『パンセ』から見る「哲学者」パスカルの業績
”人間はクソだ!しかし神様は絶対!だから神を信じろ!一切の贅沢禁止!“
この教えを伝えて、世の中の人を勧誘しなければいけないとなったらどうしますか?
でも、これをやり遂げようとした男がいたのです。
その名も「哲学者」ブレーズ・パスカル。
パスカルは『パンセ』でそれをやろうとしました。
一見すれば哲学上の偉業、一歩間違えればカルトへの勧誘。
果たして彼はどうやったのか─大公開いたします。
さて、結論から入ると
- 『パンセ』は『キリスト教護教論』のメモ書きだった
- 「人間は考える葦である」は宇宙に比べたら人間は葦のように弱いけど、それを悟る力があるだけ宇宙よりマシという意味
- じっとできない人間は「虚栄心」を満たしてくれる「気晴らし」に走る
- 「虚栄心」はみんなの心にある
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パスカル『パンセ』はどんな内容?虚栄心・気晴らし・考える葦という言葉から分かりやすく解説
そもそも『パンセ』とは?『キリスト教護教論』のメモ書き!
『パンセ』とはフランス語で「考えられたもの」という意味です。
元々パスカルは『キリスト教護教論』を出す予定で、そのために構想や書きたい台詞などをメモに書きまとめていました。
しかし完成する前にパスカルは亡くなってしまったので、遺族や友人達が「せめて構想途中のメモだけでも」と思い、出版されたのが『パンセ』です。
キリスト教にも色んな宗派があるのですが、パスカルはその中でもジャンセニスムに属していました。これがなかなか危険な宗派だったのは生涯の方でも語ったでしょう。
パスカルはこの立場から、『キリスト教護教論』を語っていきます。
でも最初に「神を信じましょう!」とやったら「何こいつ怖」ってなりますよね。
だから、前振りを用意したんです。
“人間のダメなところあるある”というね。
「人間は考える葦である」の真の意味
人間は考える葦である。
パスカルの言葉と聞かれて、まず思い浮かぶのがこれでしょう。
「人間は葦のように弱いけど、考える力があるからすごい!」
そういう意味で捉えている人は少なくないでしょう。
まず、人間は葦のようなものです。非常に弱々しいです。宇宙に比べたらもう大きさから何から歯が立ちません。宇宙からしたら一滴の水にすぎなくても、人間は洪水で死にます。決して強くないです。
ですが、人間はそんな無力さを考える─言い方を変えれば悟ることができるのです。宇宙にはそんなことはできません。だから、人間はそういった面だけ偉大である……本来ならそういう意味なのです。
×人間だけ考える力があるからすごい
〇人間はゴミだけど、自分はゴミだって考えられることだけはマシ
ってことです
では、人間はどのように無力─ダメなのか?パスカル先生の心を抉ってくる指摘を見てみましょう。
パスカルのいう「気晴らし」の意味とは
なかなか衝撃的な言葉でしょう。
でも、よくよく考えたら部屋の中でじっとしていることの方が辛いかもしれません。だってスマホ見れないし本も読めないのですから。
部屋の中でじっとしているのは苦手な人間は「気晴らし」に走ります。
「気晴らし」と書くと、ゲームをするとか本を読むとかそういうのを想像すると思いますが、それだけではありません。仕事や勉強も含まれるのです。
「じゃあ気晴らしなら何でもいいのか」と言われると違います。
そこに報酬がなければやる気が起こらないのです。その報酬の一つに名声があります。なぜ名声を欲するのか。
私たちの心に「虚栄心」があるからです。「気張らし」で「お前凄いよ」と認められなければそもそもやらないのです。
パスカルのいう「虚栄心」の意味とは
「イタいよね~」と言われる奴も言う奴も虚栄心のたわもの!?
あらすじを説明しますと、就活を前にした男女が面接を突破するための永遠のテーマ「何者であるか」を考えていくお話です。書かれている内容は就活ですが、AO入試をする受験生にもオススメです。
さて、『何者』の主人公は就活対策で集まった周りの男女を分析していく冷静なタイプなんですが、まぁその言葉がキツいんですよ。
確かにね、周りも痛々しい連中だらけなんですよ?
痛い文章を書く奴や、学生中に海外に旅行行っていかにもキラキラ見せてる奴とか。主人公はそんな彼らを痛いなーと思って見ている感じです。
でもネタバレしちゃうと、最終的にある女の子から指摘を食らうんですよね。
「そうやって分析しているアンタこそ『凄いね』って認められたいんじゃないの?『何者』かになりたがっているんじゃないの?悪いけど、そんな日一向に来ないよ」って。
- そう、みんな虚栄心を持っていて、「凄い」と思われたいのです。
- 派手に着飾る人は「可愛いorかっこいいね、凄い」と言われたいんです。
- 自己啓発本を読んでいる意識高い系は「賢いね、凄い」と言われたいんです。
- 名声に興味のない謙虚な人だって「偉ぶらないね、凄い」と言われたいんです。
そういった人々を「痛いよねー」と笑う人(パスカルを含む哲学者達)も「君は冷静でそこまで深く読み取れているね、凄い」と言われたいんです。
誰だって「凄い」と思われたいのです。
これと同じようなことが描かれた『何者』が大ヒットしたことから分かるように、これは人間のほとんどに共通すること─言うなれば“人間のダメなところあるある”なのです。
この”人間のダメなところあるある“はまだまだ続きます。全部書くと文字数が大変なことになってしまうので書きません。
この“あるある“で共感して「あー人間ってダメだなあ」って思ったところを、「だから神にすがろうね!そうしないと幸せになれないよ!」とキリスト教(専らジャンセニスム)に持っていくわけです。ね、カルト宗教の勧誘でしょ。
以上がパスカル『パンセ』のご紹介でした
さて、結論は
- 『パンセ』は『キリスト教護教論』のメモ書きだった
- 「人間は考える葦である」は宇宙に比べたら人間は葦のように弱いけど、それを悟る力があるだけ宇宙よりマシという意味
- じっとできない人間は「虚栄心」を満たしてくれる「気晴らし」に走る
- 「虚栄心」はみんなの心にある
でした。
パスカルを知る入門書・参考文献
1・パンセ 岩波
下巻はパスカルが回心した時の文章とパンセの内容をジャンルでまとめたアンソロジーなどが入っている。パスカル好きは必携の本。
詳細:岩波文庫の青帯(哲学思想・言語)のおすすめは?絶版含めた一覧リストと評価・レビュー付き
2・100分de名著 パスカル パンセ
1回25分、全4回で世界の名著を解説していくNHKの番組『100分de名著』のテキスト。入門書だけどかなり詳しく書いてあって、記事を書くときに何度も助けられた。
これからズラーっと参考文献を提示していくけど「こんなに読めねぇよ!」って人はもうこれ1冊だけ読んで。パスカルは大体語れるようになる。
3・『パンセ』数学的思考
一言で言うなら、理系向けの『パンセ』入門書。何故かというと、書いてる人が理系ライターの先駆者(らしい)から。宇宙の話とかバシバシ出てくる。文系諸君はお気をつけて。
4・パスカル『パンセ』を読む
岩波でも『パンセ』を訳している塩川先生の本。知り合いの哲学者たまごちゃんからも「知り合いのパスカル研究者が良いって言ってた」とお薦めされた本。まぁ、その前にもう借りてたけど。
分かりづらいキリスト教護教論の部分を解説してくれてありがたかった。
哲学にまつわる小説を書いてらっしゃる白兎扇一〈@WhiteRabbit1900〉さんに書いて頂きました