アリストテレス著作と入門書まとめ~政治学から形而上学まで




古代ギリシャの哲学者アリストテレスの主著と入門書をまとめて紹介します。

  • アリストテレスの作品
  • アリストテレスを学ぶ入門書

この順番で、まずはアリストテレスの作品からご紹介します。

『ニコマコス倫理学』なら光文社古典新訳文庫からスタート

アリストテレスの倫理学といえばニコマコス。
ですが、倫理学は、実は『ニコマコス』だけではありません。

ほかに『大道徳学』『エウデモス倫理学』というものがありました。
しかしこれらの2つの著作は一部欠損があります。
不完全な形でしか伝わっていません。

その反対に『ニコマコス倫理学』はほぼ完全な形で現代まで伝えられています。
なので、『ニコマコス倫理学』が「倫理学の中では最も重要な著作」という認定を受けました。
(本当に、そんな程度の理由。)

ニコマコス倫理学の中身は、
「オレの生き方が、一番神に近い」という自慢です(笑)

詳しくは↓で。

関連記事:アリストテレス『ニコマコス倫理学』の要約と解説

 

アリストテレスの著作のなかで最も日本人に好まれています。
翻訳も最も多い。

有名なのを古い順に列挙すると、以下の通りです。

・岩波文庫(高田三郎訳) ※手ごろだが古い。わざわざ選ぶ必要なし。

・岩波旧全集(加藤信朗訳)※訳語が独特で分かりにくい。哲学科のみ参照すればOK。

・西洋古典叢書(朴一功訳)※詳しい訳・注釈つきだが、岩波新全集に役目を譲りました。

・岩波新全集(神崎繁訳) ※最新で詳細な注釈と解説。読み込みたい方はおすすめ。

・光文社古典新訳文庫(渡辺邦夫・立花幸司訳)※手ごろな最新版。最初はこれがおすすめ。

 

と主なものだけで5種類あります。

岩波新全集と、光文社古典新訳文庫はほぼ同時期に出ています。(2015年頃)

『ニコマコス倫理学』なら、まずは光文社新訳文庫を手に取ってみましょう。

『ニコマコス倫理学』光文社新訳文庫

ちなみに訳者の渡辺邦夫氏は、アリストテレスのアクラシア問題を専門としている学者。

アクラシアとは、以下の「心の状態」を指します。

  • 「わかっちゃいるけど、やめられない」
  • 「やめられない、とまらない」

要するに「かっぱえびせん状態」です。

それか「中央出版状態」
(ついついお稽古さぼっちゃう~、ツイツイ、ツイスト♪)

それについて、アリストテレスはめちゃくちゃ考えました。

関連記事:「アクラシア問題」について(アリストテレス『ニコマコス倫理学』)

『政治学』は西洋古典叢書がおすすめ

つぎは政治学。

倫理学は、明らかにアリストテレスが作り上げた学問領域でした。

しかし政治学に関してはプラトンが先行しています。(『ポリティコス』『国家』『法律』等)

『政治学』の訳は主なもので3種類。古い順に

・岩波文庫(山本光雄訳)※旧全集とほぼ同じ。古いし入手困難。不要。

・世界の名著=中公クラシックス(北嶋美雪他訳) ※抄訳。

・西洋古典叢書(牛田徳子訳)※完訳+注釈つき。これを手に入れましょう。

西洋古典叢書が、現在の最新訳で、内容も最も優れています。
なのでこれを読みたいところ。
ただしこれも刊行年が2001年とだいぶ古くなっています。

おそらく2020年までには『新版アリストテレス全集』での新訳が刊行される予定です。
必要がなければ、新全集の刊行を待ってもいいと思います。

アリストテレス『政治学』(西洋古典叢書)

 

『弁論術』は岩波文庫しかない

アリストテレスの『弁論術』は、使い方によっては現代でも使えると思います。

タイトルからは色んな演説テクニックの解説というイメージがありますね。

しかし内容は「人間の感情についての細かい記述」が大部分を占めます。

 

これは現状では岩波文庫一択です。
そして『弁論術』の解説書というのもあまりありません。
なにせ哲学研究で扱いにくい分野だから。

早く全集出るのを待つのみです。

 

『詩学』

アリストテレスの演劇論。
有名な「カタルシス」の概念などはアリストテレスの『詩学』での説明が由来です。

これも岩波文庫一択。
「世界の名著」版もありますが、選ぶ理由が特にありません。

 

