トマスホッブズの人物像や性格のわかる逸話。ロックやライプニッツとの関係やエピソード。

高等遊民
こちらは寄稿記事です。

哲学にまつわる小説を書いてらっしゃる白兎扇一〈@WhiteRabbit1900〉さんに書いて頂きました

 

ホッブズの生涯の続きです。ホッブズの時代のイギリスの歴史についての詳しい紹介です

前回の記事はこちら。

【年表】ホッブズの経歴と人生を生い立ちから解説。長生きすぎて笑う

哲学者ホッブズとイギリス史を解説。17世紀イングランドの歴史

 

白兎扇一
さて、ここまでイギリス史を説明してきました。次はホッブズがどういう人間だったのかを明かしていきたいと思います。

ホッブズの人物像・性格。逸話とエピソード

白兎扇一
(若き日のホッブズ。なんか可愛い)
高等遊民
かわいいの定義を哲学しないといけない

 

ホッブズの容姿と性格~カラスと呼ばれたり熊さんと呼ばれたりする紳士~

哲学者。

そう聞くと、痩せてガリガリの老人で、いつも床についているか引きこもっているかの根暗そうな人物を想像することが多いです。

しかし、実際上のイメージに当たる人は少ないかもしれません。

白兎扇一
ソクラテスにしろピタゴラスにしろ筋肉隆々としてますし、むしろ賢い仲間達やスポンサーの貴族に出会うために外に出て明るくお話をする人が多い気がします。

 

ホッブズもそういった類の人でした。年をとった肖像画からは想像できませんが、小さい時はカラスと呼ばれるほどの黒髪の持ち主だったらしいです。

 

成長してからは180cmもの高身長に恵まれ、いつも明るく快活で話も面白い人であったようです。

高等遊民
高身長・イケメンで話が面白いとか。ホッブズ許さん

 

秘書の仕事を何十年も勤まり、チャールズ2世の家庭教師も行えたのはこの人格さ故でしょう。

因みにチャールズ2世は彼のことを「熊さん」と呼び、彼が来ると「熊さんがなぶられにきたぞ!」とからかっていたそうです。ホッブズすごい。

 

ホッブズの生き方~哲学者ナンバーワンの健康オタク~

35歳。

現代日本に生きる私達には人生まだまだこれからといった年齢ですが、ホッブズの生きていた時代には人生の幕を引いてもおかしくない年でした。

 

この時代にホッブズは91歳まで生きています。

元々体が丈夫だったのでしょうか。

白兎扇一
いえ、彼は元々20代の時はあまり健康ではありませんでした。

60歳になってから本格的に健康に気を使うようになったようです。彼の健康の秘密を見ていきましょう。

 

ホッブズが長生きだった理由。ホッブス式健康術!

  1. 飲酒禁止
  2. 食事に気を使う。特に鱈の一種などをよく食べる
  3. 汗をかくため毎日精力的に歩く。特に息が切れるまで早足で坂を登る
  4. 身体を擦ってもらう(使用人にお金を渡した)
  5. コートテニスをやる(75歳まで)
  6. 肺を鍛えるために当時の流行歌を歌った

 

白兎扇一
ウォーキングの鬼です。

老人は冷えるから過度の水分を排出できると信じていた。歩く時にも閃きが訪れる可能性があるため、持ち手にインク壺が仕込まれた特製のステッキを使った。

歌を歌うおじいさんでした。

 

白兎扇一
ドアは閉めていたようだが、隣人には丸聞こえで「あまり上手くない」と評されている
高等遊民
高身長イケメンで話はおもしろいけど、歌が下手m9(^Д^)

 

ちなみに流行歌とは

  • 『フィリス、僕らはどうしてグズグズしなければならないの?』
  • 『バラの蕾は摘める内に摘め』など

 

白兎扇一
これ、原題が分からんからYouTubeでも探せないです

 

なかなかすごいことやってますね、おじいちゃん。歌は絶対余計だと思いますが、それ以外は現代科学に即して考えても健康につながる術ではないでしょうか。

現代日本に居たら青汁とか黒酢サプリとか買ってそうですね。水素水は流石に買わなそうですけど。

 

ホッブズの交友関係~ロックとの出会い・ライプニッツからの手紙・フックのストーカー~

 

ホッブズとロックの関係

ベーコンの秘書であり、ガリレオとデカルトにも会ったホッブズ。

彼はもう一人、歴史の大偉人にも会っています。

その名はジョン・ロック。

恐らく社会科の教科書を開くと、ホッブズの隣に書いてある偉大な思想家です。

 

白兎扇一
ホッブズはロックにも一度会っているのです。すごくないですか?
高等遊民
すごい

現代社会の教科書、社会契約説のお三方のそのうち二人が会ってるんですよ。

歴史を変える二人が会ってるんですよ。

白兎扇一
この情報見た時に私、電車の中で「ヴェッ!?」って変な声上げましたからね?
高等遊民
ヴェッ!? まではいくかどうかわからん

 

