プラトン翻訳おすすめ文庫版は?│ゴルギアスからティマイオスまで




プラトンの主要著作についておすすめの翻訳作品をご紹介いたします。

以前、アリストテレスの作品で同じようなことをしました。

(関連記事)アリストテレス著作と入門書まとめ~政治学から形而上学まで

アリストテレスよりもプラトンの方が哲学書としては圧倒的に読みやすいです。
(対話篇なのでドラマ仕立てでおもしろい)

にもかかわらず、プラトンの作品は、意外に翻訳のバリエーションが少ないのです。

プラトンの作品は全体で30ほどあります。

そのうち岩波書店の『プラトン全集』でしか読めない作品が3分の2くらい(!)

文庫本にもなっているような作品は、意外に少ないんですね。

この記事ではプラトンの主な著作の中から、おすすめの翻訳をご紹介します。

『ソクラテスの弁明』最新の納富信留訳が絶対的おすすめ

プラトンの著作の中でも、最も翻訳が多いのはこの『ソクラテスの弁明』です。

プラトンが最初に書いた哲学作品とも伝えられています。
ソクラテス裁判の様子が克明に描かれています。
ドラマ性があり、分量としても短いので、読みやすいと人気があるのでしょう。

『ソクラテスの弁明』は大正時代以降、非常な人気を持って迎えられました。
(プラトンよりも、ソクラテスの方が人気があるんですね。)

そんなソクラテスの弁明。
対話編の作品としては、非常に「修辞的な技巧」の凝らされた作品です。

直後の対応編とされる『クリトン』とは比べ物にならないほど、あらゆるレトリックが使われています。
(ちなみにクリトンは、とてつもなく短くて、さらに読みやすいです。)

『ソクラテスの弁明』はソフィストの時代、古典ギリシア語の精髄が集められた作品とも評価できます。

「古典ギリシア語のレトリックを学びたかったら、まずはソクラテスの弁明を読めばいい」

これくらいに言っても過言ではないほどです。

そんな『ソクラテスの弁明』。
おすすめの翻訳は「光文社古典新訳文庫の納富信留訳」です。

特徴は

  • 2017年現在最新の翻訳
  • 解説・注釈が充実(全集をしのぐほど)
  • 学者が優秀(笑)

さらには『ソクラテスの弁明』で言われるいわゆる「無知の知」
これが誤りであるということを納富氏は非常に丁寧に解説しています。

「無知の知は誤解である」
という理解を広めるためにも、この作品が広く読まれる事を個人的には期待しています。

(関連記事)無知の知の使い方は全て誤解!ソクラテスの伝えた本当の意味とは?

反対にお勧めできないのは?

うーむ。岩波文庫。久保勉(くぼまさる)訳です。

これは大正時代の翻訳がそのまま利用されています。

学術的にも、日本語的にも、あまりにも古すぎるので全くお勧めできません。

ただし、単純に

「大正教養主義時代の文体の格調を味わいたい」

こんなときは、楽しいのでおすすめです。

一方、読書感想文やレポートなどで『ソクラテスの弁明』読む必要がある。

そんな時に、この岩波文庫版を選んではいけません。

難しい上に、誤訳の可能性がいくつもある。
労多くして益少なしです。

『ゴルギアス』はじめて読む哲学書にも最適

ゴルギアスはプラトンを初めて読む方に「一番初めに読んでいただきたい作品」です。

これほど面白い作品はありません。

プラトンといえば、つい『ソクラテスの弁明』から手を出しがちですよね。

ですが、ソクラテスの弁明。
ぶっちゃけそこまで面白くはありません。
いやおもしろいのですが、裁判の背景とか分かってないと、楽しめないかも。

要するに、ソクラテスの弁明を楽しく読むには、前提となる歴史的知識が少々必要なのです。

その知識に関しては、こちらの記事をご覧頂ければ、100%補完できます。

(関連記事)

【ソクラテスの弁明の要約と解説】裁判の背景を知れば対話篇が10倍面白くなる

【ソクラテスの弁明の要約と解説】裁判員から見た哲学者の姿とは?

さて一方でゴルギアス。

全く予備知識なんかいりません。

ゴルギアスが当時超エラいソフィストだった。

これだけ知っとけばOK。
今で言うと誰ですかね。
マジでエラい長老様みたいな。
人間国宝のおじいさまみたいなイメージです。

このような大変面白い筋立てになっています。

初期の作品の中ではかなり分量が多い方です。
でもそんなこと忘れて、スラスラとのめり込むように読めるでしょう。

それで関心を持った点に合わせて次の作品に進むことも出来るのです。

そのあたりは、こちらの記事で詳しくご紹介しました。

(関連記事)【プラトン読書案内】血気盛んな東大哲学科教授のおすすめ本はコレだ!

