内村鑑三『後世への最大遺物』をあっさり解説

      2017/01/20

内村鑑三『後世への最大遺物』

明治期のキリスト教系思想家である内村鑑三の講演録『後世への最大遺物』。岩波文庫で、とても薄い。300円くらいです。

一人ひとりが後世へ何が遺せるかという主題の講演でして、話の筋書き・構造がとてもよくできています。

 

後世への4つの遺物

内村鑑三は、後世への遺物として順々に4つ挙げています。

 

1.金

2.事業

3.思想

4.高尚な生涯

 

別にこれは最初にいっぺんにリストアップしているのではなく、一つずつ語っていきます。

 

遺物1 お金

まずお金だと。何をするにも金がいる。だから金が残せることは何よりいいことだと。「皆さん、金を残しなさい」と堂々と言います。

キリスト教徒ですよ。内村鑑三は。「金持ちが天国へ入ることは、ラクダが針の穴を通るよりも難しい。」のキリスト教ですよ。

それが堂々と、金をためろ・金を残せ、と。この現実感覚。

「ラクダがどうの」っていうのはジョークでもなんでもなくて、金持ちは天国に入れないって言ってるんです。これがどれほど衝撃的な発言かということは想像に難くありません。

 

遺物2 事業

ただし金をためるには、才能が必要です。金のない人はどうするか。次に事業です。金を使う側になって、事業をすると。

ただ事業も、地位や境遇に恵まれないと実行できません。

こんなふうに、遺物を挙げていくものの、難題にぶつかり、その妥協案として次の遺物を挙げるという構造になっています。

金→才能が必要→事業→地位が必要→思想・・・というように。

 

遺物3 思想

思想はお金や事業より下なんです。こういうあたりも、この講演のおもしろいところです。

お金や事業はあの世に持って帰れないと、宗教的な文脈ではよく言われたりしますよね。

でも、鑑三は、後世への遺物という点では、持って帰れないものの方が大事だと考えているわけです。

遺物としての思想ですが、ここでは作家か教師、ものを書くか、教えるかすることを意味します。

これは鑑三曰く、誰でもなれるというのですが、みんなが書生になったら社会が破綻するという冗談めいた欠点を挙げます。

 

遺物4 高尚な生涯

こんなふうにどんどん妥協していって、最後に挙がるのが、高尚な生涯です。なんか急に抽象的になりますね。

ところがこの抽象的な、高尚な生涯こそ、最大遺物であると鑑三は主張します。なぜか。

 

第一に、誰でもどんな境遇でも、遺すことができるから。

第二に、有害にはなりえないから。というのも、金や事業や思想は害をもたらすことがあるからですね。

第三に、後世の人々の生き方に最も影響を与えるから。

 

金もない、事業もできない、思想も書けない、そんな憐れなわたしはどうしたらいいの?

これは内村鑑三の時代の人々にも、後世の我々にも共通の苦悩です。

こんな最低な気分を鑑三は次の漢詩で表現します。

 

「我死骨即朽、青史亦無名」

(私は死に、骨も朽ち果てても、歴史に名は残らない)

 

まとめ

内村鑑三『後世への最大遺物』

(クリックで拡大)

この苦悩と煩悶を味わったあと、それを覆し、最大遺物が出てきます。

そして高尚な生涯を送るというそのことは、自分にもできることであると。

この逆転。下降して下降して、下降したその地底で、何もできない自分が、実は最大の遺物を残す機会に与かっているということです。

この語りの形式が、聴衆や読者に感銘を与え、私たちの心を動かす力を持っていると言えます。

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