【超大物】日本のギリシア哲学研究者の系譜
最初に簡単にまとめると、以下です。
- 戦前~戦後の2頭巨人:田中美知太郎・出隆の両先生
- 戦後の3大英雄:井上忠・加藤信朗・松永雄二の諸先生
- 現役の最高神:納富信留先生
すっごく簡略化しています。もちろん、その他にも大勢の素晴らしい業績を残されている学者様がいらっしゃいます。
いま名前を↑で挙げた方々も、その名前の挙がってない学者さんの研究抜きには、偉大な業績を為し得ませんでした。
【超大物】日本のギリシア哲学研究者の系譜
戦前の2頭巨人:田中美知太郎・出隆諸先生
戦後の3大英雄:井上忠・加藤信朗・松永雄二諸先生
現役の最高神 :納富信留先生
特に井上忠先生と松永雄二先生の著書は激ムズで一般には知られにくい本ですが、超天才だと思います。— Master Neeton@哲学の高等遊民 (@MNeeton) December 31, 2017
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戦前~戦後のギリシア哲学研究:ギリシャ語原典から直接翻訳した全集の完成
田中美知太郎と出隆は、古代ギリシャ語の原典からプラトンアリストテレスの翻訳を完成させた世代です。
それまでは重訳が主。(正確には木村鷹太郎などいますが)。
でも戦前~戦後にかけて、現在のギリシャ哲学研究の礎をきずいたのがこの2人です。
など今でも読まれます。
岩波書店から出ているプラトン全集やアリストテレス全集が完成したのが1970年代でした。
そうした編集の中心人物が、このお二人だったんですね。
間違いなく、この2人を軸にして、戦後のギリシア哲学研究は発展していきました。
1980年代以降のギリシア哲学研究:世界でも有数の際立った業績を上げた人物を輩出
戦後の3大英雄:井上忠・加藤信朗・松永雄二の諸先生
まず、井上忠先生と松永雄二先生の著書は激ムズ;
一般には知られにくい本ですが、超天才だと思います。
井上忠先生は、アリストテレス研究が軸ですが、なんといってもパルメニデス研究です。
パルメニデスは詩文で哲学をした人ですが、なんとその序文を七五調で翻訳するという戯れをしています。
レベル高すぎ&分析・解釈のオリジナリティがありすぎて、誰もその後の研究をフォローできない状態です。
唯一、この井上忠『パルメニデス』を解説してくれているのが、以下でも紹介する納富信留氏です。
講談社選書メチエの哲学史シリーズの1章で、井上パルメニデスを紹介しています。
西洋哲学史 1 「ある」の衝撃からはじまる (講談社選書メチエ)
加藤信朗先生は『初期プラトン哲学』というとんでもなく勉強になる研究書を書いてくださいました。
アリストテレス全集で『ニコマコス倫理学』の翻訳を担当しましたが、訳語が独特なのが特徴的。
解釈の多様性やギリシャ語の広がりを学ぶのにもすごく参考になります。
加藤信朗先生の『初期プラトン哲学』は神です。
プラトンの解説書に興味がある方には、とってもおすすめです。
「対話篇の読み方そのもの」をすごく詳しく教えてくれます。
初期プラトン哲学についての本は日本には他に類書がないですよね。本当に貴重です。なのに、なかなか手に入らない・・・泣
頂いたご感想↑↑
確かに、ないかもしれませんね。
少なくとも加藤信朗『初期プラトン哲学』ほど面白い本はないと思います。
わたしは図書館で何度も借りてましたが、最終的にamazonで手に入れました(自慢)
ということで、自慢↓↓
ついでに自慢↓↓
松永雄二先生はイメージ的には白羽取りの達人の侍みたいな感じ。プラトン全集の『パイドン』翻訳と注釈はとてつもなく面白いです。あまりにすごすぎて、ほかの翻訳をお勧めできません。
『パイドン』は岩波文庫のがあるから、全集はいいかと思っていたのですが、それなら、入手を検討してみます。訳註と解説が豊富なのは全集版の嬉しいところですよね。『パイドン』ももう少ししたら読み返す予定なので、その時に参照させていただきます!