ということで、ゴルギアスは大変にお勧めです。

しかも翻訳は岩波文庫だけ。迷う余地なし。

プラトン全集と同じ学者の翻訳です。
(もう1種類くらいあっても良いと思うのですが)

現在では岩波文庫一択なので、ぜひ手に取ってみてください。

ゴルギアス岩波文庫

『パイドン』魂の不死とイデア論は、全集の松永雄二翻訳で読もう

プラトンの著作の中でも、非常に重要な位置を占めているのが、この『パイドン』です。

魂の不死・イデア論について、詳細に語られた作品です。

しかも舞台がソクラテスが毒杯を仰ぐ日。
なんともドラマチックな設定になっています。

これも翻訳がいくつか出ています。

  • 岩波文庫
  • 世界の名著版
  • プラトン全集
  • 西洋古典叢書(京都大学学術出版会)

最もお勧めできる翻訳は『プラトン全集第1巻』に収録された松永雄二訳です。

翻訳・解説の質量ともに、圧倒的です。

年代的には「岩波文庫」「西洋古典叢書」などの方が新しい翻訳です。

しかし、全集に収録された翻訳の方が優れていると思われます。
(なんか訳語の選択などが非常にしっかりしている)

とはいえ、全集の翻訳は、なかなか読むことができませんね。
バラで全集を買うのもアレですし、かと言って全集を買うのは勇気がいります。

なので、岩波文庫が現実的かもしれません。

ただし、「プラトン全集の翻訳の方が出来が良い」ということを
なんとなく頭の片隅に入れておく。

その上で岩波文庫などを読んでみると良いでしょう。
それで興味がわけば、図書館などでプラトン全集を紐解いてみることをおすすめします。

※余談

私は開放されたお寺の静かな庭園で、午後の昼下がり『パイドン』を読んでいた記憶があります。

まさに『パイドロス』の舞台設定が「河のほとりのプラタナスの木かげの下での対話」であったように、
私もまたそよ風気持ち良い静かな都心のお寺で、1人『パイドン』を読んでいたのです。(自己満足)

東京タワーのそばにある神谷町光明寺というお寺でした。
一般開放されていて、本堂前にテラスがあり、ビジネスマンの憩いの場にもなっているのですよ。

『饗宴』はようやく出た光文社古典新訳文庫(中澤務訳)で読もう

『饗宴』は文学と哲学のあいのこの様な作品です。

「プラトンを物語文学として読みたい」

こんな関心を持つ方にとっては、饗宴が一番面白い作品だと思います。

翻訳は

  • 岩波文庫
  • 世界の名著=プラトン全集
  • 光文社古典新訳文庫

があります。

例によって岩波文庫は、古い!
話になりません。

次の世界の名著=プラトン全集は、同じ翻訳(鈴木照雄訳)。
これも古い。目立って優れた特徴もないように思えます。

ということで、これは光文社古典新訳文庫、中澤務訳をおすすめしたく存じます。

アルキビアデスの乱入シーンなど、ドラマチックな感情がよく伝わってきます。

饗宴の要約と解説は、こちらをどうぞ。

(関連記事)【プラトン『饗宴』要約と解説】哲学と文学が融合する対話篇の真骨頂

ちなみになのですが、

プラトンとかニーチェに関しては

  • 哲学者畑の翻訳
  • 文学者畑の翻訳

という両面が考えられます。

まあ、プラトンの場合は95%哲学者畑なのですが、
(たまにギリシャローマ古典文学研究者が翻訳することはあります。)

ニーチェのときは、もっと顕著。

  • ドイツ哲学研究者の翻訳か?
  • ドイツ文学研究者の翻訳か?

という違いがあります。

この辺りも注意して、あなたの関心にあった翻訳を意識すると、より良い選択ができます。

『ティマイオス』『クリティアス』などの後期作品は岸見一郎の新訳が読みやすい

プラトン全集以外で読める作品。
ほとんどは、いわゆる

  • プラトン前期の作品(結末がアポリアで終わり)
  • 中期の作品(イデア論や国家論など積極的な主張がなされる)

です。プラトンの後期作品と言われる作品については、ほとんどがプラトン全集でしか読めません。

たとえば後期作品の例としてはこんな作品。

  • パルメニデス
  • ピレボス
  • ソピステス(ソフィスト)
  • ポリティコス(政治家)
  • ティマイオス
  • クリティアス
  • 法律

聴いたこともない作品が多いのではないでしょうか?

あ、『法律』だけは、岩波文庫化されていますね。

でも、なぜ文庫にならないのか?

理由はかんたん。

  • ソクラテスが目立たない
  • 難しくて、おもしろくない
  • 哲学科の学生や研究者しか読まない
  • よって、売れない

残念です。

しかし最近、朗報があります。

プラトンの後期作品。
特に宇宙論に関わる作品の翻訳が、単行本で出ました。

それが岸見一郎氏が訳した本です。
岸見一郎氏はアドラー心理学の『嫌われる勇気』で有名なかたです。
本業はギリシア哲学者なのです。

それについては、こちら。

(関連記事)『嫌われる勇気』の岸見一郎氏はギリシア哲学研究者なので実績を調べてみた

  • ティマイオス
  • クリティアス

は、とんでもなく重要な作品です。

今でこそ、プラトンの主著といえば『国家』です。
しかし、そんなの最近のはなし。

ほんの100年200年前から、
「国家って作品、重要だよね」と言われだしたにすぎません。

プラトンは読み継がれて2400年。
その前までは、『ティマイオス』がダントツで読まれていました。

中世の時代、キリスト教があらゆる異教の作品を駆逐した時代でも、ティマイオスは読まれていました。

という、プラトン宇宙論の非常に重要な作品。
入手しやすい形で翻訳していただいたことは、とても貴重な業績であると思います。

(とはいえ、ムズいです。)

岸見一郎訳『ティマイオス・クリティアス』

まとめ プラトン翻訳は光文社古典新訳文庫がおすすめ


プラトン主要著作のおすすめ翻訳をご紹介しました。

基本的には、

  • 翻訳は新しい方が、すぐれている(優れてなかったら訳し直す意味がない)
  • 翻訳者のプロフィールから、訳の特徴を推測できる(文学畑か?哲学畑か?職業翻訳家か?好事家か?)

参考になれば、幸いです。

(関連記事)プラトン作品の前期中期後期の分け方とは?