中原中也「汚れっちまった悲しみに」の意味と鑑賞

中原中也




昭和の詩人、中原中也の最も有名な歌と言えば「汚れっちまった悲しみに」でしょう。

これは処女詩集『山羊の歌』(昭和9年出版)に収録された作品です。

中原中也は夭逝したため、生涯で詩集は2つだけしか出版されていません。

それがこの『山羊の歌』。

もう一つは、中也の死後出版された『在りし日の歌』です。

 

中原中也の詩作には「3つの特徴」がある

中原中也の詩風の特徴は多くあります。たとえば、

  • 恋愛詩:恋の苦しみの告白
  • 述志詩:生の理想を歌う信条告白(大岡昇平の評論)
  • 歌謡調・童謡調:反復が多くリズムの良い、親しみやすい形式

というような特徴があります。

ちなみに大岡昇平の恋愛小説も、おもしろいですよ。

(関連記事)大岡昇平『武蔵野夫人』は貞淑な妻が夫以外の男性を恋してしまう話

「汚れっちまった悲しみに」は、上記3つのうち。
「恋愛詩と歌謡調」を内包する作品であると言えます。

汚れつちまつた悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れつちまつた悲しみに
今日も風さへ吹きすぎる
 
汚れつちまつた悲しみは
たとへば狐の革裘かはごろも
汚れつちまつた悲しみは
小雪のかかつてちぢこまる
 
汚れつちまつた悲しみは
なにのぞむなくねがふなく
汚れつちまつた悲しみは
倦怠けだいのうちに死を夢む
 
汚れつちまつた悲しみに
いたいたしくも怖気おぢけづき
汚れつちまつた悲しみに
なすところもなく日は暮れる……

 

【近代日本の天才詩人】中原中也詩集『山羊の歌』と『在りし日の歌』を読む

2017.01.16

 

「汚れっちまった悲しみに」を1行ずつ解読する

「汚れっちまった悲しみに」の形式は、4連16行です。

1行ごとに「汚れつちまつた悲しみ」を反復。(=畳句、じょうく)

リズミカルで暗唱しやすい調子を整えています。

 

この詩の生命は、もちろんこの「8回も反復」された「汚れつちまつた悲しみ」にあります。

しかし、その間にある詩句の意味も、考えてみたいと思います。

 

第1連

1連ごとに考えましょう。

汚れつちまつた悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れつちまつた悲しみに
今日も風さへ吹きすぎる

「小雪」「風」と自然の冷たさや寒さ。

悲しみを表現しています。

そしてそれを「今日も」という。

悲しみの現在性・リアルタイムでの悲しみであることが読み取れます。

 

第2連

汚れつちまつた悲しみは
たとへば狐の革裘かはごろも
汚れつちまつた悲しみは
小雪のかかつてちぢこまる

狐の革衣とは、貴重なものの意味です。

古代中国の戦国時代、白い狐の革衣は、第一級の高級品だったそう。ミンクのコートみたいなもんですか。

特別に書いてありませんが、

「白い」狐の革衣のように貴重なものを「汚れる」ことによって失ってしまった

という意味であると推測されます。

しかも「皮」ではなく「革」。

「革」とはなめした皮です。

つまり、「狐の白い毛が抜けてしまっている状態」を指します。

 

第3連

汚れつちまつた悲しみは
なにのぞむなくねがふなく
汚れつちまつた悲しみは
倦怠けだいのうちに死を夢む

第3連に至って、内面の心情を歌います。

それまでは自然の冷たさや、比喩でしたね。

倦怠(ケダイ)とは、倦怠(けんたい)と懈怠(けたい)を重ねた表現と言われています。

倦怠とは飽きること、懈怠とは行為をなまけることです。

そして何を望みもせず、死を望むのでもなく、死を夢みている状態。

 

第4連

汚れつちまつた悲しみに
いたいたしくも怖気おぢけづき
汚れつちまつた悲しみに
なすところもなく日は暮れる……

最後の第4連において、詩中の人物の内面の心情と、外界の現実との交錯点が現れます。

自らの倦怠に怖気づいたのか、あるいは「夢みた死」に怖気づいたのか。

いかに自己の内面に沈潜した人物であっても、どうしても外界の時間は経過する。

そして夕暮れは彼に容赦なく影響を与えてきます。

 

「日暮れ」をある種の救いと受け取るのか?

それともやはり悲しみの亜種と受け取るのか?

解釈が分かれるところでしょうか。

 

「そんなもの救いなわけないんじゃない?」

と思うかもしれません。

でも、救いと解釈する根拠もあるのです。

 

日暮れ・夕方についての、中也の一節

この日暮れや夕方という言葉。

『山羊の歌』での中也最後の詩である「いのちの声」にも言及があります。

 

ゆふがた、空の下で、身一点に感じられれば、万事に於て文句はないのだ。

 

しかもこれは、「いのちの声」の最終行。

『山羊の歌』最終詩作品の最終行です。

そこで「汚れっちまった悲しみに」の最終行における「日は暮れる」と親和性のある句が現れています。

 

「身一点に感じる」を正確に解釈する必要はあります。

しかし「なすところもなく日は暮れる」と同一視はできなくとも、類似性は明らかです。

 

小雪が降りかかっているのだから、空の下にもいます。

「汚れっちまった」ことをこんなに嘆いているのに、「文句ない」わけないだろ! 

という解釈はもちろん正当です。

こんな風にも素人解釈もできるという一例まで。

 

「汚れっちまった悲しみに」は1日2分で暗記できる

詩を暗記・暗唱できることは、重要なことでしょう。

詩は、声に出して読まれることが、本来的なあり方です。

特に中原中也の歌謡調・童謡調とも言える小気味よいリズミカルな詩。

 

「絶対に声に出すべき」です。

七五調だし、暗記もしやすいので、覚えてしまうといいでしょう

 

暗記のコツ

1連4行×4セットに分類して、1連ごとにキーワードを覚えておく。

  • 1連は冷たい自然「小雪」「風」
  • 2連は比喩。「かわごろも」を思い出せばいける。
  • 3連は内面。望みなく「死を夢む」
  • 4連は外界との交錯。「怖気づく」「日は暮れる」

2分もあればとりあえず覚えられますよ。

そして1日3回くらい思い出す時間を作れば、楽勝です。

 

3日も続ければ、すらすらと口をついて詩句が出て来るようになります。

 

寒い冬。風の強い日。

ぼそっと口ずさんでください。

 

「ああ、今日も風さえ吹きすさぶ。」

 

文学は、何の役にも立たない知識ですけれども、

寒い冬でも、あなたの心をちょっとだけ温めてくれますよ。

 

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