頂いたご感想↑↑
私も全然専門家じゃないしギリシャ語も全然知らないので、何が違うんだよと言われると、はっきりは分かりません。でもなんか違うんですよね。
松永雄二訳は、日本語として素晴らしいんです。
やわらかいのに正確で、しかも古代ギリシアの異質なニュアンスがしっかり伝わる気がします。
そして『知と不知』という研究書。激ムズですが、パイドン~国家あたりのプラトンの魂論など神すぎて窒息します。
しかも『知と不知』ですが、amazonでも高すぎです。2018年1月現在で、30000円。
これ、相場的だけでいったら、2万円以下(10000円台)になったら普通に買いです。
いや、明らかに高すぎですが、もう相場的には格安なんです。
10年ほど前は5000円~8000円くらいだったんですけどねえ。
なので、図書館から取り寄せるのが現実的です。
地元の図書館になくても、大丈夫。かならずどこかから図書館の人が取り寄せて、貸してくれます。
オンデマンドで出してほしい・・・。
2000年代以降のギリシア哲学研究:現役教授世代の活躍
納富信留先生は、現役世代で一番熱いギリシア哲学研究者だと思います。
どんな本でも、序文が面白すぎ。
たとえば『ソフィストとは誰か?』(ちくま学芸文庫)という本では
「ソフィストとは自らの存在を隠すことを本領とする。彼らの重大性が隠蔽された現代哲学史はすなわちソフィストの勝利の歴史である」と宣言します!
納富氏については、いつの間にか数記事、当ブログでもご紹介していました。
当ブログの納富信留氏についての記事
納富信留氏の大きな業績は、ソフィスト研究です。プラトン『ソフィスト』という作品についての研究書は、国内・海外問わず、納富氏の著作ただ1冊しかありません。
『ソフィストと哲学者の間』という本です。
当時アテナイではソクラテスはソフィストの1人だと思われていました。しかしプラトンは違うと考えました。ソクラテスの死を受け「彼はソフィストではなく、哲学者だ」と。では「ソフィストと哲学者とは、何が違うのか?果たして区別できるのか?」それが『ソフィスト』という作品の問題意識です。
プラトンの『ソフィスト』とは、プラトン全集でいう『ソピステス』のことです。翻訳はこれしかありません(全集3巻)。しかも内容としても、超難しいです。
とんでもなく難しくて、正直読んでるのはツライです。
読み終わっても「なんだっけなあ」となってしまいます(笑)
ゴルギアスやパイドロスみたいに爆笑したり感動したりしながらは読めません。
私なんかでは全く歯が立ちませんが、納富氏の研究書『ソフィストと哲学者の間』が大きな助けになります。分厚いですが、とても面白いです。
もし誰かに「尊敬する人はいますか?」と聞かれたら「ギリシア哲学者の納富信留氏です」だと答えます。「なぜですか?」と聞かれたら「98年に出た『クリティアス:プラトン政治哲学の原点』という論文は、それまで分断していたギリシア哲学と歴史学の研究成果を融合させた傑作だからです」と答えます。
しかもその論文は公開されてます。それまで無根拠に常識化されていたクリティアス=悪人像を決定的に覆しました。そしてタイトルが示す通り、プラトン自身の内面に迫るすごい業績です。「プラトンの政治哲学はクリティアスの屍を乗り越えるべく、ここに始まった」熱すぎる…!
納富信留氏の翻訳で、『ソクラテスの弁明』も読めます。
しかも、amazonの読み放題サービスなら、無料で読めます。
この機会にぜひkindle電子書籍デビューしてみてください。スマホでも全然読みやすいですよ。
まとめ:ギリシア哲学研究者を知るなら『プラトン理想国の現在』がおすすめです
日本のギリシア哲学研究史に関心のある方には納富信留『理想国の現在』をおすすめします。
プラトン研究・特に翻訳史などがたいへん詳しく書かれています。
単なる一般向けの哲学書の枠を超えて「プラトンに人生をささげた男たちのドキュメンタリー」が味わえます。日曜9時でドラマ化すべきです。