隣のサラリーマンが見せたぎょっとした目が忘れられません。

しかし、この出会い、元々実現するはずはなかったのです。

 

ロックは当時出世街道を渡っていました。イギリス社会の嫌われ者であったホッブズに会うことは自分の地位を失うことにつながると考え、嫌がっていたそうです。

また、もう一つ彼らの出会いを妨げたものがありました。

 

実は、ホッブズの秘書オーブリーの存在です。

高等遊民
だれ

オーブリーとロックは実は同じ村で育った幼馴染でした。

当初彼は会わせたかったと思います。

しかし、この当時ホッブズには科学界にも論敵が多く、王立協会の科学者でありボイルの法則で有名なロバート・ボイルもいました。(ボイルとの論争も後で取り上げます)

 

ロックは科学者としても活躍し、王立協会にも入っており、ボイルとは友人関係にありました。

 

こういった複雑な、あまりに複雑な人間関係を踏まえて、オーブリーはこの二人を会わせないようにしていたのです。

結局会ってしまうんですが、ロックのその後の活躍を見る限りお咎めはなかったようですね。よかったよかった。

 

ホッブズとライプニッツの関係

白兎扇一
そうそう、ライプニッツからも賞賛の手紙をもらっているのですよ。

最も彼の場合、人脈とコネ作りのために送ったという面が大きいでしょうけれども。

ホッブズはそれを見抜いていたのか、もはや名声に満ち溢れてそんな物など屁とも思わぬようになっていたのか、この手紙を無視します。

白兎扇一
せめて返事してあげてくださいよ……ライプニッツ泣いちゃいますよ? ただでさえ味方少ない人なのに……。

 

ホッブズとロバートフックの関係

特に「面白いなー」と思った出会いは科学者ロバート・フックとの出会いですね。

生物の教科書では細胞をcellと名付けた男、物理の教科書ではバネの比例についての法則─フックの法則を見つけた、あのフックです。

ホッブズは彼をいたく気に入っており、黙ってフックをジロジロ見ていたそうです。

白兎扇一
これ、教えてくれた友人のみやぎんさんと「ストーカーじゃん!」と盛り上がっていました。気持ち悪いですよね。

 

尚、フックはホッブズを酷評してます

「自分の意見は何があっても正しいと思っている。他の人の意見を馬鹿にする。自分が素晴らしいと思っている」

と散々な評価を下しているようです。

フックはこの後話すホッブズとボイルの論争でボイル側の人間だったため、その色眼鏡もあるでしょうから彼の人格として認めるのは難しいですね。

さて、ちょっと下世話な話になりますが、ホッブズの恋愛を見ていきましょう。

 

ホッブズの恋愛や結婚~生涯独身の哲学者は老いらくの恋を経験した!?~

白兎扇一
最初に言っておくとホッブズは生涯独身でした。
高等遊民
えらい。偉大な哲学者はみんな非モテだからね。ホッブズもその例に漏れてない

 

何故かというと、彼の本職である秘書という職業が貴族の館に住み込むことが条件だったので、ステディな関係の女性を連れ込むことができなかったというのが大きいでしょう。

では、全く恋愛がなかったのでしょうか?

いえ、一応はあったはずです。

先ほどのオーブリーの文章では「ワインと女は“ほどほど”にしていた」らしいので、少しは経験したのでしょう。素人女性とは限りませんが。

 

それに40になってから恋人できているようですしね。人格も良さそうですし、決してモテなかったわけではないのでしょう。サルトルほどではないにしろ。

 

また、90になってからも若い女性の友人に次のような恋愛詩を残しています。

 

ホッブズの恋愛詩

いまや90余りになって老いさらばえ

クピド(キューピッド)の庭に矢を望むもあたわず

幾冬かが我が身を凍えさせ

いまにも愚かになりそうだ

もちろん私は愛することも恋人を持つこともできる

できるだけ公正に、同じくらい賢く

しかもなお誇るでも何をするでもなく

つまりは彼女を絶望させぬために

その彼女が貴方であると告げるとは大胆だと思うかもしれない

だが、例え貴方がそうした私に出会ったとしても

年老いてはいるが、愚かだと思わないでほしい

彼は公正さを愛し、より公正な精神を愛したのだから

ホッブズ
「君のことは好きだけど手は出さないよ。でもバカにしないでね。これが儂なりの正しさであり優しさだから」

 

 

要約するとこんなもんでしょうか。

白兎扇一
うん、ロマンチストすぎません?おじいちゃんロマンチックすぎません?惚れたんですけど。

 

余談ですが、二節目の一行目にある「恋人を持つこともできる」

別の書物では「抱く」とも訳されているんですよね。

 

「抱く」の方が強引さと情熱を感じて好きなのですが、まぁおじいちゃんがロマンチストであることには変わらない。

 

白兎扇一
この女性とはどうなったのかは分かりません。そもそも名前がわからないんですから追いようがありません。

 

しかし、死の間際に彼女とは別のマリー・デルという女性に10ポンドを残してくれという遺言も残していますから、乗り換えたのではないかと思っております。

それにしても気になるのは10ポンドという額です。

先ほど説明した科学者ロバート・フックの助手であるハリー・ハントの年給が10ポンドだったため、決して安くない額でしょう。

 

