アリストテレス著作と入門書まとめ~政治学から形而上学まで

      2017/03/01

古代ギリシャの哲学者アリストテレスの主著と入門書をまとめて紹介してみます。

今回は「おすすめ作品の紹介」のみにとどめ、個々の詳細な解説は、後日の別記事に譲りたいと思います。

 

まずはアリストテレスの作品からご紹介。

『ニコマコス倫理学』

アリストテレスの倫理学といえばニコマコスだが、実は『ニコマコス倫理学』だけではない。

ほかに『大道徳学』『エウデモス倫理学』というものがあった。しかしこれらの2つの著作は一部欠損があり、不完全な形でしか伝わっていない。

その反対に『ニコマコス倫理学』はほぼ完全な形で現代まで伝えられている。だから『ニコマコス倫理学』が倫理学の中では最も重要な著作という認定を受けた。

関連記事:アリストテレス『ニコマコス倫理学』あっさり要約&解説

 

アリストテレスの著作のなかで最も日本人に好まれており、翻訳も最も多い。有名なのを古い順に列挙すると以下の通り。

・岩波文庫(高田三郎訳) ※手ごろだが古い。わざわざ選ぶ必要なし。

・岩波旧全集(加藤信朗訳)※訳語が独特で分かりにくい。哲学科のみ参照すればいい。

・西洋古典叢書(朴一功訳)※詳しい訳・注釈つきだが、岩波新全集に役目を譲った。

・岩波新全集(神崎繁訳) ※最新で詳細な注釈と解説。読み込みたい方はおすすめ。

・光文社古典新訳文庫(渡辺邦夫・立花幸司訳)※手ごろな最新版。最初はこれがおすすめ。

 

と主なものだけで5種類ある。

岩波新全集と光文社古典新訳文庫はほぼ同時期に出ている。(2015年頃)

『ニコマコス倫理学』なら、まずは光文社新訳文庫を手に取ってみよう。

ちなみに訳者の渡辺邦夫氏は、アリストテレスのアクラシア問題を専門としている学者。

関連記事:「アクラシア問題」について(アリストテレス『ニコマコス倫理学』)

 

『政治学』

倫理学は明らかにアリストテレスが作り上げた学問領域だったが、政治学に関してはプラトンが先行している。(『ポリティコス』『国家』『法律』等)

政治学の訳は主なもので3種類。古い順に

・岩波文庫(山本光雄訳)※旧全集とほぼ同じ。古いし入手困難。不要。

・世界の名著=中公クラシックス(北嶋美雪他訳) ※抄訳。

・西洋古典叢書(牛田徳子訳)※完訳+注釈つき。これを手に入れよう。

西洋古典叢書が、現在の最新訳で、内容も最も優れているのでこれを読みたい。ただしこれも刊行年が2001年とだいぶ古くなっている。

おそらく2020年までには『新版アリストテレス全集』での新訳が刊行される予定だ。新全集の刊行を待ってもいいと思う。

 

『弁論術』

アリストテレスの『弁論術』は、使い方によっては現代でも使えると思う。

タイトルからは色んな演説テクニックの解説かとも思うが、内容は人間の感情を細かい記述が大部分を占める。

 

これは現状では岩波文庫一択。『弁論術』の解説書というのもあまりない。なにせ哲学研究で扱いにくい分野だから。早く全集出ろ。

 

『詩学』

アリストテレスの演劇論。有名な「カタルシス」の概念などはアリストテレスの『詩学』での説明が由来。

これも岩波文庫一択。世界の名著版を選ぶ理由が特にない。

 

『動物誌』

アリストテレスの真骨頂は、哲学よりも動物学にあるかもしれない。圧倒的な観察量。そして圧倒的な記述量。

ちなみにリュケイオン(アリストテレス版アカデメイア)の同僚テオプラストスは植物学を研究。分担であらゆる学問を研究していた。

これも現在は岩波文庫一択。ただしアリストテレスに興味があって『動物誌』を読みたい人はあまりいないかもしれない。

そこが変化球でねらい目、と思われる方は、ぜひお読みになっていただきたい。上下巻で分厚いので、ぱらぱらとめくって楽しそうなところを拾い読みするような読み方が楽しめると思う。

