ミステリー作家たちがこぞって「すごい!」と口にする作品の一つに『占星術殺人事件』があげられます。
あの大ヒット作品である『金田一少年の事件簿』にトリックが流用されたこともあり、島田荘司本人が苦言を呈したために、その後の文庫版漫画や公式ガイドブックにはトリックを流用したことが明記されるようになりました。
ただ、そのトリックをどこから流用したかを明記してしまっては『占星術殺人事件』のトリックをバラしているようなものではないかと、多少複雑な気持ちになります。
『金田一少年の事件簿』の初期シリーズと『占星術殺人事件』を読んだ方ならば、おそらくどのトリックが流用されたのか、わかってしまうと思います。
尚、テレビドラマ版のこの話の回はビデオに収録されたものの、後に欠番となっています。
『金田一少年の事件簿』ですらも流用したくなるほどの魅力を持った『占星術殺人事件』のトリック。
そんなにもすごいトリックを考えた島田荘司とはどのような人物なのか……これからたっぷりとご紹介します!
- 島田荘司の経歴は?
- 島田荘司の人柄や性格がわかるエピソードは?
- 【感想】島田荘司の代表作と個人的最高傑作は何?
- まとめ 島田荘司の性格と経歴のエピソードは?代表作と最高傑作はどの作品?
この記事は一部、Wikipediaを参考にしてます
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島田荘司の経歴は?
1948年10月12日、広島県福山市に生まれます。
小学校時代は、目黒区の大原町(現・東が丘)、駒沢、柿の木坂(柿ノ木坂)などで過ごします。
目黒区の東根(ひがしね)小学校に通っていた頃に、江戸川乱歩の作品と出会い、友人たちと夢中になります。
「柿ノ木坂少年探偵団」を結成して、冒険を大いに楽しんだ少年時代を過ごします。
武蔵野美術大学商業美術デザイン科を卒業後、ライターやミュージシャンなど、様々な職業を経験します。
1981年、名探偵「御手洗潔(みたらい きよし)」が登場する『占星術殺人事件』を江戸川乱歩賞に応募します。
ちなみに投稿時の題名は『占星術のマジック』だったそうです。
受賞は叶いませんでしたが、最終候補作品まで残ったことで、作家としてのデビューが決まります。
この頃、一時的に京都に在住。
『占星術殺人事件』に登場する「順正の板前の江本君」は実在の人物で、島田荘司曰く、「当時、つきあいがあった彼のアパートに転がりこんで、京都の街を歩いた」そうです。
1984年、『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』で、
1985年、『夏、19歳の肖像』で直木賞候補にあげられるものの、落選します。
これ以降、直木賞にノミネートされた作品はありません。
同じく1985年、吉川英治文学新人賞に『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』が候補にあげられるものの、落選。
2007年、出身地である広島県福山市が開催する「島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」の選考委員を務めます。
2008年10月22日、第12回日本ミステリー文学大賞を受賞。
「無冠の帝王」と称されたこともある彼ですが、この受賞で無冠を返上しました。
同じく2008年、台湾の出版社皇冠文化出版と、日本の文藝春秋、中国、タイの出版社がタッグを組んで「島田荘司推理小説賞」が開催され、その最終選考を島田荘司本人が行いました。
2009年、「島田荘司選 アジア本格リーグ」の選者となり、アジア各地域の良質な本格推理小説を紹介しています。
アジア本格リーグとは、2009年9月から2010年6月にかけて、講談社が刊行した推理小説のシリーズです。
アジア各地域の本格推理小説を翻訳して刊行しており、全6巻となっています。
2009年9月、第1回配本として、台湾とタイの本格推理長編が刊行。
同じく2009年11月、韓国と中国の作品が刊行。
2010年3月、インドネシアの作品が刊行。
同じく2010年6月、最終巻としてインドの作品が刊行されました。
2011年3月、南雲堂の『本格ミステリー・ワールド・スペシャル』がスタート。
二階堂黎人氏と共に、日本国内の新人作家の推理小説を多数編纂・監修します。
残念ながら、『本格ミステリー・ワールド』は、2016年12月刊行の『本格ミステリー・ワールド2017』をもって休刊となっているようです。
2012年、文藝春秋の『週刊文春臨時増刊 東西ミステリーベスト100』で、『占星術殺人事件』が歴代日本ミステリー、第3位に選ばれます。
2013年、7年ぶりとなる御手洗潔シリーズ長編『星籠(せいろ)の海』が講談社より刊行されます。
2014年1月、『占星術殺人事件』が、イギリスの有力紙『ガーディアン』で「世界の密室ミステリーベスト10」の第2位に選ばれます。
2015年3月、御手洗潔シリーズ初の映像化となる『傘を折る女』が、単発ものとしてフジテレビ系で放送されました。この年の12月には、『占星術殺人事件』などをはじめとする、御手洗潔シリーズが国内累計総部数は532万5千部に到達しています。(海外翻訳版、コミカライズ、角川書店分は除く)
2016年6月、出身地である福山市制100周年を記念して、映画『探偵ミタライの事件簿 星籠の海』が全国公開されます。
2018年、講談社ノベルズより『屋上』が刊行。御手洗潔シリーズの第50作目となります。
ロサンゼルスと吉祥寺に居を構えていたみたいですが、現在は日本にほぼ在住しているそうです。
島田荘司の人柄や性格がわかるエピソードは?