本当、マリー・デルはホッブズに一体何したんでしょう。資料が残ったんでステディな関係になってたかどうかすら分からないんですよね。

 

ともかくホッブズは最期まで精力的なおじいちゃんであることに変わりはないようです。

 

以上、トマスホッブズの人物像や性格のわかる逸話。ロックやライプニッツとの関係やエピソードでした。

 

続いてはホッブズの論争です

ホッブズの論争の逸話。デカルトやボイルと激しい喧嘩が勃発

 

ホッブズのおすすめ本・参考文献・サイト

1、『ホッブズ リヴァイアサンの哲学者

生涯も思想もよくまとめてあって、それでいて薄いので非常にありがたい新書。何度お世話になったか分からない。

2、『リヴァイアサンと空気ポンプ

ホッブズとボイルの論争についてまとめてくれてる本。残念ながら長い。覚悟して読んで。

3、『ホッブズ政治と宗教―『リヴァイアサン』再考

1より生涯と思想についてよくまとめてくれている本。表紙が素敵。

 

4、『新版 概説イギリス史

イギリス革命の歴史を知るためにお世話になった本。私はイギリス革命のところだけ読んだけれど、他にももっと面白いところがあるかもしれない。

 

5、『ライプニッツとスピノザ

「何度紹介するんだ」って思われるかもしれないけど、名著。読めばライプニッツとスピノザが好きになる。確実に好きになる。

6、『哲学者190人の死に方

こちらも「何度紹介するんだ」って思われるかもしれないけど、名著。非常に読みやすいし、哲学者達のエピソードが豊富だから逸話を楽しみたい人にオススメ。

 

7、『若い読者のための哲学史

哲学史と哲学者の逸話が非常にわかりやすく説明されている本。文章が1章1章短いのですっと読める。

高等遊民
たまにkindleで安い。

 

8、『ロバート・フック』マーガレット・エスピーナス著

みやぎんさんに勧められた本。読んでみたら面白かった。今度買おうかなって考えてる。

 

9、『リヴァイアサン』(光文社古典新訳文庫)

『リヴァイアサン』本編が新しい訳で書かれている本。解説もあるので、最初に読み進めるのならこれ。

高等遊民
amazonの読み放題で読むなら第1巻が無料なので、とりあえずの入門にはおすすめです。
ただし翻訳者が哲学畑の方じゃないので、本格的に読むなら岩波文庫のほうがいいかも(精査してません)

 

以下写真なしで掲載

・『詳説 世界史B 改訂版』(山川)

・『ニューステージ 世界史詳覧』(浜島書店)

・『世界史用語集』(山川)

・『タテから見る世界史』(学研)

・『詳説 世界史研究』(山川)

・『倫理用語集』(山川)

 

海外サイト

https://en.m.wikipedia.org/wiki/Thomas_Hobbes

→墓の写真を持ってきました。調べてみるものですね。

 

スペシャルサンクス

  • ニートンさん〈@MNeeton
  • フックについて詳しい科学史歴史創作家のみやぎんさん〈@miyagin0315
  • ホッブズ本人
  • ここまで読んでくれた貴方

ここまで読んでいただきありがとうございました!

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白兎扇一

私、白兎は「今日は何の日か」調べて、短編を作る企画をしています。詳しくは

#今日は何の日短編集で検索!検索ぅ!

高等遊民のnoteの紹介

 

noteにて、哲学の勉強法を公開しています。

 

現在は1つのノートと1つのマガジン。

 

1.【高等遊民の哲学入門】哲学初心者が挫折なしに大学2年分の知識を身につける5つの手順

2. 【マガジン】プラトン『国家』の要約(全10冊)

 

1は「哲学に興味があって勉強したい。でも、どこから手を付ければいいのかな……」という方のために書きました。

5つの手順は「絶対挫折しようがない入門書」から始めて、書かれている作業をこなしていくだけ。

3か月ほどで誰でも哲学科2年生レベル(ゼミの購読で困らないレベル)の知識が身につきます。

3か月というのは、非常に長く見積もった目安です。1日1時間ほど時間が取れれば、1ヶ月くらいで十分にすべてのステップを終えることができるでしょう。

ちなみに15000文字ほどですが、ほとんどスマホの音声入力で書きました。

かなり難しい哲学の内容でも、音声入力で話して書けます。

音声入力を使いこなしたい方の参考にもなると思います。

 

2はプラトンの主著『国家』の要約です。
原型は10年前に作成した私の個人的なノートですが、今読んでも十分に役に立ちます。
岩波文庫で900ページ近くの浩瀚な『国家』の議論を、10分の1の分量でしっかり追うことができます

\無料試し読み部分たっぷり/

1 個のコメント

  • トマス・ド・クインシー「芸術の一分野として見た殺人」の中でホッブズのエピソードがあって辿り着きました
    誰かに殺害されるんじゃないかと怯えていたようです

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