本格ミステリ・ファンから今なお熱狂的に支持されているアメリカン・ミステリの代表作家エラリー・クイーン。
- 傑出した知性と学識を備え、人間よりも論理パズルに興味がある思索的な青年探偵、
- 探偵読者に事件解決のヒントをすべて提示する、フェアプレイと呼ばれるスタイル、
- 徹底した論理によって推理を組み立てていく緻密な構成――
これらによって、クイーンの作品はミステリ黄金時代の頂点を極めたといっても過言ではないでしょう。
現役ミステリ作家法月綸太郎もエラリー・クイーンからの影響を公言しているように、日本ミステリ界に与えた影響ははかり知れません!
では、エラリー・クイーンはいったいどのような作家だったのでしょうか?
今回は、エラリー・クイーンというミステリ作家に焦点をあてて、その経歴とエピソードから作家の性格などを考えてみたいと思います!
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エラリークイーンの経歴は?
実はエラリー・クイーンは、フレデリック・ダネイとマンフレッド・リーという従兄弟同士の合作ペンネームです。
二人はともに1905年にユダヤ系移民の一家のもとに生まれました。
同い年で近所に住んでいたこともあって、二人は少年時代から仲がよかったといいます。
推理小説という共通の関心をもった二人は、同じ高校にも通い、行き帰りの道や電車のなかで、小説のアイディアやプロットを話し合うようになっていきました。
高校卒業後は別々の学校に進学したダネイとリーでしたが、その後偶然にもお互い広報の仕事をはじめます。さらに、その仕事先も近所だったため、二人はほとんど毎日のように昼食を共にしていました。
そんな二人が推理小説家としてデビューするきっかけとなったのは、1928年の春の終わりごろのある日、偶然目にした朝刊に掲載された広告記事でした。それはある雑誌が探偵小説コンテストを行うというもので、なんと賞金は7500ドル!(いまの米ドルだと10万ドルに相当)
二人はコンテストに応募することを決め、それから共同での原稿執筆がはじまりました。
まず探偵の名を”エラリー・クイーン”に設定し、共同のペンネームも探偵と同じものにすることを思いつきました。
エラリー・クイーンとして初めて執筆された作品は、審査員からも高い評価を受け、受賞の内定まで連絡されましたが、雑誌の廃刊など主催者側のごたごたの結果、残念ながら受賞を逃してしまいます。
しかし、このコンテストを共催していていたストークス社が彼らに目をつけ、ついにこの作品は1929年に処女作『ローマ帽子の秘密』として出版されました。
以降、エラリー・クイーンは<国名>をタイトルの頭につけた「国名シリーズ」を毎年のように発表していき、ミステリ作家としてのキャリアを着々と積んでいきます。
エピソードから読むエラリークイーンの性格は?
読者の心をくすぐる「読者への挑戦状」!
エラリー・クイーンの代表的なシリーズである「国名シリーズ」は、複雑なプロットや緻密な論理構成によって、現在でもなお多くの読者から指示されていますが、その最大の魅力はなんといっても「読者への挑戦状」でしょう!
ほとんどの「国名シリーズ」では、物語終盤で「読者への挑戦状」が提示されます。「挑戦状」の前に提出された手掛かりによって、読者は探偵エラリーに先がけて物語の謎をとくことができるようになっているのです。
例えば第一作目の『ローマ帽子の秘密』には次のような文章があります。
”鋭敏な頭脳に恵まれた推理小説の愛好家諸氏は、本編の謎の解明に必要な一切の事実を知らされたこの時点で、提出された謎についての決定的な結論に到達されたものと、クイーン氏と編者との見解が一致した。正しい解答はーー少なくとも、罪のある人物を誤りなく指摘することはーー叙述ずみのデータに基づく推理操作と、登場人物の心理面の観察によって導き出されるはずである……”
どうですか??こう言われてしまったら、挑戦を受けざるを得ませんよね??笑
ちなみに、わたしは今まで犯人の名前を当てられたことはありません!苦笑
別名義バーナビー・ロス
エラリー・クイーンには、もうひとつのペンネームバーナビー・ロスの名で執筆された物語シリーズがあります。元俳優のドルリー・レーンが活躍する、『Xの悲劇』『Yの悲劇』『Zの悲劇』『レーン最後の事件』です。
エラリー・クイーン名義で何度も作品を出し続けると読者に飽きられてしまう、という理由から、ダネイとリーはなかば戦略的に別の名義での執筆を思い立ちましたが、それだけでなくは二人はさらなる仕掛けを思いつきます。
それはなんと、お互いにマスクをつけた状態で「エラリー・クイーン」と「バーナビー・ロス」を演じて公の場で討論するというものでした!
