NHKのドキュメンタリーがとても面白いです。
マックスウェーバーの話をしていたので、そこをまとめてみます。
マックスウェーバーの話が出たのは第3回の放送(シリーズ全6回)。
あらすじはこんな感じです。
2009年秋のギリシャの財政赤字に端を発したユーロ危機。
ヨーロッパに信用不安が広がったがその国々にはある共通点が。
ポルトガルイタリアスペインなど「PIIGS」と呼ばれいずれもカトリックやギリシャ正教などプロテスタントではない国々。
宗教と経済。
果たしてそこには何らかの関係性があるのだろうか。
人々の長い営みの中で生まれた資本主義。
その枠組みはどのようにして形づくられてきたのか。
時代のルールが変わる時を6回にわたって読み解く異色の経済史。
第3回のテーマは「勤勉という美徳宗教改革の行方」。
プロテスタントとカトリック。
その根底には異なる倫理があるという。
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スイスの時計職人たちのルーツはプロテスタント
プロテスタントの発祥はフランスやドイツ。
16世紀に、カトリックによる宗教弾圧が始まりました。
フランスやドイツ人たちは、迫害を逃れてスイスにやってきました。
なぜスイス?
フランスやドイツの隣に今は国境があります.
スイスは山国なのです。アルプスの山々。
ちなみにスイスで検索するとこんな感じです。
時計づくりは、副業でした。
春夏秋は農業をやって食べ物を確保していましたが、冬の寒い日々に時計を作るようになったとか。
「農閑期の副業」ですね。
時計はとても精巧な機械。根気と時間がいります。
他にやることがないから、せっせとやったんだろう?
と思ってましたが、プロテスタントと聞いて、納得。
プロテスタントは、勤勉に働くことこそが天国に至る道であると信じた人々だからです。
マックス・ウェーバーとルター
ウェーバーはプロテスタントの職業観こそが「近代資本主義の精神」を支えたと指摘しました。
- 倫理を説く宗教
- 利潤を追求する資本主義。
一見無縁とも思える両者に関係を見いだした名著です。
近代資本主義の精神。その始まりをウェーバーはある人物に見いだしました。
宗教改革の指導者マルティン・ルター。
16世紀に始まったキリスト教の宗教改革のきっかけはローマ・カトリック教会がサンピエトロ大聖堂の修繕費を集めるために発行した贖宥状(しょくゆうじょう)。
いわゆる免罪符です。
罪の赦しが金で買えるとは、これいかに?
教会の堕落に抗議するルターに端を発した改革運動はプロテスタントという宗派を生みカルヴァンへと受け継がれます。
ルターはドイツ人
カルバンはフランス人です。
カルヴァンの予定説と天職
カルヴァンは教会の教えに頼らず聖書を中心にすえた教えを説きます。
- 教会の教えに頼るのがカトリック
- 聖書の教えに頼るのがプロテスタント
「なにがちがうの?」 と思われるかもしれません。
要するに、聖書に書かれていることを、教会が解釈するわけです。それがカトリック
聖書に書いてあることを、そのまま実行しよう。救いは自分自身の行いにある、としたのがプロテスタントなのです。
カルヴァンは徹底して、予定説というものを唱えました。
神の救いは信仰の深さや日々の善行に左右されると信じたカトリック。
それを徹底的に否定します。
「最後の審判」のあと誰が天国に行きまたは地獄に行く事になるか?
これははるか昔、神が永遠の予定として決めてしまっている事。
・我々はどんなに努力してもその予定を変える事などできない。
・また誰が救われ誰がそうでないかを知る手段もない。
・自分は選ばれた人間か? その答えは神のみぞ知る…。
・絶え間ない不安に置かれた人々は日々何に救いを求めるのか。
そこで登場するのが「天職」です。
自らの仕事を神から与えられた使命であるとし、天職での成功こそ神から選ばれた可能性を示す唯一の道なのです。
「よく分かんないなあ」という感じですが、
「私は神から選ばれた人間であるはず。そんな存在である私が、堕落した生き方をするはずがない。」
的な論理ですね。
「労働の意欲に欠けている。それは神の恩寵が失われている事を示している。財産を持つ人であっても働かずに食べてはならない。」
そうです。私なら絶対働きません。すいません。
もう企業家や資産家に熱烈に歓迎されそうですねえ。
カルヴァンとは徹底した論理主義者だったのかなぁと思います。
「論理的に導き出された結論が、どんなに突拍子がなくてもそれが正しいものと受け入れる」
そんな人となりだったのかもしれません。
だって予定説なんて異常ですものね。
ウェーバーの言葉:
神からの救いを手に入れる手段として休みなく働く事が教え込まれた。この職業労働だけが死後の不安を追い払い神の恩寵を与えられたという「確かな救い」をもたらす事ができる。
重商主義と資本主義「蓄財」
勤勉に働く事によって増えていく富。
これまでカトリックでは有り余った富は教会へ寄付する事がよしとされていました。
「大黒天」的な感じですね。
こうしたプロテスタントの教えは「蓄財」と呼ばれ、カルヴァンも認めます。