『動物誌』

アリストテレスの真骨頂は、哲学よりも動物学にあるかもしれません。

圧倒的な観察量。
そして圧倒的な記述量。

ちなみにリュケイオンの同僚にテオプラストスという人がいます。
リュケイオンとは、アリストテレス版アカデメイア。

テオプラストスは、植物学を研究していました。
リュケイオンでは、分担であらゆる学問を研究していたのです。

これも現在は岩波文庫一択。

しかし、アリストテレスに興味があって『動物誌』を読みたい。
こんな人は、あまりいないかもしれません。

「そこが変化球でねらい目だ!」と思われる方は、ぜひお読みになってくださいませ。

上下巻で分厚いです。なので、

  • ぱらぱらとめくって
  • 楽しそうなところを拾い読みする

こんな読み方が楽しめると思います。

 

『魂論』

いわゆる『デ・アニマ』。
魂とは何かというテーマです。

戦前では『心理学』というタイトルで訳されていました。

魂は生命の原理として「栄養摂取能力」の話から始めています。

これは、動物研究をしていたアリストテレスならではの観点ですね。
(『動物誌』おもしろそうでしょ?)

主な翻訳は3つあります。

・講談社学術文庫(桑子敏雄訳)※『心とは何か』というタイトル。手頃だけど、地味にわかりにくい。

・西洋古典叢書(中畑正志訳)※標準的な訳と解説。↓の新全集が出たので用済み。

・岩波新全集(中畑正志訳) ※同じ人の訳。だから新しい全集版でOK。

翻訳というものは、基本的には新しいほうが良い訳になっているし、注釈も詳しくなっています。

とはいえ必ず新しいほうが優れているかというと、そうでもなかったりします。

近年ですと光文社古典新訳文庫。

  • スタンダール問題
  • ドストエフスキー問題

などが有名ですね。

しかし本書『魂について』の場合は、同じ人の訳。
なので、さすがに悪くなっているということはありません。

 

『形而上学』

お待たせしました。
アリストテレスの主著にして、人類初の哲学史!

この訳は3種類。

・岩波文庫(出隆訳)入手が安易な唯一の完訳版。古いがこれしか選べません。

・世界の名著(松永雄二・川田殖訳)分担訳で、松永雄二訳は優れています。しかし抄訳。

・講談社学術文庫(岩崎勉訳)入手困難。上記2つに比べ遥かに優れた版でもありません。

最も重要な作品が、最も貧弱な訳しかない。

これが『形而上学』翻訳の現状です。
一刻も早く、新版の全集を刊行しなければなりません。

とはいえ、難解なため、完訳で読む必要もないと言えます。

その点では、世界の名著版もありです。
(でも、そもそも入手困難。)

 

アリストテレス入門書

ここからは、入門書・解説書です。

山口義久『アリストテレス入門』(ちくま新書)

はじめてアリストテレスを学んでみるなら、入門書はこれ一択!
記述が実にわかりやすい。

アリストテレス本人の叙述というのは、クセがあります。

ワケの分からない専門用語は使いません。(超越論的なんちゃら、みたいなのはない。)
というか、日常語を専門用語化させるんです。
(たとえば「〇〇であったもの」という言葉を概念用語として扱ったり。)

よく読めば、丁寧にやってくれているのだけど、説明の多くが抽象的。

だから「何を言っているのか、わかりにくい箇所」が多々あります。

山口さんのこの本は、アリストテレスの論理学から話を始めます。
そして、倫理学まで、「ずっと現代の読者が理解できるように」書かれています。

おそらく標準的な哲学入門書としても最も優れたものの一つです。
(これに対抗しうるのは、同じくちくま新書の石川文康『カント入門』くらいです。)

 

今道友信『アリストテレス』講談社

「人類と知的遺産」という「1980年代の哲学入門書シリーズ」
これの文庫化です。

標準的な解説書として重宝されています。
充実していますが、別に必読でもありません。

特に上記のちくま新書の『アリストテレス入門』が出てしまったことだし。

ただ、著作の抜粋も豊富に収録されています。

「一冊でアリストテレスの作品にいろいろ触れてみたい」

これなら、本書が最も手ごろで、買いです。

 

出隆『アリストテレス哲学入門』岩波書店

古いけれども、碩学による定番の入門書でした。

出隆(いでたかし)という人は、田中美知太郎と並び、戦後のギリシア哲学研究を牽引した学者です。

「戦後第一世代」とでも言うべき業績多き学者です。
出隆がいなければ、ギリシア哲学研究は10年は遅れていたでしょう。

現在でもギリシア哲学史の講義やシラバスの参考文献に出てきたりします。

この本の中身は、アリストテレスの著作の抜粋がほとんど。

それに、出隆さんが、かなり親切に注釈をつけていってくれています。

 

おわりに

アリストテレスの主張著作おすすめ翻訳と
おすすめ入門書のご紹介でした。

それとアリストテレス自身による哲学入門もあります。
『哲学のすすめ』という作品。

これはかなりおもしろいですよ。
アリストテレスが一般人向けに、本当に分かりやすく書いています。

詳しくはこちらでご紹介しました。

アリストテレス自身による入門書『哲学のすすめ』を読む