 

『魂論』

いわゆる『デ・アニマ』。魂とは何かというテーマで叙述。戦前では『心理学』というタイトルで訳されていた。魂は生命の原理として、栄養摂取能力の話から始めるのは、動物研究をしていたアリストテレスならではの観点。

主な翻訳は3つ

・講談社学術文庫(桑子敏雄訳)※『心とは何か』というタイトル。手頃だが、地味にわかりにくい。

・西洋古典叢書(中畑正志訳)※標準的な訳と解説。↓の新全集が出たので用済み。

・岩波新全集(中畑正志訳) ※同じ人の訳。だから新しい全集版でいい。

翻訳というものは、基本的には新しいほうが良い訳になっているし、注釈も詳しくなっている。

とはいえ必ず新しいほうが優れているかというと、そうでもなかったりする。(近年だと光文社古典新訳文庫のスタンダール問題やドストエフスキー問題などが有名。)しかし本書『魂について』の場合は、同じ人の訳なので、さすがに悪くなっているということはない。

 

『形而上学』

お待たせ。アリストテレスの主著にして、人類初の哲学史。

この訳は3種類。

・岩波文庫(出隆訳)入手が安易な唯一の完訳版。古いがこれしかない。

・世界の名著(松永雄二・川田殖訳)松永雄二訳は優れているが抄訳。

・講談社学術文庫(岩崎勉訳)入手困難。上記2つに比べ遥かに優れた版でもない。

最も重要な作品が、最も貧弱な訳しかないというのが現状。一刻も早く、新版の全集を刊行しなければならない。

難解なため、完訳で読む必要もないと言える。その点では、世界の名著版もアリだが、そもそも入手困難。

 

アリストテレス入門書

ここからは、入門書・解説書。

山口義久『アリストテレス入門』(ちくま新書)

はじめてアリストテレスを学んでみるなら、入門書はこれ一択。記述が実にわかりやすい。

アリストテレス本人の叙述というのは、丁寧にやってくれているのだけど、説明の多くが抽象的だから何を言っているのかわかりにくい箇所が多々ある。

この本は、アリストテレスの論理学から話を始めて、倫理学までずっと現代の読者が理解できるように書かれている。

おそらく標準的な哲学入門書としても最も優れたものの一つ。(これに対抗しうるのは、同じくちくま新書の石川文康『カント入門』か。)

 

今道友信『アリストテレス』講談社

「人類と知的遺産シリーズ」の文庫化。

標準的な解説書として重宝されているが、別に必読でもない。特に上記のちくま新書の『アリストテレス入門』が出てしまったことだし。

ただ、著作の抜粋も豊富に収録されているので、一冊でアリストテレスの作品にいろいろ触れてみたいなら、本書が最も手ごろだろう。

 

出隆『アリストテレス哲学入門』岩波書店

古いけれども、碩学による定番の入門書だった。

出隆は田中美知太郎と並び、戦後のギリシア哲学研究を牽引した学者。戦後第一世代とでも言うべき業績多き学者だ。出隆がいなければ、ギリシア哲学研究は10年は遅れていただろう。

現在でもギリシア哲学史の講義やシラバスの参考文献に出てきたりする。アリストテレスの著作の抜粋に、出隆が結構親切に注釈をつけていってくれている。

 

おわりに

こんな感じです。著作に関しては、後日もう少し詳しい紹介をしたいと思います。

それとアリストテレス自身による哲学入門として『哲学のすすめ』という作品があります。

詳しくはこちらで。

アリストテレス自身による入門書『哲学のすすめ』を読む

 

 

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