『占星術殺人事件』でデビューを果たし、今現在も精力的に活動を続ける大御所の一人ですが、デビュー当時「新本格」ミステリーとして文壇に斬り込みをかけた『占星術殺人事件』は、その文壇から大バッシングを浴びせられることになりました。
そのトラブルは「30年後にすらも禍根を引きずるほどのものだった」と島田荘司本人は語っています。
当時、ミステリー文学界はリアルな犯罪を描くことのみを奨励するような「松本清張呪縛下」にありました。
- 「色・金・出世」といった週刊誌的な犯罪。
- 「貧者・弱者」の犯罪。
- 「頭脳ではなく、足を活用する警察」
といったもの以外は嘲笑される傾向にありました。
これらに違反する作家は文壇から追放するほどの横暴さも見せはじめていたといいます。
探偵小説とも相性が良いとされた松本清張作風こそが、紆余曲折を経たこのジャンルの最高傑作であり、その先に新しい作風など存在してはならないとまでされていたのです。
そんな風潮の中、否定されてきた
- 「大がかりなトリック」、
- 「密室発想の否定」、
- 「名探偵」、
- 「伏線表現の不要」、
- 「超常識的な動機の禁止」、
- 「アクロバティックな推理論理の披瀝(ひれき)のタブー」
などに真っ向から挑んだ作品が、『占星術殺人事件』だったのです。
文壇からは大いに批判されていた島田荘司ですが、
- 鮎川哲也氏、
- 梶龍雄氏、
- 森村誠一氏
などからは暖かいエールを送られたそうです。
そんな中、『占星術殺人事件』は若い世代や才能に受けいれられ、「新本格」と呼ばれるムーブメントが西日本から登場することになります。
1988年には『華文・占星術殺人事件』として台湾版が刊行されます。後にアジア全体、英米、フランスなどでも刊行され、地球規模の「新本格」時代を切り拓きました。
そうして『占星術殺人事件』刊行から30年以上が経過した今、多くの新しい才能たちに恵まれて「新本格」ミステリーは日本の文壇に受けいれられています。
島田荘司の作風の原点は、江戸川乱歩にはまり、少年探偵団として冒険に明け暮れた小学校時代の経験にあります。
彼がまだ子どもだった頃は、あちこちに自然の遊び場がありました。
柿ノ木坂の一角には、東映テレビ部の撮影所があり、実写版の『鉄腕アトム』や、『月光仮面』などの撮影がしょっちゅう駒沢周辺で行われていたそうです。
主な遊び場は現在、駒沢スポーツ公園になっているあたりだったといいます。
そんな中、その場所が1964年の東京オリンピックで第二競技場になることが決まります。
大規模な工事が始まり、そこにあった自然は姿を変えていきました。
けれども、実はここからが彼の創作の原点となるできごとの始まりなのです。
なぜなら、この大工事こそが当時島田少年と、その友人たちを夢中にさせていた『怪人二十面相』の世界へと誘ってくれたからです。
まだまだ工事現場の管理がずさんだった当時、少年たちが忍び込んで大冒険することは、難しいことではありませんでした。
大規模な工事現場は、二十面相のアジトへとつながっているのではないかと思わせるような、巨大な土管、あちこちに点在する暗がり、地下へと続く通路や施設……こういったものたちが待ちかまえている工事現場で、
島田少年たちは「オリンピックの競技場なんて話は二十面相のカモフラージュで、実はこれは彼の秘密の巨大地下要塞の建設に違いない」と想像をたくましくしていきます。
そんな日々を送っていたある日、島田少年はふと工事現場の大冒険から得た妄想を、給食時間中にみんなに話して聞かせます。
それは江戸川乱歩の真似をした探偵物語でした。話の途中でチャイムが鳴りましたが、みんなが結構面白がって聴いてくれたため、また続きを翌日の給食時間中にみんなに話して聞かせます。
