日本近代文学史おすすめ入門書は?サクッと読める10冊を紹介

明治以降、日本の近代文学の世界は隆盛を極めた。

仮名垣魯文に始まり、坪内逍遥、二葉亭四迷と出てくる。が、それ以降はとても追いきれない。

だから日本の近代文学史を学ぶ入り口になる、読みやすい本をいくつか紹介してみる。

日本の近代文学史は哲学史なんかよりもよほど複雑に入り乱れている。よく言えばガラパゴス。悪く言えば好き勝手。

(いや、哲学史も日本の哲学研究の歴史は複雑に入り乱れていると言える。)

 

それでも日本の近代文学の流れや、勘どころをふんわりと頭に入れてみたい。

 

日本の近代文学というガラパゴス諸島を散歩するにはどうするか。

とっかかりには、インテリ層は言うまでもなくあの評論家を用いるだろう。

 

そう、小林秀雄

 

だが小林秀雄は、残念ながらむずい。

小林秀雄は確かに私たち読者の蒙を開いてくれる豊かさを有している。

一方で、そんな小林秀雄を乗りこなすには、教習所に通わなければならない。

 

もっと運転免許の不要な、いいツールはないか。

小林秀雄のような自動車ではなく、散歩に丁度いいスニーカーでいいのだ。

ということで、もっとやさしいとっかかりを探してみよう。

 

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日本近代文学の足場その1 荒俣宏

荒俣宏。『理科系の文学誌』というおそるべき大著をもってデビューした、いまや人間ガラパゴスのような人物。

彼のプロレタリア文学に関する著作が、読みやすい。

プロレタリア文学を、単なるエンターテインメント小説として読もうというコンセプトで、作品を紹介している。

島崎藤村や江戸川乱歩なども紹介されている。

 

やや毛色が違うが、もうひとつ。

荒俣宏『ホラー小説講義』(角川書店)

2部構成で、西洋文学・東洋&日本文学。

日本近代文学については、泉鏡花や漱石・賢治を少しだけしか扱っていないが、文学を見るための新たな視点を提示してくれている。

 

 

日本近代文学の足場その2 中村光夫

中村光夫はオーソドックスな文芸評論家。小林秀雄と年齢的には10歳ほどしか違わない。

しかし小林秀雄と違って、実に簡素で明快な叙述が特徴だ。

以下の作品は、日本文学の大まかな解説書であるが、いまなお全然読みにくさを感じない。

 

中村光夫『日本の近代小説』『日本の現代小説』(いずれも岩波新書)

 

中村光夫の文学史、総論はこの2冊だが、ほかに各論・作家論があるので見逃せない。

 

特に二葉亭四迷

ほかにも『風俗小説論』『谷崎潤一郎論』『私小説名作選(編)』などの著作がある。

 

日本文学の変化球

さて、近代日本文学の入門的な解説書はわかった。

では一体、どれを読んでみたらいいのか?

 

正直に言えば、好きなものを読めばいい。

 

夏目漱石や森鴎外だって主要な作品をすべて読んでいる人は、日本人の1%もいないだろう。

ちなみに主要な作品とは、漱石であれば『我輩は猫である』『坊っちゃん』『草枕』『三四郎』『それから』『こころ』『明暗』あたりか。

こんな有名な作品であっても、全部読んだことある人などまずいない。1000人に1人もいればいいほうだろう。(もちろん、別に夏目漱石が必読であるわけではない。あくまで例だ。)

 

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有名な古典名作だってほとんど誰も読んでいないのが現実だ。

それでも、誰でもしっている名著を紹介しても仕方がないから、少し変化球的な小説作品をあげてみる。

 

島崎藤村『夜明け前』(岩波文庫など)

新潮文庫でもある。これは上記の荒俣宏『プロレタリア文学はものすごい』でも紹介されている。

これは大河ドラマになるような歴史小説。藤村自身の父親が主人公のモデル。

幕末の明治維新騒動・攘夷運動に参加したかったのに、自らの木曾の領地を守るために傍で見守ることしかできない男を描き出す。

 

 

小林多喜二『党生活者』(新潮文庫など)

『蟹工船』は荒俣宏によればスプラッターホラー小説という評だ。こういう視点や発想が時々出てくるから、荒俣宏はおもしろい。

 

それに対して『党生活者』は、ずっと落ち着いた、ユーモアにもあふれた小説作品となっている。

 

忘れられた小説家 佐々木邦

ちなみに戦前のユーモア小説作家として、佐々木邦を挙げておこう。

この人物を取り上げている文学史はあるのだろうか。皆無だ。(そんな文献があったらぜひ情報をお寄せください。)

 

そんな忘れられたユーモア作家だから、インテリはまず読んでいない。ねらい目の作家だ。

主人公の英語教師はあるときふと思い立つ。世に偉人伝は数多あるが、第二のナポレオンは現れない。ならば失敗に鑑みる『凡人伝』を書くほうがよほど有益だ。神童と謳われ、その後凡人の道を歩む自分の伝記を書こう、と。
自然主義、プロレタリア文学隆盛時に全く新たな分野を開拓、「ふつうの人々」の生活に寄りそい、上質で良識ある笑いを文学にもたらした、ユーモア小説の第一人者による傑作長篇。

出典:上記リンクの内容紹介

 

 


いたずら小僧日記、おてんば娘日記(amazon)

『いたずら小僧日記』はおそらく佐々木邦の処女作であると思われる。

 

内容は、1話完結のギャグまんがのようなものだ。が、不覚にも笑ってしまう箇所がいくつもある。

 

近所の女の子の面倒を見てやる話。お人形さんを持っているが、女の子はなぜだか知らないけど泣き止まない。

うるさいから人形を取り上げたら、もっと泣いた。

すると、じつはおなかを押すと音が出るお人形さんだったことに小僧は気づく。

どういう仕組みになっているんだろうと思って人形の腹をナイフで裂いたら、女の子はぎゃあとますます泣き叫んだ。

 

いたずら小僧のキャラが生き生きしていて、おもしろい。いわば『クレヨンしんちゃん』のように、小僧のキャラが勝手に動いている。

 

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