陶淵明の生涯と人生。漢詩の代表作品と飲酒のエピソードが面白い

中国詩歌史上最高の二人、李白と杜甫が生まれる300年も前。

陶淵明という詩人がいたことをご存知ですか?

陶潜の名で聞いたことがあるかもしれません。

彼はどのような人生を送り、どのような詩を詠んだのでしょうか。

今回は、陶淵明の

  • 名前の意味と由来
  • 生涯と人生
  • 代表作
  • 酒好きエピソード

 

について紹介しますよ!

こちらを読めば、陶淵明の生涯と人生・代表作や飲酒のエピソードが分かって、作品もさらに楽しめるようになります。ぜひご覧ください。

 

陶淵明の名前の意味と由来は?

陶淵明と言う名でよく耳にしますが、実は本名は「陶潜」です

「潜」とは、

  • 水中にもぐる
  • 中にひそんで表に現れない
  • 思いをひそめる
  • 物事に没頭する

 

の意味があります。

「淵明」は字(あざな)です。

こちらの方がなぜか馴染みがありますよね。

そして、

  • 五柳先生
  • 田園詩人
  • 隠逸詩人

 

とも呼ばれています。

五柳先生は、陶淵明の自叙伝的作品「五柳先生伝」からきています。

田園詩人や隠逸詩人は、晩年を田園に隠遁し、詩作を行っていたことから名づけられました。

 

陶淵明の生涯と人生

陶淵明は365~427年、東晋時代を生きた詩人です

  • 日本で言うと、やっと大和時代が始まるかどうかのあたりです。
  • 日本ではこの頃の現存している文学はありませんので、どれほど中国の歴史が長いかが分かりますよね。
  • 晋末の混乱した世の中だったので、陶淵明は食事にも事欠くような幼少期を送りました。

 

家は貧しい農家で、農耕生活でした。

そんな中でも、将来を夢見てできる限り勉学に励むのでした。

勉強の甲斐あってか、何度も仕官することはできるのですが、すぐに辞職してしまいます。

就職と辞職の繰り返しでした。

 

具体的には、

  • 28歳:祭酒として出仕するもすぐに辞職。直後に記録官に声がかかるが辞退。
  • 34歳:刺史・桓玄仕えるも、2年後には辞職。
  • 39歳:鎮軍将軍・劉裕に幕僚として仕えるも辞職。
  • 40歳:県令となるが、数か月後には辞職。

 

約10年間に何度職を変わっていることか・・・。

  • 出仕するのは、経済的な理由でしたが、どれも下級役人の仕事。
  • これに耐え切れず、すぐに辞職してしまう陶淵明なのでした。
  • 混乱期に、これだけお声が掛かるなんて幸せなことじゃないですかね?

 

束縛されるのが嫌いな陶淵明ですので、仕事に満足できなければ働く意義を見出せなかったのでしょう。

でもさ、そんなこと言ってる場合なのかしら?

困窮した幼少期を送っているからこそ、仕事があって、お給料をもらえるありがたさを知っているのでは・・・

40歳で仕官を退いた陶淵明は「帰去来の辞」を作って帰郷してしまいました。

その後は、隠遁生活を送ります。

  • 酒をこよなく愛し、
  • 自然を楽しみ、
  • 琴を友として詩を作り

 

まさに、悠々自適な生活でした。

  • 実は、この隠遁生活中にも、朝廷から仕官のお誘いがありましたが、陶淵明は辞退。
  • 宮仕えをしたい人は山ほどいたでしょうに、辞退してしまうだなんて、無欲な人ですよね。
  • 悠々自適な隠遁生活がかなり気に入っていたんでしょうね。

 

そして、陶淵明は、63歳でこの世を去ることとなりました。

 

陶淵明の代表作品

陶淵明の作品は、130首を超えるものが現存しています。

陶淵明の代表作には、

  1. 漢詩のもの
  2. 散文のもの

 

があります。

詩人ですので、詩を作っているのはもちろんなんですが、陶淵明は優れた散文も残しています。

それぞれを紹介しますね。

 

1.陶淵明の漢詩の代表作

陶淵明の詩は「田園詩」と呼ばれるものが特に評価されています。

  • 江南の田園風景を詠み込み、
  • 官吏としての世俗の生活には背を向け、
  • 晴耕雨読の生活が主題

 

となっています。

これは、「理想の隠遁生活」として高く評価されています。

高く評価される理由としては、

  • 理想を詠み込むのではなく、
  • 陶淵明が自らの日常生活の体験を具体的に詠むことで、
  • 詩としての感動を失わない

 

ことが挙げられます。

詩の言葉も、飾り気のない表現を使っています。

これは、当時の流行であった、

  • きらびやかで
  • 新奇な表現を追求する

 

スタイルとはかけ離れており、すぐには受け入れられませんでした。

陶淵明の詩が評価されたのは、唐代からで、宋代以降にやっと高い評価を得るようになります。

今回は、陶淵明の漢詩の代表作「飲酒」其の五を紹介しましょう。

 

「飲酒」其の五

結廬在人境 (廬を結びて人境に在り)

而無車馬喧 (而も車馬の喧しき無し)

問君何能爾 (君に問ふ 何ぞ能く爾ると)

心遠地自偏 (心遠ければ 地 自ら偏なり)

採菊東籬下 (菊を採る 東籬の下)

悠然見南山 (悠然として南山を見る)

山気日夕佳 (山気 日夕に佳し)

飛鳥相与還 (飛鳥 相ひ与に還る)

此中有真意 (此の中に真意有り)