二人は全く別々の作家として壇上にあがり、お互いに複雑な殺人事件の手がかりを投げかけて、相手の探偵としての能力を試すパフォーマンスをしました。
全国を横断するツアーにまで展開させ、こうしてエラリー・クイーンは自著の宣伝を積極的に行いました。
自作自演の投書騒動!?
二人の自己プロデュース能力は、実は第一作目の『ローマ帽子の秘密』からすでに発揮されていました。
この作品では、四エチル鉛という物質が毒殺に使用されています。この物質はかつてガソリンの成分に含まれていたもので、当時あまり知られたものではありませんでした。
作品におけるこの物質の取り扱いをめぐって、ある日新聞に匿名の投書が出されます。それは、毒物の危険な情報を安易に公のものにしてしまうことに対して、エラリー・クイーンを非難する内容のものでした。
なんと実はこの投書はダネイとリーが自作自演で送ったものだったのです!
あえて批判的な投書をすることによって、彼らは自分たちの作品に世間の注目を集めさせようとしたのです。
今でいうところの、炎上商法ってやつですね笑
これが功を奏したのか、彼らの処女作は、初刊時の版だけで8千部も売れました。
これらのエピソードから、エラリー・クイーンという作家は非常に自己プロデュースに優れた作家だといえるしょう。
さらに、読者に挑戦状をたたきつけたり、別の作家を演じたりと、読者に対するサービス精神が旺盛でいたずら心に富んだ作家ということがいえると思います。
エラリークイーンの代表作と読む順番の個人的おすすめは?
おそらく、エラリー・クイーンの作品としてよく挙げられるのは、
- 「国名シリーズ」なら『ギリシャ棺の秘密』と『エジプト十字架の秘密』
- レーンものなら『Yの悲劇』でしょう!
これらの作品だけで単独で読むことはまったく問題ありませんし、これらは、その高いクオリティから、エラリー・クイーンの真骨頂をまさに感じさせる作品だといえるでしょう!
とはいえ、個人的おすすめとしてはやはり「国名シリーズ」の第一作目から順番に読んでいくことをおすすめします!
とくにここでは第二作目と第三作目をご紹介しましょう!
第二作目『フランス白粉の秘密』は、あるフレンチ百貨店が舞台です。
ショーウィンドウに展示された格納ベッドから転がり出た女の死体。殺されたのは百貨店の社長夫人。彼女のハンドバックには娘の口紅が入っており、そしてその口紅からは不審な白い粉が。さらに当の娘は夫人の死と相前後して姿を消していた……。
この第二作目の推しポイントとしては、なんといってもその構成力と結末です!
犯人の名前が明らかにされるのは、なんと作品の最後の一行なのです!
推理小説としてこれほどかっこいいラストってないんじゃないか?と思うほどの幕切れです。(なのでみなさん、解説から読むのは絶対NG!です笑)
続いて第三作目『オランダ靴の秘密』。
あるオランダ記念病院で手術直前に起こった殺人事件。救急搬送されてきた夫人が手術室に運び込まれシーツをめくると、すでに彼女は何者かによって絞殺されていた!犯行可能なのは、手術直前の数十分。手掛かりは犯行に使われたと思われる一足の靴と白衣のズボン…。
この作品の推しポイントはエラリーの徹底的ともいえるその論理的な推理です!
エラリーは、手掛かりの靴とズボンに基づいて事件のほとんどすべてを鮮やかに解決してしまいます。
これはおおげさな言い方ではなく、本当に事件のほとんどすべてがこの手掛かりによって解き明かされてしまうのです!
まとめ エラリークイーンの経歴と性格は?代表作と読む順番のおすすめ!
(フランシス・M・ネヴァンス『エラリー・クイーン 推理の芸術』より。フレデリック・ダネイ(右)とマンフレッド・リー(左))
ここまでエラリー・クイーンの経歴と性格、おすすめの作品をご紹介してきました!
- エラリー・クイーンはフレデリック・ダネイとマンフレッド・リーの合作ペンネーム
- 「読者の挑戦状」、二人が扮した別人作家同士の公開討論、投書による炎上商法など、読者へのサービス精神が旺盛で自己プロデュース能力にたけていた。
- おすすめは「国名シリーズ」をはじめから!とくに第二作と第三作目ははずせない!
これをきっかけに、実際に作品を手に取ってみてください!!