次の日も、その次の日も、島田少年は思いつくままに語って聞かせていたのですが、さすがに思いつきだけで語るのが難しくなり、前日に思いついた物語をノートに書き、それを眼下に見ながら話すようになります。
やがてはそれも面倒くさくなり、書いた物語を自ら朗読し始めます。すると、クラス中の男女が自分の朗読に耳を傾けてくれたのです。
このときの物語の持つ強い力の発見は、島田少年の心に大きな驚きと誇らしい気持ちをもたらしました。
それは「生まれて初めて感じた、自分という人間の価値」でした。
その後、クラス中で自作の朗読がブームとなり、あちこちで物語を語る子たちが出始めました。
残念ながら、そのときのクラスメイトから作家になった子はいないそうですが、
このときの体験がなかったら、自身の作風であるユーモアとか、子どもらしい夢の味は影を潜め、全く違ったものとなっていただろう
と、島田荘司は文庫版『占星術殺人事件 改訂完全版』のあとがきで語っています。
また、「島田荘司選 ぼくらのまち福山ミステリー新人文学賞」や、講談社発「本格ミステリー『ベテラン新人』発掘プロジェクト」で選考委員を務めたり、講師として60歳以上のベテラン新人を発掘するなど、新しい才能を発見して世に送り出すことにも力を入れています。
姓名判断や、占星術にも詳しく、様々なミステリー作家に名前をつけています。
綾辻行人氏、我孫子武丸氏、司凍季氏、霧舎巧氏、麻生荘太郎氏、松田十刻氏などです。
一応、その人の作風を見ながら、画数の良い名前をつけてくれるそうです。
また、歌野晶午氏については、名字は本名のままで「晶午」の部分を考案したり、法月綸太郎はもともと「林太郎」となっていたところを姓名判断により「綸太郎」に改めるよう本人にアドバイスをした、という話も我孫子武丸氏が語っています。
【感想】島田荘司の代表作と個人的最高傑作は何?
島田荘司の代表作は、なんといっても『占星術殺人事件』だと思います。
本人は「最近そうは思わなくなってきたけれども、デビュー作がいつまでも代表作であることに、かなり長いあいだ忸怩(じくじ)の念を抱いていた」と語っています
しかし、この作品は多くの後の作家たちに影響を与えた傑作だといえます。
古い作品ではありますが、古臭さを全くといっていいほど感じさせません。
しかも、この作品に登場する
- 「梅沢平吉の手記」などのアイテム
- 「御手洗潔」という人物
は、若い世代の子たちにも馴染みがある作品や、登場人物を彷彿とさせるものなのです。
梅沢平吉とその手記、事件や世界観は、
竜騎士 07氏の『うみねこのなく頃に』シリーズの「事件」と「金蔵」という人物を、
御手洗潔は、はやみね かおる氏の『名探偵 夢水清志郎』シリーズの「夢水清志郎」という人物を思わせます。
- 梅沢平吉が愛しい女性のために、危なげな魔術(錬金術)へと傾倒していくところ
- 複雑な女性関係、
- 手記が導く事件、
- 大いなる謎、
- サイコロの出目(人生への賭け)、
- 栄えているにも関わらず複雑な一族、複雑な家族関係、
- 様々な説や憶測が飛び交う事件、
- 時を超えて未解決である
という部分など。
『うみねこのなく頃に』や『ひぐらしのなく頃に』が好きならば一読の価値があると思います。
余談ですが、『うみねこのなく頃に』の世界観を思わせる作品は他にもあります。
西澤保彦氏の『七回死んだ男』です。こちらも未読ならば、この機会に読んでみるのもいいと思います。
一方、御手洗潔と夢水清志郎はイメージ的によく似ています。
- 常識というものが皆無であること、
- 扱い方を心得た人物でなければつきあいが難しいところ、
- どちらも「水」を思わせる名前、
- 「きよし」という音が名前に入っていること、
- 夢水清志郎は「教授」と呼ばれていて、御手洗潔も最終的には「脳科学者」になっていること、