欲弁已忘言 (弁ぜんと欲して已に言を忘る)

【現代語訳】

粗末な家を人里の中に構えているが、

にもかかわらず訪問客の車馬の騒がしさがない。

なぜそんなことができるのか。

心が遠く俗界を離れていると住む土地も自然と辺鄙な場所になるのだ。

東の垣根のあたりで菊の花を摘み、

ゆったりと南山(廬山)を眺める。

山の光景は夕方が特に素晴らしい。

鳥たちが連れ立って山の巣に帰っていく。

この光景に内にこそ、真実の境地が存在する。

しかし、それをつぶさ説き明かそうとすると、言葉を忘れてしまうのだ。

「ビジュアルカラー 国語便覧」大修館書店 より引用

 

これは「飲酒二十首」のなかの一首です。

陶淵明が無類の酒好きだったことは後で述べますが、この「飲酒」という詩篇はただお酒を飲んだことが詠まれているわけではありません。

紹介した「飲酒」其の五では、

世俗と近い距離に身を置いていても、自分の心の持ちようで隠遁生活は送れる

という、隠遁生活を送る上での心の持ちようを詠んでいます。

 

2.陶淵明の散文の代表作

陶淵明は詩のほかにも辞賦や散文も残しています。

高校の教科書には陶淵明の散文の代表作『桃花源記』が載っているものもあります。

その他には、

  • 帰去来の辞
  • 五柳先生伝
  • 閑情の賦

 

などがあります。

ここでは、『桃花源記』の冒頭部を少し引用してみます。

 

【白文】

晉太元中、武陵人捕魚爲業。

縁溪行、忘路之遠近。

忽逢桃花林。

夾岸數百歩、中無雜樹。

芳草鮮美、落英繽紛。

【書き下し文】

晋の太元中、武陵の人魚を捕らふるを業と為す。

渓に縁りて行き、路の遠近を忘る。

忽ち桃花の林に逢ふ。

岸を夾むこと数百歩、中に雑樹無し。

芳草鮮美にして、落英繽紛たり。

【現代語訳】

晋の太元年間、武陵で漁師をしている人がいた。

渓流を進むうちに道に迷ってしまった。

突然、桃花の咲き乱れる林にたどり着いた。

岸の両岸に数百歩分咲いており、他の木は混ざっていなかった。

香りのよい草が色鮮やかで美しく、花びらが乱れ散っている。

「ビジュアルカラー 国語便覧」大修館書店 より引用

 

なんとも不思議な始まりですよね。

  • 私も高校生の時に古典の授業で習って、不思議な感覚に包まれたことを覚えています。
  • この漁師が道を進んでいき、目にしたものは、秦の時代に戦乱を避けてやってきた人たちの子孫が、長く世間と隔絶して平和な生活を営む別天地でした。
  • 『桃花源記』は、当時の中国文学では数少ないフィクション作品です。

 

「ユートピア」や「理想郷」を表現する「桃源郷」の語源となった作品です。

『桃花源記』に出てくる世界は、まさに陶淵明の理想郷でした。

  • 明るく開けた土地
  • 家並みが整っている
  • 豊かな田畑や美しい池がある
  • 鶏や犬の鳴き声がしている
  • 村人はのんびりと暮らして楽しそう

 

このような世界を描いています。

これは、老子が言う「小国寡民」の世界そのものです。

陶淵明は、老子の思想に影響を受けていたんですね。

 

【逸話】陶淵明の飲酒・酒好きエピソード

陶淵明の作品は130を超えると言いましたが、その作品の半数に「酒」が詠われています

  • これを後世の人は「篇篇酒有り」と評しています。
  • 陶淵明は本当にお酒が大好きで、常に酔った状態だったと言われています。
  • 仕事が長続きしなかったのも、仕事中はお酒を好きなだけ飲めなかったからかもしれませんね・・・

 

これほどお酒が好きだった陶淵明、なんと、四字熟語にまで登場しています。

淵明把菊(えんめいはきく):風流をこの上なく愛する人のたとえ

だそうです。

  • 「淵明」はもちろん、陶淵明のことです。
  • 「把菊」とは、菊の花を摘むこと。
  • 九月九日の重陽の節句にお祝いの酒がなかった陶淵明。
  • することがないので菊の花を摘んでいたんだそうです。

 

なんか、可愛い(笑)

そこへ、郡の長官のお使いがお酒を持ってきたので、陶淵明は喜んで飲み干して、酔って家に帰ったという故事からできた四字熟語です。

淵明把菊だなんて四字熟語を初めて聞きました。

意味が「酔っぱらってどうしようもない人のたとえ」じゃなくて良かったね、淵明さん!!

 

まとめ 陶淵明はどんな人?分かりやすいおすすめ作品

陶淵明の生涯と人生・代表作や飲酒のエピソードについて紹介しました。

簡単にまとめておきましょう。

  • 「淵明」は字で、名は「潜」という
  • 陶淵明は定職に就くことを嫌った
  • 陶淵明は老後に隠遁生活を送り、「田園詩人」と呼ばれた
  • 老荘思想に影響を受け、理想郷を思い描いていた
  • 無類の酒好きで、お酒を飲んだ故事から、四字熟語ができている

 

陶淵明の作品を読みたい人におすすめなのが、

  • 『陶淵明』釜谷武志 角川ソフィア文庫ービギナーズ・クラシックス 中国の古典

 

です。

初心者向けで、陶淵明の主な作品が時系列でまとめられていますよ!

以上、「陶淵明の生涯と人生・代表作や飲酒のエピソード」でした。

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