中原中也「汚れっちまった悲しみに」の意味と鑑賞

      2017/03/01

中原中也

 

処女詩集『山羊の歌』に収録された1篇

昭和の詩人、中原中也の最も有名な歌と言えば「汚れっちまった悲しみに」でしょう。

これは処女詩集『山羊の歌』(昭和9年出版)に収録された作品です。

中原中也は夭逝したため、生涯で詩集は2つだけしか出版されていません。

それがこの『山羊の歌』と、もう一つは、中也の死後出版された『在りし日の歌』です。

(関連記事)中原中也詩集『山羊の歌』と『在りし日の歌』を読む

 

中原中也の詩作の特徴とは

中原中也の詩風の特徴は多くあります。たとえば、

  • 恋愛詩:恋の苦しみの告白
  • 述志詩:生の理想を歌う信条告白(大岡昇平の評論)
  • 歌謡調・童謡調:反復が多くリズムの良い、親しみやすい形式

というような特徴があります。

「汚れっちまった悲しみに」は、上記3つのうちの、恋愛詩と歌謡調を内包する作品であると言えます。

汚れつちまつた悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れつちまつた悲しみに
今日も風さへ吹きすぎる

汚れつちまつた悲しみは
たとへば狐の革裘かはごろも
汚れつちまつた悲しみは
小雪のかかつてちぢこまる

汚れつちまつた悲しみは
なにのぞむなくねがふなく
汚れつちまつた悲しみは
倦怠けだいのうちに死を夢む

汚れつちまつた悲しみに
いたいたしくも怖気おぢけづき
汚れつちまつた悲しみに
なすところもなく日は暮れる……

出典:中原中也『山羊の歌』(青空文庫)

 

「汚れっちまった悲しみに」の解読

「汚れっちまった悲しみに」の形式は、4連16行です。

1行ごとに「汚れつちまつた悲しみ」を反復すること(=畳句、じょうく)で、リズミカルで暗唱しやすい調子を整えています。

 

この詩の生命は、もちろんこ8回も反復された「汚れつちまつた悲しみ」にあるのですが、その間にある詩句の意味も、考えてみたいと思います。

 

1連ごとに考えましょう。

汚れつちまつた悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れつちまつた悲しみに
今日も風さへ吹きすぎる

「小雪」「風」と自然の冷たさや寒さを表して、悲しみを表現しています。

そしてそれを「今日も」ということで、その悲しみの現在性・リアルタイムでの悲しみであることが読み取れます。

 

汚れつちまつた悲しみは
たとへば狐の革裘かはごろも
汚れつちまつた悲しみは
小雪のかかつてちぢこまる

狐の革衣とは、貴重なものの意味です。古代中国の戦国時代、白い狐の革衣は、第一級の高級品だったそう。ミンクのコートみたいなもんですか。

特別に書いてありませんが、「白い」狐の革衣のように貴重なものを「汚れる」ことによって失ってしまった、という意味であると推測されます。

しかも「皮」ではなく「革」。「革」とはなめした皮です。つまり、狐の白い毛が抜けてしまっている状態を指します。

 

汚れつちまつた悲しみは
なにのぞむなくねがふなく
汚れつちまつた悲しみは
倦怠けだいのうちに死を夢む

第3連に至って、内面の心情を歌います。(それまでは自然の冷たさや、比喩)

倦怠(ケダイ)とは、倦怠(けんたい)と懈怠(けたい)を重ねた表現と言われています。

倦怠とは飽きること、懈怠とは行為をなまけることです。

そして何を望みもせず、死を望むのでもなく、死を夢みている状態。

 

汚れつちまつた悲しみに
いたいたしくも怖気おぢけづき
汚れつちまつた悲しみに
なすところもなく日は暮れる……

最後の第4連において、詩中の人物の内面の心情と、外界の現実との交錯点が現れます。

自らの倦怠に怖気づいたのか、あるいは「夢みた死」に怖気づいたのか。

いかに自己の内面に沈潜した人物であろうが、どうしても外界の時間は経過する。そして夕暮れは彼に容赦なく影響を与えてきます。

 

「日暮れ」をある種の救いと受け取るのか、それともやはり悲しみの亜種と受け取るのか、解釈が分かれるところでしょうか。

「そんなもの救いなわけないだろ」と思うかもしれませんが、救いと解釈する根拠も、一応あるのです。

 

日暮れ・夕方についての、中也の一節

この日暮れや夕方については、『山羊の歌』の最後の詩である「いのちの声」にも言及があります。

 

ゆふがた、空の下で、身一点に感じられれば、万事に於て文句はないのだ。

 

しかもこれは、「いのちの声」の最終行。

『山羊の歌』最終詩作品の最終行において、「汚れっちまった悲しみに」の最終行における「日は暮れる」と親和性のある句が現れています。

 

「身一点に感じる」を正確に解釈する必要はありますが、「なすところもなく日は暮れる」と同一視はできなくとも、類似性は明らかです。

 

小雪が降りかかっているのだから、空の下にもいます。

「汚れっちまった」ことをこんなに嘆いているのに、文句ないわけないだろ! という解釈はもちろん正当ですが(笑)、こんな風にも素人解釈もできるという一例まで。

 

「汚れっちまった悲しみに」くらい暗記したい

詩を暗記・暗唱できることは、重要なことでしょう。

詩は、声に出して読まれることが、本来的なあり方ですし、特に中原中也の歌謡調・童謡調とも言える小気味よいリズミカルな詩は、絶対に声に出すべきです。

七五調だし、暗記もしやすいので、覚えてしまうといいでしょう

 

暗記のコツ

1連4行×4セットに分類して、1連ごとにキーワードを覚えておく。

  • 1連は冷たい自然「小雪」「風」
  • 2連は比喩。「かわごろも」を思い出せばいける。
  • 3連は内面。望みなく「死を夢む」
  • 4連は外界との交錯。「怖気づく」「日は暮れる」

2分もあればとりあえず覚えられるでしょう。

そして1日3回くらい思い出す時間を作れば、楽勝です。

 

 

 

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