- 謎解きの本当の真相を中々語らず、ときには誰にも教えずに(警察にすら)秘密にすること、
- 世間に自分が謎を解いたということを大っぴらにしないところ、
などです。
『夢水清志郎』シリーズが好きなら、『御手洗潔』シリーズを読んでみてもいいかもしれませんね。
私が考える個人的な島田荘司の最高傑作は、迷うところですが、やはり『占星術殺人事件』になります。
この作品の魅力は「とにかく謎解きが楽しい!」の一言に尽きると思います。
40年以上も未解決の難解な、日本中を股にかけた事件。遅々として進まない謎の解明。
怪しげな占星術や錬金術、理解しがたい人間性、謎ばかりが残る手記……。
そんな事件の謎解きを、
- 主人公である石岡和巳(いしおか かずみ)
- 探偵が趣味の占星術師である御手洗潔
2人が、「ああでもない、こうでもない」と議論を交わすところは、自分もその場にいるかのような錯覚に陥って、謎解きに参加しているかのような気にさえさせてくれます。
「天窓のガラスを外したとしても、はめ直して元通りに雪をかけておく」という推理には、「雪の性質上、それはまず不可能だ」とつっこんでしまったりするぐらい、のめり込めます。
もう一つ、個人的な最高傑作にあげるかどうか迷った作品は、『暗闇坂の人喰いの木』です。
ホラーチックなミステリーが好きならば、読んでみることをオススメします。
島田荘司の作品は行動範囲がとても広く、この作品もなんてことなくイギリス(スコットランド)まで行って帰ってくるなど、世界を股にかけて謎解きに奔走します。
事件のトリックも相当衝撃的で、最後には普通のミステリー作品ならまずあり得ないような、思いもよらぬ展開も待ち受けています。
ただし、作品中の「暗号」の章には、江戸時代末期から明治初期あたりに撮影されたとみられる、3体の生首(晒し首)の白黒写真が載っています。
画質はあまり良くはありませんが、そういったものを目にしたくない方は要注意です。
まとめ 島田荘司の性格と経歴のエピソードは?代表作と最高傑作はどの作品?
元EXO・タオは人懐っこくてチャーミング!島田荘司が親交を語る https://t.co/hZbgqTio9a @cinematodayさんから
— 映画『夏、19歳の肖像』公式 (@19saimovie) August 25, 2018
島田荘司の経歴は?
広島県で生まれるが、少年時代は駒沢周辺で過ごす。
作家デビューも30歳以降と遅い。「無冠の帝王」とも呼ばれたが、受賞により無冠は返上している。
島田荘司の人柄や性格がわかるエピソードは?
松本清張主義の作風一色だった文壇に「新本格」という新風を巻き起こした。
文壇から批判され続けても、自身の作風を変えることのなかった不屈の人。
原点は小学校時代の大冒険の経験と、友人たちに語って聞かせた自作の物語にある。
【感想】島田荘司の代表作と個人的最高傑作は何?
ともに『占星術殺人事件』、ホラーチックなミステリーが好きな人には『暗闇坂の人喰いの木』がオススメ。
最後に、御手洗潔について語りたいと思います。
御手洗潔という探偵を見ていると、この世界で変わり者と呼ばれている人も、誰かの主観でしかないことや、変わっていても良いのだと勇気づけられます。
それに、「世界は広いけれど、でも行動してみれば、実は手の届く範囲内でしかないんだよ」と言われているような気がします。
御手洗潔シリーズの魅力は、
- 難解な謎、
- ゾクゾクするような展開、
- 世界観の広さ、
- 事件に対するスパンの長さ、
- 思いもよらぬトリック、
など数え上げればきりがないですが、御手洗潔の自由な振る舞いや、その生き方も魅力の一つなのでしょう。
あなたも是非、島田荘司の作品で新しい世界を見つけてみてほしいと思います。