、ヨーロッパ諸国語に翻訳された。
20世紀後半に到るまで、英米の学校教科書にも掲載されたこともある。
また、英国作家サッカレーによる「続アイヴァンホー」とも言うべき『レベッカとロウィーナ』(Rebecca and Rowena)のような派生作品も出版されている。