風立ちぬ最後の結末の意味をネタバレ。鈴木敏夫によるラストシーンの解説

高等遊民
こちらは寄稿記事です。脚本家タケハル先生に風立ちぬの感想や考察をお聞きしました。
風立ちぬのラストは鈴木敏夫がしっかり説明しているそうです。
プロの舞台脚本家が、映画をどう評価するのか、どんな点を面白いと感じたのか、ぜひお読みください

 

宮崎駿監督最高傑作『風立ちぬ』

ラストシーンに関しては実は別バージョンがありました。

公式ラストシーンも感動的ではありますが、

もしこの第一案が完成していたらとても衝撃的なラストになっていたでしょう。

鈴木敏夫の解説を元にその内容を考察解釈していきたいと思います。

キーワードは「煉獄(れんごく)」です。

 

 


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風立ちぬ最後の結末の意味をネタバレ。鈴木敏夫によるラストシーンの解説

ラストシーン、菜穂子のセリフは「生きて」ではなく、「来て」だった!

風立ちぬのラストシーン零戦の実験を終えた二郎は夢の中とも見える不思議な空間に立っています。

そこに次郎の憧れの設計者カプローニが現れます。

そして、光の中から菜穂子が現れ「生きて」と次郎に言った後、

次郎が「ありがとう」と答え、

カプローニが「ワインでも飲もう」と言ってどこかに去っていくシーンで終わります。

 

風立ちぬはどこまで実話?二郎や菜穂子は実在の人物?

 

これはこれで、感動的なシーンなのですが、実はこの「生きて」というセリフ、

当初は「来て」というセリフだったのです。

 

鈴木敏夫の解説を見てみましょう。

鈴木「宮さんの考えた『風立ちぬ』の最後って違っていたんですよ。三人とも死んでいるんです。それで最後に『生きて』っていうでしょう。

あれ、最初は『来て』だったんです。

これ、悩んだんですよ。

つまりカプローニと二郎は死んでいて煉獄にいるんですよ。そうすると、その『来て』で行こうとする。

そのときにカプローニが、『おいしいワインがあるんだ。それを飲んでから行け』って。そういうラストだったんですよ。それを今のかたちに変えるんですね。

さて、どっちがよかったんですかね」

すごいですよね。たった1文字「い」が入るだけで全く違った意味になってしまいます。

 

【風立ちぬのその後】二郎は死んだのか?菜穂子「生きて」の意味を考察

 

ラストシーンでカプローニと二郎がいた煉獄とは?

ではここで言われる煉獄とは一体どこのことなのでしょうか。

煉獄とはキリスト教用語で、天国と地獄の間に存在すると言われる中間地帯です。

これはキリストが説いたものでもなんでもなく、

異教徒に伝道する際に考案されたと言われています。

 

キリスト教は言わずもがなイスラエルで発生した宗教です。

当初は極く小さいコミュニティから出発しましたが、

ローマ帝国の国教になると、次々と世界へ伝道を続けていきました。

そこで問題となったのがゲルマン人への伝道です。

 

ゲルマン人たちはキリスト教の内容への理解は寛容でした。

「そんなにいい教えなら入ってもいいか」と言う感じで、すんなり受け入れる様相を呈していたのです。

ところがある一点だけ強く反発した点がありました。

 

それは先祖への扱いです。

キリスト教はイエスキリストを通らなければ天国の門へ入れないと説いています。

ということは、イエスキリストが活動する以前に生まれて死んだ人間は絶対に天国に行くことが出来ません。

ゲルマン人たちはこれに大反発しました。

 

なぜならば彼らはかつての日本人と同じように祖先を大事にする種族だったからです。

「ご先祖たちと同じあの世に行けないくらいなら改宗する必要はない」ということでキリスト教を退けました。

ここでカトリック教会は煉獄という概念を発明します。

 

煉獄とは天国と地獄の間に存在しており、

子孫がキリスト教に改宗したら煉獄と煉獄にいる魂たちは天国に行くことができると説いたのです。

まあ、なんとも都合のいい解釈と言うか、「ああ言えばこう言う」みたいなところがありますが、

ゲルマン人たちはこれで納得し次々とキリスト教に改宗していったということです。

 

下敷きになっているのはダンテの「神曲」

ではなぜこの風立ちぬでわざわざ煉獄という概念が出てきたのか。

それは宮崎監督がダンテの神曲を下敷きにしているからです。

ダンテはルネッサンスを代表する大詩人です。

神曲においてはダンテが尊敬する古代ローマの詩人ウェルギリウスに連れられて

地獄と煉獄を巡ります。

ウェルギリウスはキリスト教徒ではないので、煉獄までしか行けないんですね。

続けてダンテが恋していたベアトリーチェという美少女に連れられて天国巡りをして物語が終わります。

それぞれ「地獄篇」「煉獄篇」「天獄篇」と題して物語がまとめられています。

 

つまり、

  • 堀越二郎=ダンテ
  • カプローニ=ウェルギリウス
  • 菜穂子=ベアトリーチェ

 

という図式だったのです。

つまり、当初予定されていた風立ちぬのラストは

人殺しの道具を作り続けたカプローニと二郎が天国にいる菜穂子から救済を与えられるというシーンだったわけです。

 

なぜ、ラストシーンは変更されたのか

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ここまで考えて作りこんだシーンをなぜ宮崎監督はボツにしてしまったのでしょうか。

その理由が鈴木敏夫プロデューサーの口から語られています。

鈴木「だけど三人とも死んでいて、それで、『来て』といって、そっちのほうへ行く前に、ワインを飲んでおこうかっていうラストをもしやっていたら、それ、誰も描いたことがないもので。

日本人の死生観と違うんですよ。そこが面白い。

要するに、これは高畑さんなんかもしきりにいっているんだけど、日本人の死生観って西洋と違って、いつもそばにいて死んだ人が見守ってくれているわけでしょ。ということは、『来て』じゃない。それが日本人だった。

(〜略〜)だから、最初の宮さんが考えたラストをやっていたら、どう思われたんだろうかと」

とのこと。

つまり、宮崎駿の考えたラストシーンは「日本人の死生観に合わない」という判断が下されたのですね。

 

風立ちぬ最後の結末の意味をネタバレ。鈴木敏夫によるラストシーンの解説

ちなみに次郎役を務めた庵野秀明監督は変更されたラストを歓迎していたそうです。

直木賞作家である朝井リョウ先生も現在のラストが良いと肯定しています。

ただ鈴木プロデューサー自体は公開してからも、悩んでおられるそうで、

「何が正しかったのかわからない」とこぼしています。

 

  • 誰にも理解されない可能性がある衝撃的なラスト(ボツver.)
  • 日本人になじみのある世界観で終わるラスト(完成ver.)

 

あなたなら、どちらを選ぶでしょうか。

是非、今一度ラストシーンを見返して、思いを馳せてみてください。

以上、風立ちぬ最後の結末の意味をネタバレ。鈴木敏夫によるラストシーンの解説でした。

 

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