やはり新興の商工業者たちに熱烈に歓迎されたそうです。
- 勤勉
- 蓄財
- 投資による富の増殖
プロテスタントの職業倫理から図らずも生まれたサイクル。
ここにウェーバーは近代資本主義の精神の芽生えを見いだしました。
勤勉が富を生む。
現代でもこの考え方に完全に染まっているのが私たちです。
資本主義以前は、重商主義の時代でした。
重商主義での稼ぎ方は、貿易。
国家の力を背景にして、商人たちが独占貿易で富を築くのです。
重商主義において勤勉は、特に意味を持ちませんでした。
なので、勤勉は新しい仕事の価値観だったのです。
ベンジャミン・フランクリンと印紙税法
更にウェーバーが注目したのはプロテスタントの勤勉性がオランダからイギリスそして新大陸アメリカへと波及していく流れだった。
そこでもう一人のキーマンベンジャミン・フランクリンが登場する。
フランクリンは、プロテスタントの家庭に生まれ育ちました。
印刷業を経て、政治家になった人物。
友人と読書クラブをつくったのがきっかけで、アメリカで初の公立図書館をつくります
カレンダーに生活上の徳目や格言を書いていたのを、販売しようと思いついてバカ売れしたり。
とにかく何でもやっています。
当時重商主義政策のイギリスのもと植民地アメリカは重税にあえいでいました。
1776年にアメリカは独立宣言を出し、フランクリンはその草案づくりに参加します。
なんでフランクリンはそんな重要な人物として選ばれたかと言うと「印紙税法」がキーワードです。
↓番組からの抜粋
列強との植民地争いに明け暮れるイギリスは膨大な戦費を賄うため「印紙税法」を導入してアメリカへの課税を強化した。
フランクリンはイギリスへ赴き粘り強い交渉の末法律を廃止に追い込む。
不当な政策に反対し権利を取り戻す事ができると自信をつけたアメリカ。
議員以前に、印刷業の経験があったからこそ、フランクリンは印紙税法の廃止・交渉のリーダーに選ばれたのだと思います。
ベンジャミン・フランクリンと資本主義の精神
フランクリンが体現してみせた「勤勉さ」は欲望を満たすための手段ではなかった。
むしろ倫理的な生活のルールと蓄財そのものが自己目的化した生き方。
それこそが時代を画する資本主義の精神だったのだ。
このあたりもこちらの記事に詳しく書きました。
アダム・スミスと反グローバル経済
独立宣言が発表された1776年。
アダム・スミスはイギリスで『国富論』(諸国民の富)を出版しました。
それぞれの自己利益の追求が「(神の)見えざる手」によって社会全体の利益になる。
これは自由競争のバイブルとなります。
でも、それは、大いなる誤解なのかもしれません。
アダム・スミスの説いたのは、グローバル資本主義につながる自由競争ではありませんでした。
重商主義(グローバル経済)に反対し、国内での経済成長を促進するよう説いたのです。
アダムスミスは重商主義の大いなる批判者であり自由主義資本主義システムの生みの親でもあります。
この時期イギリスは最も繁栄した時代でした。 7年戦争と北米でのフレンチインディアン戦争に勝利し大英帝国が拡大しインドでも権力を振っていたのです。その時代にスミスは「この状況は問題が多い。他に方法があるはずだ」と主張したのです。驚くべき事でした。
スミスは「安全保障を懸念する重商主義者が絶えず戦争を起こす状況」に気づいていました。さらにナショナリズムに囚われてはいけないことも。いきつく先は帝国同士の対立です。植民地を増やそうと競争し、収益を増やし、黒字を目指す過程で戦争が避けられなくなるのです。
スミスは帝国間の争いだけでなく、植民地が起こす反乱もあると主張しました。重商主義と言う名の帝国主義を推し進めた末に支払うことになるコストを見抜いていたのです。
スミスが説いたのはグローバルな競争によって富を獲得する欲望の在り方からの脱却だった。
すなわち労働によって価値を生み工場やマーケットなど人々の活動の場で富を増大させるべきだと説いたのだ。
重商主義=帝国主義・グローバル経済・戦争に行きつく
自由主義=資本主義・国内経済
的な構図で説明されています。
スミスの主張は以下です。
- 土地の改良
- 分業を促進
- 労働生産性の向上。
- 商品の付加価値を高める
- 商品の自由売買
「国民の労働をより価値あるものにしようよ」という思想で『国富論』は書かれているのです。
まとめ
プロテスタントと経済について、現代の学者の解説・意見を述べていました。
私はプロテスタントの思想はヨーロッパ社会を根幹から変革したと思っています。もちろん失敗もあります。この思想は個人が強い倫理観を持っているか否かでその成否は左右されます。
もし世間の風潮は個人主義・消費主義に傾けばカルバンが説いた蓄財の正当性も消えてしまいます。宗教的な倫理が重要なのです。
欲望の経済史第3回をまとめてみました。
- カルヴァンが認めた「蓄財」思想が、企業家を喜ばせた
- フランクリンによる「印紙税法の廃止」がアメリカ独立へのステップとなった
- アダム・スミスが反グローバル経済を説いた
わたしがおもしろかったのは、以上の3点でした。
とっても面白いシリーズなので、また再放送してほしいですね。