風立ちぬに登場する謎のドイツ人「カストルプ」。
その正体についての考察はこちらの記事で行いました。
ココハ、イイトコロデスネ、モスキートイナイ、アツクナイ、クレソンウマイ。―カストルプ pic.twitter.com/Mv1fd6apEi
— ジブリのせかい【非公式ファンサイト】 (@ghibli_world) 2016年9月2日
このカストルプが魔の山からとられているという指摘は様々なブログで行われていますが、
ここでは他ブログではあまり触れられていない、「風立ちぬ」における魔の山からの引用にタッチしていきたいと思います。
キーワードは「毛布」です。
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そもそもマンの「魔の山」はどんな話か。簡単な解説
サナトリウムと言えば魔の山、魔の山と言えば結核サナトリウムと言われるぐらい有名なこの作品。
戦前の教養主義者たちには必読の書と言われていました。
魔の山の主人公ハンスカストルプは結核サナトリウムで入院しています。
実はこのカストルプ元々結核だったというわけではなく、
最初はいとこのヨーアヒムの見舞いに行ってきただけなのですが、
なぜか本人も結核ということになってしまい3週間の滞在予定が、
7年もサナトリウムに入っていることになってしまいます。
そのあらすじを一口にまとめるのは大変なので省きますが、
本編の見所としては個性豊かなキャラクター達です。
さながら全ヨーロッパ博覧会といった様相を呈しています。
- ドイツ人のエンジニアと軍人
- イタリア人の人文主義者
- オーストリア人の虚無主義者
- オランダ人の経営者
- ロシア人の美女
この一冊を読むだけでヨーロッパ人の特徴が一目で分かる! ような気になります。笑
この個性豊かなメンツが延々と議論を繰り返しているのが、魔の山です。
一節丸々議論に費やすのは当たり前。
延々と時間についての考察を繰り広げるくだりはもはや思想書。
かと思えば、雪山で遭難したり、交霊術をやりだしたりと、ドラマチックなことも起きたりして油断がなりません。
時間も体力もかかる骨太の小説です。
魔の山の重要アイテム「毛布」
そんな魔の山から引用されているのがこのシーンです。
一見何の変哲もないシーンですが、この毛布に包まれているというのが重要なのです。
と言うのも、魔の山本編においてはこの毛布にくるまるという話がやたら出てきます。
サナトリウム患者たちは自分自身で毛布にくるまるのですが、
なかなかこのやり方が難しく、新入り達は一人でくるまることが出来ません。
ハンスカストルプも初めのうちは上手く毛布にくるまることが出来ず非常に悔しい思いをしています。
作業服みたいな短い室内着の上に古い外套を着たヨーアヒムは、ナイト・テーブル用の電気スタンドとロシア語入門書を持ってバルコニーへでて、小さな電気スタンドをともし、体温計を口にくわえたまま、寝椅子に横たわり、そこに拡げてあった二枚の大きなラクダ毛布を実に器用にさばいて、それにくるまった。
いとこの鮮やかなやり方を見ていて、ハンスカストルプは心から感じ入った。ヨーアヒムは、毛布を一枚ずつ、まず左から縦に脇の下までかけ、それから下の方から足をくるみ、次には右から同じことを繰り返し、こうして最後は完全に左右の均衡のとれた平たい包みのようになり頭と肩と腕だけを外へ出すようにした。
(『魔の山』高橋義孝訳 新潮文庫187~188p)
そしてこのシーンの菜穂子はもちろん自分自身でくるまっており、しかも手紙まで読んでいいます。
つまり、菜穂子のサナトリウム生活がとても長いことを暗示しているのです。
映画「風立ちぬ」の中で結核におかされた菜穂子が富士見の療養所で、雪の降るなか外で毛布にくるまって寝ているシーンがあるので半信半疑でググったらこの画像がシンプルに出てきて衝撃だった。 pic.twitter.com/tCPGNYtEd1
— madoka (@yama_yen) 2015年2月20日
魔の山を引用した理由
なぜ、宮崎駿はわざわざ魔の山の引用をこんな分かりにくい形でしたのか。
ガイナックスの元社長、オタキングこと岡田斗司夫は著書でこう述べています。
宮崎駿監督にとってアニメは子供のためのものです。子供向けと言う言葉を聞くと大人向けを簡略化したようなものだと、僕らはついつい軽く考えてしまいます。けれども宮崎駿監督は、子供向けに真剣に作品を作り続けてきました。
意外かもしれませんが、『もののけ姫』も『千と千尋の神隠し』も『ハウルの動く城』も全て子供向けの作品です。
子供が見てもちゃんとわかるメッセージを丁寧にのせていますが、僕らは最近の宮崎駿監督作品を「子供も楽しめる大人向けアニメ」として捉えるようになりました。
(略)大人向けではないのに、純粋な子供向け映画でもない、宮崎駿監督としてはとても居心地の悪い状態だったことでしょう。
そこで風立ちぬでは子供向けという枠を完全に外してしまいました。作家宮崎駿が本気で大人向けの映画を作ったらどうなるか。ご存知の通り賛否両論巻き起こることになったわけです。
(『『風立ちぬ』を語る 宮崎駿とスタジオジブリ、その軌跡と未来』岡田斗司夫 FREEex 光文社新書 136p)
つまり、宮崎駿が本気になったという訳です。
「大人向けの映画なんだから、当然『魔の山』くらい読んでますよね」という宮崎駿の挑戦状です。
風立ちぬ公開からまだ6年。
本気の宮崎駿が残した謎はまだまだたくさんあるかもしれませんね!
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風立ちぬはトマスマン『魔の山』という小説のモチーフがふんだんに使われてるとのこと。
そもそもカストルプというドイツ人キャラクターは、魔の山の主人公の名前なのです
プロの舞台脚本家が、映画をどう評価するのか、どんな点を面白いと感じたのか、ぜひお読みください