ソクラテスの議論不敗神話。
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若者を善くする人々は誰か?
「メレトス君、わたしに言ってくれ。君は若い人々ができるだけ善くなることが一番大事だと、そう思うだろう?」
「もちろんそう思う。」
「では誰が若い人々を善くしてくれるのだ?」
(メレトス沈黙)
「言えないじゃないか。」
「法律だ」
「いやそんなことは聞いてない。どの人間が若者たちを善くしてくれるのかを聞いているんだ。では法律を一番よく知っているのは誰だい?」
「ここにいる裁判官たちだ」
「彼らは若者たちを善くしているのかね。」
「そうだ。」
「裁判官たち全員かね。それとも、一部の人たちかね。」
「全員だ。」
「たくさんいるものだね。じゃあ裁判官でない、傍聴している人々も、若者を善くしているのかな。」
「そうだ。」
「どうやら私以外のすべてのアテナイ人が、若者たちを立派で善い人間にしているんだね。私だけが堕落させているというわけだね。」
「全く、そのとおりだ。」
「じゃあ馬の場合はどうだい。すべての人間が馬を善くすることができるのかね。それとも馬の調教師だけが善くできるのではないかね。」
「……」
若者を堕落させているのは意図的か
「善良な市民の間で暮らすのと、劣悪な市民の間で暮らすのは、どちらがいいだろう?」
「……」
「答えてよ。じゃあ劣悪な人たちは、近くの人々に害悪を与え、他方、善良な人たちは、近くの人々に益になるのではないかね。」
「そうだ」
「では一緒に暮らす人によって、恩恵を受けるよりも、害悪を受けることを望む人は誰かいるかな。」
「いや、いない」
「ではどうだろう。私は若者たちを堕落させているときみはいうが、それは私が意図的にやっているのか、それとも私は自分でも気付かないうちに、若者たちを堕落させてしまっているのだろうか。」
「あなたは意図的にやっていると、主張する」
「そうだったのか。私は意図的に若者たちを堕落させているとは全く気がつかなかったよ。いや教えてくれてありがとう。」